魔法の講義のお時間です
……はあ?なんですか、それ。あまりにふざけてませんか?
「それ、マジですか?」
「噂によるとそうらしいです。なんでもそのおかげで彼のパーティーは歴代最速でAランクに駆け上がったとか。」
「当然彼以外もスキルホルダーの実力者ッス。いくらAランクとはいえ、彼らほどスキルを大っぴらにしてる人はいないッスけどね」
ナンパまがいのことをしてきた軽薄な男だと思ってましたが、もっと質が悪いじゃないですか。何のために私に近づいてきたのかいろいろ勘ぐってしまいますよ。
「……でたらめですね。本当にスキルホルダーっていうのは。」
「え?ヨミさんが言います?昨日の話だとヨミさんもでたらめですよ?」
……。何も言えませんね。どうやら私は白銀の吸血鬼である以前に真祖アリエルの娘、いわゆる真祖の姫らしいですから。つまり、どういうことかというと真祖の能力をほぼすべて引き継ぐことができる唯一の存在である、ということですね。今すぐは無理でも私はいずれアリエルと同程度まで強くなれるということですね。……想像もできませんが。
「……まあ今考えてもしょうがないので忘れましょう。それよりも行きますよ。」
「了解ッス!」
アイシャの声がまだ騒がしいギルド内に響きましたとさ。
「さて、魔法の使い方を基礎から教えていきますよー。」
「「はい!」」
うん、元気がよくていいですね。ちなみに私はしんどいです。帰って寝てしまいたいです。
やってきたのは昨日と同じ場所。外壁からそこまで遠くなく、それでも木々で周囲の視線を遮れる絶好の修行場所です。
「そもそも魔法は体の中からあふれてくる魔力を形に変えたものです。そうですね、武器に例えると魔力という鉄やら銅といった材料を適性という鋳型を使うことで魔法という剣を作る、みたいな感じです。」
これ、自分でいうのもなんですが分かりやすいですよね。なんかしっくりくるんですよ。
「じゃあできるかもしれませんが、魔力の流れを感じるところから始めましょうか。」
魔力は体の奥底からあふれてくる力です。このあふれ出てくる量が多いことに越したことはないです。ですが、それよりも重要なのはどれだけ体の中にためられるか、です。なので魔力量とは基本的にこちらをさします。
「魔力の流れ、ですか。」
「どうやったらわかるッスか?」
あれ?予想に反した返答が返ってきました。てっきりもう魔力自体は扱えるものだと思ってました。特に剣士だと、無意識のうちに魔力を使っていることが多いんですが。
それに確かこの二人はDランクだったはず。まさか、魔力を一切使わずに純粋な剣技だけでここまで来たということですか?……恐ろしいですね。まあ、無属性の適性がない剣士自体見たことがないのでそんなこともあるんでしょうかね。
……仕方ありません。基礎からのつもりでしたが、基礎の基礎から始めないといけませんね。
「……と、まあ魔力はこんな感じで、感覚によるものが多いので最初はしんどいです。慣れたら早いので頑張りましょう。」
「はい!」
「了解ッス!」
「とりあえず魔力を感じたと思ったら私に声をかけてください。」
ふう、少し話し疲れましたね。誰かに教えるのは久しぶりだからかもしれません。
魔力の知覚は本当に最初はイメージなんです。体の中心から絶えずあふれ出ている魔力を最初は熱として感じます。その後になってその熱が魔力であるとわかる、みたいな。
どれだけ早くこれに気づけるかによって魔法の才覚が量れます。ちなみに自慢ではありませんが、私は教えてもらうこともなく魔力を使えるようになっていました。……自慢ではありませんよ?
さて、二人に最低限は教えました。あとは自分たちで考えてくださいね。この考えることって、きっととても大事なことなんですよ。だから二人のためにもこれ以上教えるのはしません。
それに私もまだ魔力をまだ支配できていないので、それをやりたいですし。これってきっとウィンウィンってやつですよね。そうに違いありません。
アイテム袋から取り出した小さめのタオルを地面に敷いて、その上に腰を下ろしました。……少し集中しましょうかね。
「「あ。」」
5分もしないうちにそんな声が聞こえてきました。
「ヨミさん、魔力感じられました。」
「私もッス。」
……くっそぅ。思っていたよりも結構早いじゃないですか。まだ皆目見当もついてないのに……。
「早いですね。しかも同時って、さすが兄妹ですね。」
ゆっくりと立ち上がると、私のお尻に敷いていたタオルをアイテム袋にしまいました。それと同時に短剣を二本取り出します。
「さて、では次の段階に行きましょうか。
次の段階は操作です。感じた魔力を自分の意思で操作します。例えば今は体全体に広がっていますが、それを手に集中させたり、足に集中させたり。
とはいえ、これだけだと難しいでしょうから最初だけヒントをあげましょう。」
取り出した短剣を両手で一本ずつ持つとそこに魔力を流し込みます。すると、右手の短剣の刃は凍り付き、左手の短剣の刃は闇で覆われました。
「短剣に魔力を集中させると、自分の適性が刃に現れます。だからジャイロなら闇、アイシャなら炎でしょうね。これをやってみてください。」
それだけ言うと私は短剣に魔力を込めるのをやめました。すると氷も闇も空中に霧散し、ただの短剣だけが手に残りました。
その短剣を二人に渡すと、私は再度魔力支配の修行を始めました。……今度こそ時間がかかるんじゃないですか?知りませんけど。あ、でもエリザは結構早かったような……。
「ヨミさん、できました!」
「私もッス!!」
だから、早いですって!まだ10分!10分ですよ!?私何もできてないのに……!
文句の一つでも言ってやろうと思ってましたが、彼ら自身の適性に染めた短剣を持ちながらキラキラした目で私の方を見てくる二人に若干のうれしさを感じてしまいました。
……あー、ダメですね、私って。




