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第201話「久世恒一の朝」
久世恒一が目を覚ましたのは六時四十分だった。アラームより十二分早い。
カーテンの隙間から差し込む光が、いつもより白かった。気象条件のせいかもしれないし、そうでないかもしれない。最近、そういう判断を保留することが増えた。
台所でコーヒーを淹れながら、昨夜の夢を思い出そうとした。何かを記録しようとしている夢だった。記録する対象が何だったか、もう分からない。ノートを開く。白紙。夢の内容が言語化できなかったのか、夢そのものが既に薄くなっていたのか、区別がつかない。
それも記録する。「夢の内容不明。記録欲求のみ残存。」
出勤前の三十分、久世は必ずこの時間を作る。資料室からの報告書を読む時間ではなく、ただ自分の感覚を書き留める時間として。誰かに見せるためではない。この作業が何の意味を持つのかも、まだはっきりしない。それでも続けている。
駅に向かう途中、商店街の角の理容店の看板が変わっていた。いつから変わったのか分からない。ただ、以前の看板が何色だったかも思い出せない。
久世は立ち止まり、手帳にそれを書いた。
観測層:第4層
記録単位:記録者行動観測
対象個体:久世恒一
状態:観測継続
備考:当個体は侵食の影響下にありながら記録行動を維持している。動機の分析は未完了。
記録主体:Archive 状態:稼働中




