呪い
「モーリス、ミコトは独特な人だな」
ジョルジュは神殿の一室で椅子に腰掛け、書類に目を通すモーリスに言った。
「異世界の方ですから、独特なのでしょう。ドラゴンの柊さまも三度目の契り以降ますますドラゴン王としての風格が現れ、片目は完全に黄金に変わりました」
モーリスは書類をテーブルに置きジョルジュを見た。ジョルジュの瞳にミコトへの興味の色が見える。
モーリスはその瞳に驚きながら小さくため息を吐き、一枚の紙をジョルジュに見せた。
「これは?」
ジョルジがその紙を見つめると魔法陣が浮かび上がった。
「!? これは死の呪い……」
「ええ、神殿の一室、結婚式の時に使用するコレット様の控室に仕組まれており、偶然私の甥であるマクシミリアンが見つけまして」
「何!? コレットの控室だと!?」
ジョルジュは魔力を使いその紙を握る。すると紫の光を放出し、呪いは消えた。
「なぜコレットを狙う!? この魔法が使える人間はそう多くない」
モーリスは一旦唇を結び、また話し出した。
「あと、結婚式で使う司祭の衣装に同じような紙が縫い込んであり、調べた結果私の言葉に反応し、先ほどの呪いが発動されるように仕掛けてありました。こんなことができるのは内部の人間しかおりません」
ジョルジュは眉間に皺を寄せモーリスを見る。モーリスは複雑な表情を浮かべ大きく頷く。
「モーリス、目星がついているようだな?」
ジョルジュは犯人の予測がついているようなモーリスの様子に気がついた。
「おそらくセザールではないかと」
「セザール? 神殿のナンバーツー、お前はセザールの仕業だと考えているのか?」
その言葉にモーリスは唇を結び頭を下げる。
「はい。セザールは私にメシエ様の神託の声が届いたことを根に持っております。なぜなら私たちはライバルであり、メシエ様の神託が聞こえた私がこうして神殿をまとめる大神官となり、ジョルジュ様の一番近くでお仕えすることになったわけですから」
モーリスは一旦話を止め、小さくため息を吐き、また話を続けた。
「……それに、コレット様は私が、オレリア様はセザールが推した候補でしたから……ただ、オレリア様は全くこの件には関係がありません」
ジョルジュはその言葉を聞きモーリスに言った。
「要するに、コレットに呪いをかけ殺し、その罪をモーリスになすりつけ、オレリアをその後釜にし、大神官の立場を手に入れようと?」
「……恐らくは」
「厄介だな。セザールの仕業だと分かっていても、今は明確な証拠がない。それに、この手の呪いは痕跡がなく見つけづらい。マクシミリアンはどのようにして見つけたのだ?」
「はい、たまたまですが、セザールがコレット様の控室に出入りしていたのを見かけまして、気になったものですからマクシミリアンに調べるように言って判明した次第です」
「そうか、だが他にも呪いがかけられてある可能性もあるな。コレットを手にかけたくとも、婚約を終え警護が厳重になっている今、それは不可能だろう。だからこそここに仕掛けた」
ジョルジュは何かを考えるように窓辺に移動した。
窓の外にミコトがいる。ミコトはいつもと同じようにマグノリアの花を見ていた。その瞳は初めて見た時のように、同じように虚だが、ほんの少し陽炎のような光が見える。全てを諦めたようなミコトの瞳に光が、ほんの一瞬でも見られたことに不思議な安堵感がジョルジュの胸に広がった。
(ミコト。一人だけ違う世界に生きているように、この世界で生きる人)
虚なミコトを見ていると同じ世界にいても見えない壁が立ちはだかっているように感じジョルジュの胸に影がさす。
(ミコト、君の望みを知りたい。君が心から笑える日が来るように)
モーリスは窓辺で何かを見つめるジョルジュを見た。
寂しそうなその横顔、窓の向こうにミコトがいるのだと分かった。
ジョルジュがそんな表情を浮かべ見つめる人はミコトしかいない。
この世界で唯一魔法が使えない聖女。ミコト……
モーリスは何かに気がついたように目を見開き、ジョルジュに話しかける。
「ジョルジュ様、ミコト様、魔法を無効にするミコト様に手伝っていただくのはどうでしょう?」
ジョルジュはその言葉を聞きモーリスを見る。確かに、魔法を無効にするミコトならできる。
「ミコト、巻き込みたくなはいが、ミコトなら触れるだけで魔法を無効にする。だが、セザールに怪しまれるのではないか?」
「確かに……例えば結婚式がこの神殿で行われるため聖女様に浄化していただくという名目なら問題ないかと」
「だが、浄化が終わった後、また呪いをかける可能性がある」
「それならば、もう一つ秘密裏に神殿を建てる、とか」
「新しく!?」
「はい、急ぎの案件、それも秘密の案件となります。例えばジョルジュ様とコレット様のタウンハウスという名目で着工し、その中に神殿を作る、まずは神殿から着工していると発表すれば」
「そこで結婚式を挙げるということか? ここではなく」
「はい。これは限られた人間のみ知らせ、表向きはここで、式さえ終われば、セザールの尻尾さえ掴めばなんとでも言えるでしょう」
「……そうか、さすればミコトには?」
「ミコト様を巻き込むわけにはいきませんから、ミコト様にもお知らせしないほうが良いかと、ただの浄化とお伝えしておくだけで良いかと」
「……それではミコトを騙しているように思える。私はミコトに伝えたほうが良いと思う」
「ですが、ミコト様が知れば、怖がってしまうかも知れません。あまり人との触れ合いを好まないミコト様に情報を伝えることはミコト様の負担になるかと」
「……分かった。そうしよう。だがコレットには話をせねば。彼女は賢い人だ。その事実を知っても動揺することなくうまく立ち回るだろう」
「はい。コレット様にお伝えし、この件を早急に進めたいと思います」
モーリスは早速新しく建てる神殿の場所を選択し着工を始めた。




