第五十三話
いつもと変わらない1日を過ごしていたある日。ステラの補佐役として王城で仕事をしつつ、ジェフと精霊術の練習をこなしている。そんな私の元に、国王陛下から呼び出しがかかった。補佐役という立場にいる以上、珍しいことではないが、こんなに急なのは初めてだ。
ステラにひとこと断ってから使いの案内に従って行った。
「エライユ公爵令嬢様をお連れしました」
「通せ」
「失礼致します」
陛下の執務室には、陛下の他にジェフもいた。私と同じように呼び出されたのだろうか。
「突然呼びつけてすまなかった。いくつか相談があってな」
陛下はこほんと咳払いをして、早速本題へ入った。それは、国の未来を左右する重要な案件だった。
「ノーランから大精霊ディレンスの報告を聞いたのだ。半精霊である2人の決断に反対する理由もなければ権力もないが、ノーランとステラに対しては違う。彼らはこの国の未来そのものなのだ。ディレンスの加護を受けるべきかどうか、決めかねているのだよ」
さらに陛下は、ステラを害そうとし、私を危険な状態にした原因のディレンスの力をノーランたちの体に宿しても良いのか、とも仰った。
陛下の懸念はまさにその通りだと思う。敵であったディレンスの力を取り入れることで、私たちの体に悪影響が及ぶ可能性があるのではと考えるのが当然。しかし、私とジェフがこれを承諾したのにもきちんと理由がある。
「それに関して、陛下に判断の材料としていただけるであろう情報があります。ただし、フェリシアの方が力も強く、詳しく把握しているため、彼女に説明を委ねます」
ジェフは私に全てを任せた。ジェフにも話せる内容なのに任せてきたということは、その方が陛下に受け入れられやすいと判断したということだ。陛下に可愛がっていただいている自覚はあるので反対はしないが。
「これからする話は、人間でありながら半分精霊となった私たちにしか分かり得ないことです。 精霊には武・知・聖の3属性があることは広く知られています。しかし、理由は定かではありませんが私たちが持つ力には属性がありません。そして同様に、大精霊の力にも属性がないそうです。そのため、私たちが自分の力をコントロールできていて、ディレンスが大精霊であることから、同様にコントロールできると考えています」
これはピシュル様から聞いた話を踏まえた上での憶測話だ。それでも、私とジェフの間で力のやり取りが出来ることからある程度の信頼性はある。
「また、王太子殿下と妃殿下への加護についてですが、これも問題ないと私は考えています。政治的な判断を含んだ意見ではありませんので、あくまで半精霊としての立場からの意見としてお聞きいただければと思います。おふたりは、私たちの祝福を受けてその体に力を宿すことに慣れておられます。加護ではないため完全な互換性はありませんが、全く経験がないよりかは宜しいのではないでしょうか。もしもディレンスの加護を受けるという判断になった暁には、無属性の力をより受け入れやすくするために協力させていただきますわ」
以上が、今の私が陛下にお話しできる全てだ。ジェフも特に付け加え等なさそうなので、あとは陛下の判断次第となる。
「良く分かった。最終的な判断はノーランたちと話し合いながら下そうと思う。これで半精霊としての2人への質問は以上だ」
陛下は最初に、いくつか相談があると仰った。まだ何かあるはずだ。
案の定、陛下から次の相談が持ちかけられる。
「これは相談というよりも確認なのだが、褒賞の件を忘れてはいないだろうか? フェリシアが目覚めてからもう半年以上が経っている上に、2人が結婚するまでに済ませておきたいと思っているゆえ時間がかかるものなら早いうちに言っておいてもらいたいのだが…」
私たちの顔色を伺いながら仰った陛下の言葉は、尻すぼみになってしまった。それは私たちが顔を見合わせながら、そういえば! という顔をしてしまったからだ。
「大変申し訳ございません。すっかり失念しておりました」
「そうであろうと思っていた。何か希望があるのであれば、この機会に申してみよ」
ジェフは少し悩んで、1度私の顔を見てから再び陛下に向き直って言った。
「いつになるか未定ですが、私たちが結婚した際には長期休暇をいただきたいのです。フェリシアと2人で、世界を見て回ろうと考えています」
これは、私とジェフが2人で相談して決めたことだ。私たちは半精霊となったことで長い寿命を得た。それがどれほどのものなのかは誰にも分からないが、普通の人間よりは遥かに長く生きられるはず。その余るほどある時間を有効活用するためにも、1度世界を旅行したいのだ。クロサイトに帰ってきたら、得た知見を国の運営にも役立てられる。これは私たちにとっても、陛下にとっても、国にとっても利のある話である。
「それは新婚旅行ということか?」
「…えっと、そうですね。そう捉えていただいても差し支えありません」
「それならば第2の父としてかなえてやらないわけにもいかないな。ノーランたちには非難されるかもしれないが、必ず送り出してやろう」
陛下は少し笑いながら承諾してくださった。
「して、フェリシアは何かないのか?」
「1つございます。私がジェフリーと結婚をした後、引き続き王太子殿下と妃殿下の補佐役としてお仕えする許可をいただきたいと考えています」
これは、ジェフリーの希望よりも難しい話かもしれない。
クロサイトの貴族社会において、結婚後の女性が外で仕事を持つというのは前例がない。貴族家の夫人となったのならば、その家の女主人として家を守り、夫の利となるように社交に勤しむのが普通だからだ。
しかし、私は今と変わらず、ノーランとステラの補佐役を続けたいと考えている。それは、10年以上を共に過ごしてきた友人である2人を支えたいという思いゆえでもあるが、それ以上にこのクロサイトを治めることとなる2人を支えたいのだ。友人としてではなく、臣下として協力したいと願っているのだ。
「なるほどな、なかなか難しい願いだ。私が許可をすることは容易い。しかし、社交界でどのように評価されるかは分からないし、フェリシアの行動次第というところだ。それでもそうしたいと願うのか?」
「はい、決意は固いのです」
このために、アーヴァイン家からは許可を貰い、もちろんジェフにも許してもらった。
「それならば、フェリシアの願いを聞き入れるとしよう」
陛下は頷いて書類を作っておくと言ってくださった。これで、私がノーランとステラの隣に堂々と臣下として立つことができる。今はそれが何よりも嬉しくて仕方がない。




