二回目の契り
二回目の契りの日
ミコトはマグノリアの屋敷に居た。あの日、複雑な気持ちのままジョルジュと別れ、再びその使命を背負いここに来た。
あれからジョルジュはお妃候補の令嬢と本格的に交際を始め、多くの貴族が麗しい二人の未来を喜んでいた。
そんな中でミコトとの契りを結ぶジョルジュを複雑な思いを持ってコレット令嬢が送り出しているのではないか。
そんな噂が出始めた。
ミコトはその噂も当然耳にしていた。けれどミコトにはわかっている。そんな心配は無用なのだ。
ジョルジュはこの契りを使命だと、使命だとしか思っていない。
そう思うたび、ミコトの気持ちは沈んでゆく。認めたくないけれど、ミコトはジョルジュを愛し始めている。
(その感情は初めての人だから?初めて優しく話しかけてくれた人だから?それとも、契りの相手だから?)
その答えはわからない。でもわからなくてもいいのだ。
なぜならこのミコトの感情はジョルジュにとって全く意味がないのだから。
ジョルジュはミコトとの契りを使命だと思っている。ドラゴン王を誕生させる大切な使命。その使命を終えたら王として即位し、結婚する。ミコトとのことはその通過点に過ぎない。
ミコトはベッドに腰をかけため息を吐く。こんな複雑な気持ちを抱えたまま、二回目の契りを結べるだろうか?そんなことを考えながら悶々と時間を過ごす。
だが、待てどジョルジュは現れない。
(何かあったのかしら)
ミコトは耳を澄まし足音が聞こえないかドアに耳を当てる。しかしシーンんとした廊下、物音一つしない。
窓辺に移動し外を見つめる。だが夜の闇に包まれた庭園はその全てが眠っている。
ミコトはベットの上に寝転び天井を見つめた。
「このままジョルジュ様が来なければいいのに……」
複雑な気持ちを抱え、ミコトは瞼を閉じた。
*
「ミコト、遅くなってすまない」
眠るミコトの耳元でジョルジュの声がした。ミコトは驚き瞼を開けると目の前にジョルジュがいる。ジョルジュは眠りから目覚めたばかりのミコトに覆い被さりミコトを抱きしめた。
頭が真白になっている状態のミコトはそのままジョルジュを受け入れた。
こうして二回目の契りが始まった。
翌朝目覚めるとジョルジュはいなかった。夢の中で行われたような二回目の契り、そのほとんどを覚えていないが、少し痛む体がジョルジュに抱かれた痕跡を残している。
起きたミコトをメイドが風呂へと案内し、入浴し着替え、ミコトは神殿へと戻った。
ミコトは前回と同じように柊にその力を移転し、祝福を与えた。柊の体はさらに黄金に近づき、その青い瞳は黄金が差し込んでいる。また一歩ドラゴン王に近づいた柊をミコトは抱きしめた。
柊はさらに成長し、大人の背丈を超えている。だが、やはりミコトの前では小さなドラゴンの姿になり、甘える。そんな柊を抱きしめながらミコトは言った。
「こんなに甘えん坊な柊がドラゴン王になるだなんて、うふふ、信じられないわ」
柊はその言葉に怒ったように羽を広げ腕の中で暴れ出す。二人は戯れるように部屋を飛び出し、神殿の木蓮の前に腰掛けその花を眺めた。
「コレット様、もうすぐジョルジュ様がいらっしゃいます」
ミコトはその声に振り返ると神殿の一室から銀色の髪に菫色の瞳の美しい令嬢が姿を現した。
まるで柔らかな薔薇が咲いたような美しさにミコトは息を呑む。
(これほど美しい女性は初めて見た……まるで薔薇の花のような方)
ミコトはその女性に見惚れているとモーリスが現れミコトを見てその女性に声をかけた。
「コレット様、マグノリアの前にいらっしゃるお方は異世界からの聖女様でいらっしゃいます」
(コレット……あ、ジョルジュ様のお相手の、方……)
ミコトの胸がドクンと波打つ。この美しい人がジョルジュの相手だと知り、衝撃を受けた。
コレットは柔らかな微笑みをミコトに向けドレスを持ち上げ挨拶をする。
「異世界の聖女様、私はコレット・エマールと申します」
澄んだ美しい声に輝く瞳。全く悪意を感じない穏やかな包み込むような人格とオーラをミコトは感じた。
「……コレット様、ミコトと申します。このこは柊、ドラゴン王になるドラゴンです」
ミコトはコレットに頭を下げる。コレットは目を細め柊を見つめた。その瞳は純粋な愛がある。ジョルジュの相手に相応しい人格と性格、痛いほどミコトに伝わってきた。
「コレット、待たせたな」
突然ジョルジュが現れた。移動魔法だ。
コレットはジョルジュの登場に驚きながらも嬉しそうな表情を浮かべジョルジュを見つめる。ジョルジュはコレットの手にキスをしミコトの方を見た。
「ミコト、柊はまた少し黄金が強くなったようだな」
そう言ってミコトに抱かれている柊の頭を撫でた。ミコトはその様子を見て息が詰まった状態で頭を下げ、なんとか返事をした。
「はい、順調に成長しております」
震えそうになる指先を隠すように柊を持ち上げた。ただ、ミコトはジョルジュの顔が見れない。目を合わすことができない。言葉にしようのない複雑な感情が湧き上がる。
これほど美しい二人がいるのだろうか?お似合いだと、皆が口を揃え言う理由が痛いほど伝わる。
ミコトが聖女ではなかったらジョルジュには相手にもされない存在だと突きつけられている。それが逆に申し訳ない思いにも繋がる。
(こんな聖女で、ごめんなさい)
ミコトは内心二人に謝った。二人は嬉しそうな表情を浮かべ柊を見ている。人間の王と、王妃、ドラゴン王、この先の世界を照らす三人。ミコトは聖女としての使命を終え、この先自分が生きる未来を決めなければならない。
だが、蚊帳の外だと感じているミコトに居場所はない。
ミコトは二人に頭を下げ、柊と共にその場から立ち去った。ジョルジュは去ってゆくミコトを見つめる。
「申し訳ありません、コレット様、ミコト様は異世界の方、こちらの作法は全く……」
モーリスは立ち去ったミコトの行動を庇うように話し出す。コレットはそんなモーリスに優しく声をかける。
「ミコト様は聖女様でいらっしゃいます。特別なお方、ミコト様がいらっしゃるからこそこの世界に安寧がもたらされるのです。失礼なことなど何一つありません」
ジョルジュはコレットの対応に頷いた。
コレットは火の打ちどころのない女性。最も王妃に相応しい相手。
今日は神殿に結婚の日取りの神託を受けにきたのだ。
結婚の神託を受けるということはドラゴン王が誕生した後の日取りとなる。
(ミコトはその時、この世界にいないかもしれない)
ジョルジュは去ってゆくミコトの後ろ姿を見つめ続けた。




