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【この結婚が終わる時】外伝 木蓮の花が咲く頃に  作者: ねここ


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異世界へ

 それからジョルジュは部屋に籠り、異世界のことを考えていた。 

 

 ミコトは元いた世界を嫌っているようだった。生き地獄のような世界、そんな言い方をした。

 それほどまでに嫌いな世界に戻る選択をしたミコト。


 その選択をしたミコトの苦悩を想像するだけで胸が引き裂かれるほど痛い。

 嫌いだった元の世界に戻る選択をしてくれたミコトの愛。


 絶対に約束は守ると言った、その愛に対する答えはもう出ている。

 

 今度はジョルジュが約束を守る番だ。


 逃げたミコトを捕まえる。


 それはジョルジュの約束。何を失おうとも後悔しない。



 早速ジョルジュはミコトを探し始めた。方法は簡単だ。


 契りを結んだ時、ミコトの中あるジョルジュの痕跡を辿るのだ。

 細い蜘蛛の糸のように切れそうな痕跡を辿る。神経を集中し、遥か彼方に意識を飛ばす。朧げな痕跡を辿り三日目の朝、ミコトがいる異世界を見つけた。気が遠くなるほどの距離。


 今のジョルジュの魔力では辿り着いても二人で戻ることは不可能だ。

 魔法が効かないミコトを連れ帰るには空間ごとの移動が必須。圧倒的に魔力が足りない。


 だがジョルジュは諦めない。


 大魔法使い以上の魔力を持つ人間はいないが、ドラゴンは別だ。


 ジョルジュは大魔法使いとして人間の魔力を柊に移転した。この理屈だと、柊の魔力もジョルジュに移転できるはずだ。


 ジョルジュは柊を呼び、その魔力を移転してもらうことにした。


『ジョルジュよ。私の魔力を移転し、受け入れる器、それが壊れたらジョルジュは死ぬ。それでもやるのか?』


 人間を遥に超えるドラゴン王の魔力。それを移転するなどどれほどの博打か柊は知っている。だが、ジョルジュは決して諦めないことも知っている。


「柊、俺を信じろ。俺はお前の親だ。必ず成し遂げミコトを連れて帰る」


 柊はジョルジュの言葉を信じた。ジョルジュなら必ずやり遂げる。


 大魔法使いが唯一召喚できるダークネスドラゴン。互いに強い強い信頼で結ばれている。

 

 ジョルジュは一週間かけ、柊から膨大な魔力を移転された。


 前代未聞のことだ。ジョルジュは誰にも告げず移転を行った。

 モーリスが知れば絶対に反対するとわかっていたからだ。


 その影響がどう出るかわからない危険な賭けではあったが、ジョルジュの強靭な意志がそれを可能にした。

 

 ジョルジュの青い瞳の色が黄金に変わり、ドラゴンの持つ能力、慧眼をその瞳に宿した。

 ジョルジュは物事の真実を見抜く力を手に入れたのだ。


 だが、異世界にゆくなどメシエの意思に反する行為、それに、一旦帰った聖女を連れ戻すなど、どれほどの歪みが起きるかわからない。メシエの意思でこの世界にきたミコト。メシエの意思がない場合はどうなるのか不安要素がない訳ではない。

 

 だが、これこそメシエが願った人間とドラゴンの姿だと、ジョルジュは自らに言い聞かせた。


 柊はジョルジュの中にドラゴンの気を感じている。それは柊のかけらのようなもの。共に行くことが出来なくともジョルジュを通じミコトを感じられるのだ。


 黄金の瞳を持ったジョルジュを見て柊は目を細め言った。


『ジョルジュよ、ミコトが愛した青い瞳が黄金になってしまったな』


 柊はそう言いながらも膨大な魔力を受け取ったジョルジュが無事でいることに喜んでいる。


「ああ、でも、ミコトは柊の黄金の瞳も愛していた。もちろん俺も。だから良いだろ?」


 その愛ある言葉に柊はたまらなくなりその体を小さくし、ジョルジュの肩の上に乗る。ミコトに甘えていた時のような柊の行動にジョルジュは口角をあげる。


「柊、ミコトはこんな私たちを見たことがないだろう。連れ帰ったらここで三人で暮らそう。そうだ、ここをマグノリアの別邸と呼んで、柊の好きなイチゴをもっともっと栽培して、そして、柊の木を植えて、あの丘、マグノリアの丘で夕陽を見よう。そしてミコトの黒い髪に散りばめたような金色の星を一緒に見よう」


 柊はその言葉に頷き、二人はマグノリアの丘で一番星を見つめた。


  *

 

 姿を消して三週間が経った頃、ジョルジュはようやくモーリスの前に姿を現した。


「モーリス、ミコトを迎えに異世界に行く」


 ジョルジュは開口一番モーリスに告げる。

 

「異世界に!? ジョ、ジョルジュ様? 一体何をおっしゃっているか、それにその瞳は……」


 モーリスはジョルジュの言葉とその姿に驚く、だが、すぐにわかった。

 ジョルジュは柊の魔力を得たことに。

 

 ジョルジュは察しの良いモーリスに頷き言った。


「モーリス、聞いてくれ、私は王にはならない。いや、なれない」


 モーリスはその言葉に答えず唇を結ぶ。

 まるでジョルジュが言わんとしていることをわかっているように深くため息を吐く。


「私の地位をミコトのために用意したジュベール公爵に、そして王にはマクシミリアンを指名する。マクシミリアンはミコトが救った命だ。それをこの国、cabanel(カバネル)のために使うのだ」


「な、何を、ジョルジュ様……マクシミリアンを……」


「心配するな。私が帰ってきたら、ちゃんと手伝う。だがな、慧眼を手に入れた俺にはわかる。マクシミリアンはやり遂げる。そして、コレット、マクシミリアンと彼女が望むなら王妃に……私は、ひどいことをしていると自覚している。だが、それでも……」


 ジョルジュは唇を結ぶ。コレットはミコトにも優しく接してくれた。


 気品、決断力、そして賢さ全てを兼ね備えている女性。だが、愛とは別な感情で結婚する選択はジョルジュには出来ない。

 


 失って初めて知ったこの感情は全てを捨ててでも失いたくないからだ。


 

 モーリスはジョルジュの心情を理解している。


 ずっとジョルジュを見てきた。見続けた。届かぬ想いを抱き。

 だが、ミコト、同じようにミコトも見てきた。


 愛する二人が結ばれることをモーリスは心の底から願っている。

 なぜなら、それがモーリスの幸せだからだ。

  

「ジョルジュ様、コレット様はジョルジュ様を愛しておりましたが、同じようにミコト様も愛しておられます。きっとわかって下さいます。大丈夫でございます。」


 モーリスの言葉にジョルジュは目頭が熱くなる。ジョルジュは徐にモーリスを抱きしめ言った。


「ああ、俺も、ミコトもコレットが好きだった。そして俺たちはお前も愛していたんだ。モーリス」


 その言葉を聞いたモーリスは涙をこぼす。

 ジョルジュはわかっていたのだ。

 モーリスはその一言に涙が止まらなくなる。


 全てを受け入れてくれたジョルジュとミコト。これが別れだと思いたくない。愛する二人が戻るまで、この国を守る、それがモーリスに出来る唯一のことだ。



 ジョルジュは窓から空を見つめながらモーリスに言った。

 

「ミコトがいなくなってもう一月が経ってしまった。明後日の新月に私は旅立つ。うまくいけば三日後に

 戻る」


 その言葉にモーリスは静かに頷き言った。


「わかりました。早速マクシミリアンを王にする神託を受けたと発表し、あの日以来動揺している貴族達を安心させます。そしてジョルジュ様が旅立つことも発表し、国民にもこの事態を受け入れてもらうよう動きます。どうぞ心配なさらず、ミコト様のことだけを考え旅立ちください」


ジョルジュは振り返りモーリスに笑顔を向け言った。


「モーリス、お前は私の親友であり、ずっと私を支えそばにいてくれた唯一無二の存在。これからもそばにいて支えてくれ。必ず戻るから」

 

 そう言ってモーリスを抱きしめる。モーリスも込み上げる涙をそのままにジョルジュを抱きしめた。


「お待ちしています。お二人が戻って来られる日を……お待ちしております」

 


 そして二日後、ジョルジュは異世界に向け旅立った。 


 

 モーリスはジュベール公爵家となった屋敷のエントランスで真っ黒に変色したマグノリアを見つめていた。


 たった一人残されたような寂しさ、だが、二人が手を取り合いここに帰ってくる日を信じ待つ。


 モーリスはジョルジュの旅だったその日のうちに王家の権利を全てジュベール公爵家に譲渡し、実質王家は形だけの存在となった。マクシミリアンはその責任の重さを真摯に受け止めこの国のために生きると覚悟を決めている。


 あとは二人が戻ってくる日を待つだけだ。


 ミコトの愛したマグノリア。

 このマグノリアを見つめるミコトをジョルジュと共に見守る日々がもうすぐ訪れる。

 

 そっと手を伸ばしマグノリアに触れた。


 その瞬間、焦げた木の皮がボロボロと落ちてゆく。


 乾き切ったその感触に、一抹の不安が胸をかすめた。



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