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【この結婚が終わる時】外伝 木蓮の花が咲く頃に  作者: ねここ


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契りの日

 それから三日後、モーリスが訪ねてきた。

 

「ミコト様、明後日ジョルジュ様との約束の日でございます。その日はジョルジュ様が用意されたお部屋へご案内いたしますので夕食後入浴を済ませ、こちらの衣に着替えお待ちください」

 

 ミコトはモーリスの言葉に複雑な心境を抱きながら黙って頷いた。

 モーリスは何も言わないミコトが気になったが、もともと話す方ではないと解釈し、頭を下げ部屋を出ていった。

 

 ミコトはテーブルに置かれた衣を見た。真っ白な衣装。生贄のような衣装。

 

 (ある意味で生贄だわ。求められているものは心ではないから)


 ミコトは曇る心から目を背けるように衣装から目を逸らし、柊を見た。

 柊はベットの上で眠っている。ドラゴンは一日の大半を眠って過ごす。まるで猫のようだ。


 毎日一緒に過ごしている柊はペットというよりも、自分の一部のような存在。生まれてまもない柊を守ってあげなければと、甲斐甲斐しく世話をする。まだ幼い柊は体温調整ができず出かける時は服の中に入れ散歩する。一人でいる時は寒いかもしれないと心配し、シーツでポンチョを作ってあげた。そこに小さな苺の絵も描いた。

 柊は日に日に大きくなるが、ミコトの前では小さいまま。魔法で体の大きさを調整しているのだ。

 

 そんな柊との日々は穏やかで優しい時間が流れる。守っているようで時々守られているよう。常にミコトに寄り添ってくれる大切なドラゴン。立派なドラゴンに成長してほしいと願う。そのためにジョルジュと契りを結び、ジョルジュから受け取った魔力を柊に渡す。これも柊にとって大切なことだ。


 ミコトはジョルジュとの契りを前向きに捉え始めていた。


(ジョルジュ様との契り。これは使命。何一つ感情を抱かないようにしなければ)

 

約束の日、ミコトは柊を小さなベットに寝かせ神殿をでた。


 城に入ると侍女が待っておりミコトを部屋に案内する。夜遅く、シーンとした城の中。薄暗い通路には蝋燭が灯っている。柔らかい光は幻想的に揺れる。

 

「今夜ジョルジュ様はいらっしゃらないの?」

 

 静かな通路に女性の声が響いた。前を歩く侍女は時に気にする様子なく歩みも止めない。ミコトは薄暗い廊下の先、蝋燭の明かりに浮かび上がる女性を見た。

 

 真っ白な肌に赤い髪、グリーンの瞳は情熱を表すかのように燃えて見えた。ドキッとするほど美しくも妖しい雰囲気の女性にミコトは息を呑んだ。


(綺麗な女性……先ほどジョルジュ様はいないのかと聞いていた……)

 

「あら? 今日聖女様とお約束の日なのね。それはご苦労様でございます。あ、そこの、」

 

 その女はミコトに頭を下げ、案内する侍女に声をかける。

 

「ジョルジュ様に伝言をお願いするわ。この後必要でしたらお待ちしてますとお伝えして」

 

 女はそう言って去っていった。侍女は女に頭を下げ、また歩き出す。


 ミコトはその言葉と取り繕う気もない侍女の態度にショックを受けた。これからジョルジュと過ごす人間に対し、配慮一つないその態度に怒りが湧き上がる。歩きながらも怒りに指先が震え瞳の奥が熱くなる。

 

(この世界の人にとって私はただの道具でしかない!)

 

 その現実を悪気なく見せつけられたのだ。

 

 (折角気持ちを立て直し前向きに捉えようとしていたのに、なぜこうも配慮がないのだろう!?)

 

 怒りとショックでブルブルと震える指先を握ると腕まで震え始める。


 ミコトはこの過酷な使命を受け入れ、複雑な感情を抱きながらも気持ちを整えここでまで来た。けれど誰一人ミコトを一人の人として扱ってくれない冷たい現実に心が折れそうになっている。

 

(こんな気持ちでジョルジュ様と過ごすことなど出来ない……このまま逃げてしまいたい!!)

 

 ミコトは前を歩く侍女の後ろ姿を見ながら息を呑んだ。

 

(どこへ向かっているのかわからない。けれど目の前の通路を曲がる時、走って逃げよう! こんな気持ちでジョルジュ様に会うなど契りを結ぶなど出来ない!!)


 冷える心と裏腹に熱くなる体。ギリギリで保っていた精神が崩れ全てがどうでも良くなった。ミコトの瞳に炎が宿る。確固たる意思。

 

 (今すぐここから逃げる!!)

 

 前を歩く侍女が左に曲がった瞬間、ミコトは息を止め、踵を返し走り出した。

 

「!? ミコト様!!」

 

 侍女がすぐに気が付き通路を遮断する魔法をかける。だがミコトはその魔法を弾き飛ばし、走って逃げた。


 (もっと速く、もっと遠くに!)


 ミコトは全速力で走り出す。意思を持って行動すると、思わぬ力が湧き上がる。ミコトを制止する魔法が弾ける瞬間心地いい感触がミコトを包む。何かが壊れる感触がこれほど心地よく感じるとは聖女失格だとミコトは思った。

 

 (けれど、それが今私を突き動かす原動力! 何もかも壊れればいい!) 

 

 

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