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【この結婚が終わる時】外伝 木蓮の花が咲く頃に  作者: ねここ


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柊の木の約束

 ミコトは屋敷を出て庭園に向かった。

 

 一人になりたかった。

 溢れ出す感情が涙となって流してしまった今、取り繕う時間が必要だからだ。


 ジョルジュのスケジュールには余裕がなく今日契りを結ばなければならない。


(少しでも冷静になる時間が欲しい)


 ミコトは涙を拭いながら月明かりに照らされた庭園を歩いた。

 一歩進むごとに冷たい空気がミコトを冷静にさせ、一歩進むごとに気持ちが落ち着く。

 

(この庭園は包み込むような温かさを感じる)

 

 ミコトは庭園の木々を見つめた。面白いことに、この庭園は木々の大きさはバラバラで最近植えられた木、元から植えられている木、それぞれがのびのびと成長している。その様子に開放感を感じ、興味が湧いた。


 神殿は元々屋敷だったと聞いている。だからか、神殿にしては趣向を凝らしたような庭園、そこに植えられている植物は同じような大きさに整えられ綺麗だが魅力は感じなかった。あの木蓮の木以外は。


 けれどこの、ジョルジュの隠れ家と言われるここは、全く違う。

 

 庭園の中に林檎の木やオレンジの木もある。屋敷の裏には小さな畑があり、そこには見たことのないハーブが植えられていた。そして苺の苗も植っている。


 最近植えられたようなその苗に目が止まる。

 

「柊が好きな、いちご」

 

 ミコトはその場にしゃがみ込み、その苗に触れた。


「ああ、柊が好きだから植えた」


 ジョルジュがミコトを追いかけて来たのだ。

 

 ミコトはその言葉に息を止める。忙しいジョルジュが柊のためにこんなことをしてくれているとは思ってもいなかったからだ。


 先ほどはジョルジュの言葉に傷ついたが、今は同じジョルジュの言葉に喜びを感じている。


(ああ、この矛盾。これが人を愛するということ)


 ミコトは改めて自分の気持ちを認識した。好きな人の一言に心揺さぶられ、喜び悲しむ。目の前の景色が輝いていたと思えば、真っ暗な暗闇に突き落とされる。

 

 こんな人間らしい感情に戸惑いながらもその感情を与えてもらったことが嬉しいと、ミコトは顔をあげジョルジュを見る。


 ジョルジュは少し気まずそうにミコトを見つめた。自分が放った言葉にミコトが泣いて部屋を出て行ってしまったことを気にしているのだ。

 

(この世界の大魔法使い、王様になる人をこんな顔にさせるのは私だけかもしれない)


 ミコトは口角をあげ、ジョルジュに聞いた。


「ジョルジュ様、ここの植物は神殿の庭園と違い植えられたばかり?」


 ジョルジュはその質問に目を細め答える。


「ああ、ここは俺の隠れ家で、好きなものしか置かない。ここは俺の好きが詰まっている場所だから」


 そんな場所に連れてきてもらえた現実に、心の底から湧き上がる喜びを隠せなかった。

 思わす喜びに溢れる笑顔をジョルジュにむけてしまう。


「……ミコト、俺は、ミコトに笑ってほしい。今のように」


 そう言ってジョルジュはしゃがむミコトを立たせ、徐にその頬にキスをした。


 驚いたミコトは頬を抑えジョルジュをみる。

 ジョルジュはミコトの頬を両手で覆い、唇にキスをした。

 

 まるで恋人同士のような会話に、キス。ミコトは頭の中が真っ白になる。


「ミコト、ミコトはマグノリア以外に好きな植物、ある?」


 顔を赤くするミコトを見つめながらジョルジュは聞く。その質問の意味がわからないミコトは、元の世界の植物の名を言った。


「あの、柊の木、」


「柊、ミコトの世界の木、ミコトの家門の名、そして私たちのドラゴン柊の名、モーリスから聞いた」


 ジョルジュが知っていることに驚く。それに柊を()()()()()()()()と言った。

 先ほどまでの悲しい気持ちが吹き飛ばされたようにミコトの心から去ってゆき、今は溢れる喜びしかない。


「……はい。柊は、棘があって……」


 ミコトは再びしゃがみ込み、指で地面に柊の葉の絵を描いた。ジョルジュも隣にしゃがみ込みその絵を見つめる。

 

「初めて見る。これが柊。これを探してこの屋敷の中心に植えようか!」

 

 ジョルジュは目を輝かせミコトにいう。その言葉にミコトの心は喜びに爆発しそうになった。


(ジョルジュ様の好きに、それも中心に入れてもらえる)


 だが、ミコトは首を振り言った。


「ジョルジュ様、おそらくこの世界にない植物だと思います。」


「探せばいい」


 ジョルジュはそう言って目を細める。


「……ジョルジュ様なら探しそうですね。でも、もし、見つかってもこの庭園の隅に植えてください」


 ミコトの意外な言葉にジョルジュは首を傾ける。


「なぜ隅に?」


 ミコトはその言葉に答えず笑顔を向けた。

 

(ジョルジュ様の好きに入れてもらえただけで十分。欲を出したらだめ。隅で見守るくらいが一番いい)


 ジョルジュは答えないミコトにもう一度聞いた。

 

「隅が柊の、その植物の好みなのか?」


 ジョルジュのその質問に笑いそうになった。柊の好み、確かにその通りだ。堂々とジョルジュの好きの真ん中にいるなど現実にはありえない。好きの隅に居させてもらえるだけで十分幸せだ。

 

「はい。柊は隅が丁度いい植物です」


 その答えにジョルジュは頷き言った。


「柊を見つけたら、必ずこの庭園の隅の、一番いい場所に植えよう。ひっそりと誰にも邪魔されない場所に堂々と根を下ろせるように」


 それから二人は部屋に戻り、三度目の契りを交わした。


 契りが終わりジョルジュは城に戻り、ミコトはそのままこの屋敷で朝を迎え、神殿に戻った。

 

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