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【この結婚が終わる時】外伝 木蓮の花が咲く頃に  作者: ねここ


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愛ではないと言うならば


 新しい神殿で正装に着替え終えたジョルジュはミコトのことを考えていた。

 何も言わず去っていったミコト。


(ミコト……)


 ジョルジュはミコトの温かさを思い出す。感情の赴くままミコトを抱き、その温もりは今もジョルジュの心を捉えている。


(この感情……日に日に強まるこの感情は、ミコトと離れた今、より一層強くなる)


 ジョルジュは行き場のない気持ちを吐き出すように、ため息を吐く。 


「ジョルジュ様、もうすぐ始まります」


 正装に着替えたジョルジュに見惚れているメイド達を横目に、モーリスが声をかける。


 ジョルジュはその声に表情を曇らせモーリスに聞いた。


「ミコトは? ミコトは来ていないのか?」


 モーリスはジョルジュの表情に戸惑った。


 愛を忘れたはずのジョルジュの表情は、ミコトへの愛に溢れている。


 だが、もう後戻りは出来ない。今更ジョルジュにそれが愛だと伝えても、後戻りはできないのだ。


 モーリスは胸に残る一物を吹き飛ばすような明るい声色を使いジョルジュに言った。


「ジョルジュ様。ミコト様はお疲れのようで眠っておられました。ですからマクシミリアンに頼んでおります。起きしだいお連れする予定でございます」


 そう言ってモーリスはジョルジュから目を逸らし唇を結ぶ。

 

「セザールの件は大丈夫か?」

 

 ジョルジュはふとセザールを思い出し聞く。四日後と公表していた即位と結婚がまさか今日行われるとは思ってもいないだろう。万が一気がついても後の祭りだ。だが、人手の少ない神殿、ミコトがまだこちらにきていない事に一抹の不安を感じた。


「はい、セザールにはジョルジュ様のタウンハウスの神殿が完成し、本日は祈りの儀式だと伝えてありますので問題はないでしょう。万が一のためにマクシミリアンもおります」 


(それよりも、ジョルジュ様とコレット様の結婚。ミコト様はここに来ることができるだろうか? ジョルジュ様を祝えるだろうか?)


 モーリスの心配はセザールよりもミコトの心情だ。だが、共にお茶を飲みながら話せる日が目の前にある。ミコトの傷を癒してあげたい。支えてあげたい。そんなことを考えながら聖堂に向かい歩き出す。

 

 ジョルジュもモーリスの後に続き歩き出す。

 

 今から即位式がある。

 そして、コレットとの結婚も。


 「ふぅー」

 

 ジョルジュはもう一度ため息を吐き、複雑な心境を胸に窓から見える空を見上げた。

 

「あ!!」


 ジョルジュがミコトの力を感じ声を上げた時、世界が黄金に輝き出した。

 

「ミコトの祝福! ドラゴン王の誕生!! ミコト!!」

 

 ジョルジュはその黄金の光を見て目を閉じる。雨のように降りそそく祝福の光。ミコトの心。

 その祝福の力がジョルジュの体に染み込んでゆく。

 

(ミコト!! ありがとう……私だけの聖女……)


 大きな感謝と共に、寂しさが胸に去来する。

 これでミコトとの縁が切れた。誰にも断ち切ることのできなかった神を通したミコトとの絆。


 聖女と大魔法使いの使命が終わったのだ。


 ジョルジュは両手を握る。もうこの手でミコトを抱きしめる日は来ない。

 

  

 祝砲が鳴り響く中ジョルジュは聖堂に入る。


 集まった貴族の顔は喜びに満ち、ドラゴン王の誕生と国王の誕生に沸いている。

 

 しかし、ジョルジュの心は複雑に揺れていた。


「ジョルジュ様、こちらに」


 モーリスが祭壇の前でジョルジュに声をかけた時、柊の悲痛な叫びが聞こえた。


 グオォー!!!

 

 その声と共に大地が揺れ始め急激に空が暗くなる。貴族達はパニックを起こし右往左往し始める。


「落ち着いてください!!」


 神官達が貴族の安全を守るようシールドを張り始めた時、モーリスは我に返りジョルジュを見る。

 

 しかしジョルジュが居ない。ジョルジュはすでにその場から消えていた。


   *

 

「何があった!!! 柊!! 何が……」


 ジョルジュは目の前の光景に言葉をなくす。


 ミコトが愛した木蓮の木は燃え、花は散り、真っ黒な柊が血だらけの服に頭を擦り付け泣いている。

 その近くには口から血を流し死んでいるセザールの姿と、瀕死のマクシミリアンの姿があった。


「……ミコト、ミコトは? 柊、ミコトはどこに?」


 ジョルジュは震える声で柊に話しかける。柊は顔をあげジョルジュに言った。

 

『ミコトは……異世界に戻った』


 その言葉にジョルジュは立ち尽くす。頭の中で柊の言葉が響き、血だらけの洋服に息が止まる。


「何が……何が、あったんだ……ミコト、ミコト!!」


 ジョルジュはダークネスドラゴンに変わっている柊に触れる。柊からミコトの微かな祝福の力を感じた。

 その心を癒すようなミコトの力に、ジョルジュはその場に崩れ落ちる。

 

 目の前にはミコトの洋服が落ちている。柊はそれに何度も頭を擦り付け涙を流している。ジョルジュは震える手を伸ばし、その洋服に触れる。


 生暖かい血液が、今起きた現実を物語っている。


「一体何があったんだ!! ミコトに何が! 何が起きたんだ!!!」


 ジョルジュは震える手でミコトの服を握りしめた。


 そこにモーリスとコレットが現れ異様な雰囲気に言葉を失う。だが、口から血を流し倒れているセザールを見て何かが起きたのだとわかった。


 モーリスはその近くで息絶え絶えに涙を流すマクシミリアンに気が付き治癒魔法を使った。

 傷が癒えたマクシミリアンは起き上がりジョルジュと柊に向かって土下座をし、言葉に詰まりながら話しだした。

 

「ジョルジュ様! ミ、ミコト様が……私を助けるために……、セザールに、神剣で……心臓を……申し訳ありません!! この命を以て、償いを!!」

 

 マクシミリアンはそう言って短剣を取り出す。モーリスがマクシミリアンの頬を打ち短剣を取り上げ言う。

 

「ミコト様に救っていただいた命はお前のものではない!!!」


 ジョルジュはマクシミリアンの言葉に心が闇に落ちてゆく。


 大魔法使いは聖女を守るために大きな力を手に入れた。

 ミコトはほんの少し前柊に最後の魔力移転と祝福を与え聖女としての役割を終えた。

 そのタイミングでミコトを奪われた。


 大魔法使いは人を愛する気持ちを忘れてしまう?

 大魔法使いは聖女を愛さない?


「ーーじゃあ、この俺の気持ちはなんだというのだ!! もっとも大切な人を失った私のこの気持ちが愛でないというならば、教えてくれ!! ミコトのいないこの世界の全てを壊してもいいと思うこの気持ちがなんなのか、メシエよ! 教えてくれ!! ミコトを返してくれ!!」


 ジョルジュはそう言ってミコトの洋服を抱きしめ涙を流す。


(全てを壊してしまいたい。ミコトがいない世界で生きるなど、耐えられない!!)


 柊は泣き崩れるジョルジュの肩を優しく噛む。

 

『ジョルジュ、冷静になれ、ミコトはそんなお前を見たくない。ミコトの亡骸を抱いて泣き崩れるお前を見たくないから、そうさせたくないから……帰ったのだ。それがミコトの愛』


「……ミコト、ミコト、ミコト!! 柊、ミコトは私のために……異世界に……」


 ジョルジュがそういうと柊は黄金のドラゴンに変わり、ジョルジュに話しかける。


『それがミコトの愛。私たちの愛する人は、異世界に住む柊ミコトという一人の人間に戻ったのだ』

 

 モーリスは両手を握り唇を噛み涙を流す。ミコトが言った、聖女ではなくなったら握手して、一緒にお茶を飲んで、お祈りして……そんな日が二度と来ないこの現実に打ちのめされた。


 コレットは黙って涙を流し、異世界に消えたミコトを想う。

 ミコトがどれほどジョルジュを愛していたか、ジョルジュがどれほどミコトを愛しているのかこの辛い現実の中で知ったのだ。


 ジョルジュはミコトの洋服を持ったまま姿を消した。


 モーリスは即位と結婚式を延期すると貴族達に伝え、焼け焦げたマグノリアを見つめた。

 

この結婚が終わる時外伝、【木蓮の花が咲く頃に】を読んでくださってありがとうございました。


あと二話、もしくは三話をもちまして完結いたします。


その後、本編も投稿いたします。是非とも、このお話を読んでいただいた後、

本編を読んでいただければ嬉しいです。作者冥利に尽きます。



日頃の感謝を込めて。


ねここ





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