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第219話「久世の夜の記録」
久世が資料室を出たのは夜の十時過ぎだった。
帰り道、いつもと違う道を歩いた。理由はない。商店街を抜けて住宅街に入る。街灯の下を歩きながら、久世はイヤホンを外した。最近、音楽を聞きながら歩けなくなっていた。何かを聞き逃したくない。
公園のベンチに若い女性がいた。ノートに何か書いていた。久世には、それが自然に見えた。少し先で立ち止まった。自分も今、外でノートを開く人間だと気づいた。以前はそうじゃなかった。いつからかは分からない。
手帳を出した。「街灯の色が少し変わった気がする。去年と同じ場所の同じ街灯。確認方法なし。」
書いた後、しばらく街灯を見上げた。正確な色を覚えていなかった。記録することで初めて、記録していなかったことに気づく。
観測層:第4層 記録単位:記録者行動観測 対象個体:久世恒一
備考:記録行動が日常と統合されつつある。観測者としての自覚形成を確認。
記録主体:Archive 状態:稼働中




