ミコトの怪我
四度目の契りの日程が決まった。
二週間後にまたあのジョルジュの隠れ家にゆく。
*
ミコトは今モーリスの要請でモーリスの甥、マクシミリアンと共に神殿の中を浄化している。
マクシミリアンは黒髪に緑の瞳、なかなかのハンサムな神官で、頭もよく次世代の大神官になるだろうと言われるほどの人間だ。ミコトにも丁寧に接してくれるマクシミリアンをモーリス同様ミコトも信頼している。
「マクシミリアンさん、今日はこちらからですか?」
ミコトのサポートをするマクシミリアンは柔らかな微笑みを浮かべ静かに頷く。言葉数の多くないマクシミリアンはミコトにとって有難い存在。
おしゃべりな神官だと聞きたくない噂話を耳にするかもしれない不安があるが、彼は違う。それにマクシミリアンと一緒にいると、若い神官も無駄話ができないようで一緒にいれば以前のような噂話は聞こえない。
そしてマクシミリアンと行動するようになってからこの神殿のナンバーツーセザールの姿も見るようになった。以前は滅多に見ることがなかった人物だが、ミコトの浄化を離れたところから見ている。ただ、その妙な視線が気になってミコトはマクシミリアンに言った。
「あの、セザールさん? なんとなく苦手で、後ろから見られるとちょっと……」
マクシミリアンはミコトの言葉を聞いて胸に手を当て一礼し、後ろで見ていたセザールに何か話しかけるとセザールは席を外した。
ミコトはマクシミリアンの言葉が気になり、戻ってきたマクシミリアンに聞いた。
「マクシミリアンさん、何を言ったのですか?」
マクシミリアンは目線を下げ穏やかな口調でミコトに言った。
「聖女様はセザール様がお嫌いだと申し上げました」
ミコトはその言葉に目を丸しく笑い出した。
「そんなこと言っていないですよね? マクシミリアンさんって面白い」
ミコトはマクシミリアンの不思議な性格に好感を抱く。
(あの見た目が傭兵っぽいモーリスさんとは全然違うマクシミリアンさん、でも、同じように優しい人だわ)
ミコトは再び浄化を始めた。
浄化といってもただ壁に触れたり椅子に触れたりするだけだ。時々何かが弾ける音がする。おそらく魔法がかかっているのだが、机の裏や神官の洋服などその場所は様々だ。
それに意味があるのかわからないがマクシミリアンと共にモーリスに報告するとモーリスは安心したような表情を浮かべる。その表情を見ると役に立っているのだと感じ、ミコトは必要とされているこの現実に喜びを感じていた。
だがある日、メシエの聖剣と呼ばれる剣に触れた時、不注意で手のひらを切ってしまった。少し触れただけだが傷口は深く溢れ出す血を見てミコトは倒れてしまった。近くにいた神官が慌ててミコトに駆け寄る。
「ミコト様に触れるな!」
マクシミリアンが牽制する。聖女に触れて良いのは同性である女性、そして男性ではジョルジュだけ。ミコトは安易に触れてはいけない存在なのだ。しかしこの状況はまずい。ミコトの手当をしなければそれこそ出血多量で危険な状況に陥る。
「ジョルジュ様! 柊様」
マクシミリアンは魔法を使い二人の名を叫ぶ。
するとどこからか柊が現れ倒れたミコトを咥え城に向かって飛んでいった。
「ドラゴン様が現れた!!」
城前広場に現れた柊に城は大騒ぎになったが、ジョルジュはすでに広場に向かっていた。
(何があった!? ミコト!!)
一方、ミコトは柊に咥えられ空を飛んでいる途中で意識を取り戻した。柊もミコトが目を覚ましたことに気がついたが、流れ出る血を見てそのまま城へ、ジョルジュの元へ飛んでいった。
地上に下されたミコトは心配そうに見つめる柊の頭を撫でた。
「驚かしてごめんね。私は大丈夫だからね」
「ミコト!! 何があった!?」
ミコトは顔面蒼白で駆け寄るジョルジュを見て驚いた。
(まさか、心配してくれたの!?)
ミコトは目の前に現れたジョルジュに怪我を見せ言った。
「ごめんなさい、不注意で手を切って、血を見たら気分が悪くなってしまって……」
ジョルジュはミコトの言葉に答えず、突然魔法を使った。
バシッ!!
「ダメか!? モーリス!!」
「ジョ、ジョルジュ様? 私に魔法をかけたのですか??」
ミコトは突然魔法をかけられたことに驚いた。
(一体何のための魔法?)
ミコトはジョルジュを見る。ジョルジュはミコトの両頬に手を当て言った。
「血の気が失せている! モーリス、ミコトの血を止めろ!」
モーリスはミコトに近づくが神聖な聖女だと言われるミコトに触れることができない。
それに魔法の治癒ならできるが、それ以外の方法もわからない。
服を染めてゆく赤い血、青白いミコトの顔。
(ミコトが......死んでしまうかもしれない!!)
ジョルジュは洋服で傷を抑えるミコトを見て堪らず抱きしめた。




