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幕間

 事態は普段であれば多くの冒険者が帰ってくる黄昏時に起こった。


 その日の朝からギルドは厳戒態勢に入っていて、樹海の監視を所属している冒険者にさせていた。ギリギリ集中力と緊張感を保てる2時間のシフト制であった。そして樹海に5つある入口をそれぞれのパーティーが監視をしていた。


 一番街に近い樹海の入り口を監視していたDランクの冒険者パーティーが次のパーティーとの交代時に森の奥から目の色を変えて全力疾走で突進をしてくる魔物と遭遇した。戦闘時にも見せないその必死さと冒険者を狙っていなかったことに不審に思った両パーティーリーダーは話し合い、ギルドに報告することにした。


 だが、結果を言えばもう手遅れだった。樹海の奥ではもう既にスタンピードを引き起こすボスモンスターというべきものが目を覚ましていたのだ。


 交代したパーティーが街の門に構えていた臨時ギルドに報告に行った時にはボスモンスター率いるスタンピードが森の中から顔を出していた。


 ボスモンスターの種族はオーガ。3メートル近い巨躯に鍛えられた肉体、そして見たものを恐慌状態に追い込む魔眼。樹海の奥から近くの木々をなぎ倒しながら街に向かっていたオーガを、その時樹海を監視していた5つのパーティーが合同で迎え撃った。目的は冒険者ギルドで討伐の準備が完了するまでとにかく時間を稼ぐこと。安全確保のために後退をしつつ敵を削ること。



 結果は全滅。


 スタンピードのボスモンスター、というよりも強いモンスターと戦う時の定石通りに盾持ちの前衛を前に近接担当の剣士と後衛担当の魔法使いと治癒魔法使いが後ろに構えていた。なるほど、確かに前衛が攻撃を受け止めている間に剣士が攻撃し、ひるんだところを魔法使いが追撃、攻撃を受け止めた前衛を治癒魔法使いが回復というサイクルを組めればどの魔物でも理論上は討伐可能だろう。だが、それがよくなかった。


 それは前衛が攻撃を完全とまではいかなくても受け止められる、もしくは受け流すことが前提になっている。だが、オーガの攻撃はあまりに桁が違った。


 冒険者の姿を視認したオーガは自らが倒した樹海の木を片手で持つとそれを彼らにめがけて無造作に振るった。


 ただでさえ受け止めきれたかどうかわからないほどの威力を内包した一撃であったが、前衛は初めて見る巨大なモンスターに若干浮足立っていた。結果、受け止めることなどできずに後方にいる仲間を巻き込みながら吹き飛ばされた。


 だが事態はそこでおさまってはくれなかった。攻撃を食らった時にオーガの目を見てしまったのか、その場に居合わせた冒険者全員が恐慌状態に陥った。戦うどころか逃げることすらできずに次撃を食らった。


「グオオオォォォォォォ!!!!」


 勝どきを上げるように、もしくは戦闘の開始を告げるようにオーガが大きく吼えた。それを合図に樹海から大量の魔物が勢いよく飛び出した。


 出された命令はただ一つ。鏖殺、塵滅、皆殺し。とにかく目に付くものの破壊のみ。





 ―――ウリオールの街、臨時ギルド


 街の入り口に設置されたこの臨時ギルドには二つの役目がある。戦況把握と指揮のための指揮機関、そして負傷者を癒す治癒機関。


 ギルマス含め、ギルドの上層部もこの臨時ギルドに詰めているし、複数の優秀な回復魔法使いが常駐し大量の回復ポーション、魔力ポーションも備蓄されている。


 スタンピードが起こるまで、日夜を徹し警戒を続ける覚悟だった彼らの元に想像よりも早く凶報がもたらされた。


「はぁ、はぁ……!ギルマス!緊急事態だ!スタンピードが起こるかもしれない!!」


 息を切らしながら臨時ギルドに走りこんできた一つのパーティーがそう声を上げた。


「え!?まじかよ、思ってたよりも早いじゃんか!徹夜する必要がなくなったことを喜ぶべきか、それとも準備が万全じゃない状態で始まったことを悲しむべきか……!


 ちょっとそこの二人!双子とヨミをすぐに呼んできて!僕ももう出るから!」


「ちょ、ギルマス!待ってください!指揮はどうするんですか!?」


「前衛指揮は僕が現場で取る!後方指揮は君に任せた!」


「はぁ!?指揮って、何をすればいいんですか!?」


「サブマスなんだから頑張って!!わかんなければヨミとか頼っていいから!」


「ちょま!無責任すぎますよ!!!!」


 剣を片手に臨時ギルドから颯爽と飛び出していくギルマスを追いかけるようにサブマスの女性の声が響いた。


 何を隠そうこのサブマスは常日頃からギルマスに振り回されている。唐突に行先を告げずに出張に行ったり、剣を片手に飛び出したりとギルマスはやりたい放題である。ギルマスの執務室に書類がほとんど何も残されていないのはほとんどすべてを彼女が処理しているからなのだ。


 ギルマスの後を追うように臨時ギルドにいた冒険者達が一斉に街の外に飛び出していった。スタンピードが起こっているのだから当然ではあるが。


 そして臨時ギルドに残された彼女らはあまりに突然のことに思考が一時停止しかけたが、すぐに優秀なサブマスの頭は回り始めた。


「すぐに外壁の上に登って監視を始めて!!戦況が悪化しかけている所があったらすぐに知らせるように!手の空いているものはすぐにギルドに行って街中にスタンピードが始まったことを通達して!手の空いている冒険者は絶対に来るようにも忘れないで!


 わかったらすぐ動いて!!散会!!」

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