帰国
予定より早く帰国することになった。ダグラスへは通信鏡で連絡を取り、私の働きが十分であったことをエリオスが伝えた。
「聖母様のおかげで呪いは解けました。病状もすっかり良くなりました」
まだ痣の残る手を隠して、エリオスが作り笑いをすると、
「そうですか、それは良かった。魔女の呪いから解放されて、今は愛の虜というわけですね。ようこそ、新たな苦しみへ。同士ができて嬉しいです」
ダグラスはにっこりと妖艶に笑った。甘ったるい蜂蜜色のブロンドに、ラベンダー色の瞳。春っぽいダグラスとは対照的に、エリオスは凍りついた冬の海を思わせる。
氷の表面にヒビが入ったような笑みを浮かべて頷いた。
「ウソばっかり。まだ完治していないのに」
通信を終え、エリオスの左手を取った。
「良くなったよ。このままでいいんだ。この痣を綺麗サッパリ無くすには、君を独占して、いっそ壊したいと願うまでにならなくては駄目なんだろ。そうはなりたくない。未熟な愛のままで君を手放す」
では帰国後に個人間の通信鏡で連絡が取り合えるようにしてはどうか、ダグラスへの打診を提案したが、不要だと言われた。
「どうしても君の顔が見たくなったときには、デクスターから押収した受信鏡で君の配信を見るよ。それなら君を煩わせないで済むしな」
「煩わしくなんてないわ。ダグラスと通信するように、毎日とは言わなくてもたまにやり取りするくらいなら、どうかしら?」
直接会わなくても、通信鏡でやり取りを継続すれば、魅了の効果は持続するだろう。せっかく薄まった呪いが再び濃くならないように、抑制できればいい。
「俺のことは心配しなくていい。俺は君が心配だ。楽園へ帰るのが、君の望む幸せなんだよな? もし本当は違う望みがあって、それが叶わないと諦めているのなら、手を貸したい」
眉をひそめた。
「まどろっこしい言い方ね。例えばどういう望み?」
「例えば……誰も君を知らない異国で、自由に暮らしたいとか」
ふはっと笑った。
「無理ね。この国へ来てすぐのとき、一瞬夢見たわ。もしかしてアルディア国外では私の魅了は無効化するんじゃないかと思ったの。あなたやラウリたちに魅了が効いている感じがしなかったからよ」
絶対的な魅了があるからと派遣されてきたのに力が発揮できず、焦った。その反面、もし本当にこのまま無力でいられたなら、と期待した。
ここエクリシア帝国では特別視されず、美しい人々に見劣りして、目立たず地味に暮らしていけるのではないかと。
「でもやっぱり無理だった。どこへ行こうと、この魅了のせいで普通には暮らせない。それなら安全と快適さが確立している楽園が住みやすいわ。あそこでの暮らしはそう悪くないの。一度遊びに来れば分かるわ」
「そうか……もし君が望むなら、この城で最大限に配慮して、君の安全と快適さと自由を確立しよう。この国ではアルディアと違い、君のことが広く知れ渡っていない。なるべく人との交流を避けながらも、普通に出歩ける暮らし、というのが実現できるはすだ」
エリオスと歩いて、流行りのパントミント屋へ行ったときのことを思い出した。あのときはデクスター閣下の横槍が入ったが、それさえなければ普通に店内で飲食できていただろうか。
「私が望めば? ここでそういう風に暮らせるように、エリオスがしてくれるってこと?」




