第五十二話
それから、事に進展があったのはルピナスから帰国した後、1ヶ月が経った頃だった。突然、ピシュル様が現れたのだ。
「長らくお待たせしてしまい申し訳なかったですね」
「ご連絡をお待ちしておりました」
ちょうど4人で集まっていたタイミングだったということもあり、そのまま話し合いに入る。まずは状況と原因の説明からだ。
「私は前回、ディレンスの処罰を決めると言い残して精霊界に戻りました。あの後、私は精霊界でディレンスと相対し、今回の件について責任を取らせようと試みました」
「しかし、彼はそれを受けいれませんでした。人間たちが勝手にやった事だ、と。それでも『禁忌の毒』を作り出し、人間を殺める原因となったことに間違いはありません。看過できる人数も超えています」
「そのため私は直接対峙し、力ずくで反抗する彼を押さえ込もうとしました。腐っても同じ大精霊同士、簡単なことではありませんでしたが…」
「皆さんが祈ってくれたことで、私の力はより強くなり、彼に勝つことが出来ました。感謝します」
祈り、と言うと、ルピナスでのもののことだろうか。前に、精霊にとって人間の信仰心や祈りは力になると聞いた。私たちの祈りが、結果的にピシュル様を助けることに繋がっていたのなら、ルピナスを訪問した甲斐があったというものだ。
「私は大精霊としての力のほとんどを注ぎ込んで戦ったため、人間たちと連絡を取ることが出来ませんでした。ご心配をお掛けして申し訳なかったです」
ピシュル様の説明で、原因はよく分かった。それなら今、大精霊ディレンスはどうなっているのか。
「ピシュル様、ディレンスは今どうしているのですか?」
私の心を読んだのか、偶然か、ジェフが問うた。
「現在は私の支配する空間に閉じ込めています。大精霊とはいえ、人間を傷つけた責任は重いのです。その上で、処罰に関しては皆さんに相談をしたいことがあります」
ピシュル様は少し考えて言葉を躊躇った後、続きを口にした。
「ディレンスの力の半分を、皆さんに分け与えるという処罰を考えているのです」
「「えっ!?」」
思わず、私とステラの口から驚きが漏れてしまった。
大精霊の力を分け与えるということは、恐らく加護を与えるということだ。しかも、力の半分をということなら、かなり強力な加護となるはず。いくら敵対する関係とはいえ、大精霊からそんな強さの加護を受け取るには相当な覚悟がいる。
「ノーランとステラには加護を、ジェフリーとフェリシアには直接精霊の力として分け与えます。そのため、全員が今まで以上に能力を使用できるようになるはずです。だからこそ、相談しなければならないことがあるのですが…」
「私が懸念しているのは、力を持った4人のうち、誰かひとりだけでもが人間に反抗心を持った時、抵抗できる者はいないということです。そのような状況になった時、止められるのは精霊だけ。いざと言う時のために、精霊側からの干渉範囲を広げたいと考えています。もちろん、ディレンスにはその権限を与えません」
つまり、私たちが手に入れた力を悪い方向に使おうとした際、止める役割を精霊たちが担う。そのために精霊側が行うことの出来る干渉を今よりもしやすくするということだ。
これは、本来一定の距離が保たれる精霊と人間の関係を一気に近づけてしまう行為だ。私とジェフは半精霊であるため距離も何もあったものでは無いが、ノーランとステラは違う。一国の王とその妃となる人物が、何かに干渉を受ける存在であっていいのか、という話にもなってくるのだ。そう簡単に決められることでは無い。
「私は構いません。元々半分精霊となった身ですし、大切なものを守る力を得られるのなら、喜んで受け取ります」
すぐに決められない2人とは違い、私は比較的自由が効く立場にいる。ただでさえ半精霊というイレギュラーな身分ゆえ、あと少し特殊な力を手に入れてもそれは誤差だ。だから、私が守りたいものを守るための力を得るという選択を取る。
「僕も、その判断に従いたいと思います。使える力は多い方が良いですから。使わなくても良い日々が続くことが1番ですけれど」
ジェフも私と同様に受け入れる事にしたらしい。残るはノーランとステラだ。
「私たちは即決出来ない立場のため、1度持ち帰らせてもらいます」
ノーランの判断に、ステラは何も言わずに従った。クロサイトの次期国王として、王妃としての正しい判断だ。
「分かりました。ジェフリーとフェリシアには近いうちに力が与えられると思います。半精霊となった時よりはマシだと思いますが、多少の苦痛はあるかもしれません」
本来は人間の体に宿すべきでは無い精霊の力を得るのだから、多少の苦痛は伴って当然だろう。ただし、私は眠っている間に半精霊化が終わっていたので、苦痛というものを味わっていない。ジェフに聞けばどんなものか分かるだろうか。
「ノーランたちは、考えが決まったらまた連絡をください。待っていますから」
そう言って、ピシュル様は精霊界へと戻っていかれた。相変わらず、急に現れて急に帰るお方だ。
「まずは陛下に報告を上げて、判断を仰がなければ。どんどん問題が増えていく…」
ノーランは少し頭を抱えながら愚痴をこぼした。ルピナスに行っていた間の仕事を片付けたばかりなのに、また新たな仕事が出てきたのだから無理もないが。
「僕もできる限り手伝うから頑張ってくれ」
「もうジェフがいないと仕事が出来ないかもしれないね」
「そんなに恐ろしい事を言わないで欲しいんだが」
ノーランとジェフがいつもの掛け合いをして、また今日も1日が終わって行く。何気ない毎日が1番幸せなのだと、気がつくことが出来たから。




