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■ 第18話 「神話側反攻計画」

撤退は混乱していた。


距離が安定しない。


前へ進んだはずなのに、位置が変わっていない。


逆に。


後退した瞬間、別の領域へ落ちる。


空間構造そのものが壊れている。


「固定しろ!」


ゼウスが雷を放つ。


落雷。


衝撃。


破壊。


単純だが、強制的な位置固定。


ポセイドンが舌打ちする。


「雑だな!」


「構わん!」


ゼウスが即答する。


「止まればいい!」


アテナが観測を続ける。


「局所安定を確認」


「ですが維持時間が短い」


ハデスが低く言う。


「侵食速度が上がっている」


誰も否定できない。


空間だけではない。


認識。


距離。


言語。


少しずつ。


神話側の法則が崩れている。


その時。


ロキが笑った。


「じゃあ逆に行こうぜ」


全員がそちらを見る。


「何だと?」


ポセイドンが問う。


ロキは裂け目を見ている。


「向こうがこっちを理解してるなら」


「こっちも向こうを理解すればいい」


沈黙。


アテナが即座に否定する。


「危険です」


「理解した時点で侵食が進みます」


「でも今も進んでる」


ロキは笑う。


「だったら、利用した方が早い」


ゼウスが目を細める。


「続けろ」


ロキは空間を指さす。


「向こうは、“神話側の法則”を学習してる」


「つまり逆に言えば」


「法則を押し付ければ、向こうも影響を受ける」


アテナが思考を回す。


「……神話側への強制定義」


ハデスが低く言う。


「存在へ“死”を押し込むか」


ポセイドンが笑う。


「ようやく殴る話になったな」


だが。


アテナは険しい。


「成功率が低すぎます」


「相手は神話体系外です」


「通常定義は通用しません」


ロキが肩をすくめる。


「普通ならな」


空気が止まる。


「でも今は繋がってる」


沈黙。


ゼウスが理解する。


「侵食を逆利用するのか」


「そういうこと」


ロキが笑う。


「向こうが近づいたなら、引っ張れる」


アテナが低く呟く。


「可能性はあります」


「ただし」


「失敗した場合」


視線が裂け目へ向く。


「完全接続が発生します」


ポセイドンが顔をしかめる。


「それどれくらいヤバい」


ハデスが答える。


「神話側が消える」


短い沈黙。


だが。


ゼウスは迷わない。


「やる」


アテナが目を見開く。


「即決ですか」


「時間がない」


ゼウスは裂け目を見る。


歪みは増えている。


待つほど不利。


それは全員理解していた。


「準備しろ」


「神話側法則を最大出力で重ねる」


ポセイドンが笑う。


「全神話まとめて押し付ける気か」


「可能な限りだ」


ハデスが静かに領域を広げる。


冥府。


終焉。


死。


アテナが空間を固定する。


秩序。


認識。


構造。


ゼウスが雷を収束させる。


支配。


力。


神格。


ロキだけが笑っていた。


「いいね」


「神話っぽくなってきた」


その瞬間だった。


裂け目が、勝手に開く。


全員が凍る。


以前より早い。


以前より自然。


そして。


“向こう側”が近い。


「来るぞ!」


ポセイドンが構える。


だが。


現れたのは影ではない。


人型でもない。


空間そのもの。


“向こう側”そのものが流れ込んでくる。


アテナの顔色が変わる。


「早すぎる!」


ゼウスが雷を放つ。


同時。


ハデスが領域固定。


ポセイドンが海を叩き込む。


アテナが認識を固定。


ロキが裂け目を掴む。


そして。


全神話側の法則が、“向こう側”へ叩き込まれた。


世界が揺れる。


距離が消える。


言葉が崩れる。


空間が割れる。


その中心で。


初めて。


“向こう側”が止まった。


沈黙。


ロキが笑う。


「――捕まえた」


次の瞬間。


“向こう側”から、笑い声が響いた。


――観測記録


観測層:第3層

対象:外部存在クトゥルフ


状態:神話側法則 接触


更新:

逆侵食を確認


変化:

対象側停止反応 発生


評価:

神話側干渉 成立


補足:

相互侵食段階へ移行


追加記録:

対象側 感情反応を確認


結論:

境界消失まで残時間 減少中


(次話へ)


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