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ただ一人の家族

冒険者の街 ウリオール


世界各地に点在している冒険者の街の中の一つ。その中でも数少ない本当の初心者向けの街。ウリオールの巣窟という簡単なダンジョン、樹海という出てくる魔物が弱い狩場が近くにあり、また数年に一度スタンピードも起こる。ダンジョンや樹海で練習を重ね、スタンピードという実戦を経て冒険者は一人前となるのだ。


とはいえ、当然みんながみんな一人前になれるわけではない。多くの脱落者を出しながら、一握りの冒険者だけがそこに至る。数は少ないが、彼らの多くは他の冒険者の街でも頭角を現している。

 ……まったく、よく寝るやつだな。いや、吸血鬼になったばかりだと誰でもそうか。そう、誰でも。人間の体から、吸血鬼の体に変わったことにまだ精神がついてこれていないとか、昔誰かが言ってたな。


 私は吸血鬼の真祖だ。今でこそただ一人となってしまったが、昔は数が少ないもののただ一人というわけでは決してなかった。……でも3人だったな。朱金のアリエル、白銀のノエル、そして黒銅のロキ。同時期に同じ場所で同じ親から世界に生まれ落ちた私達だったが、考え方はまるで違った。体格もまったく違ったが、趣味や性格も三者三様だった。だが、最初はそれでよかった。私達の世界は私達だけだった。私達の祠には誰も来なかった。たまに遊びに来る想像主が持ってくるお土産と愚痴話が私達の世界のすべてだった。


 だが、そんな平穏は突然破られた。人間たちが私達の祠に入って来たのだ。その時の衝撃は忘れられない。そもそも私達以外に生物がいるなんてことは知らなかったし、それにその人間が持っていた武器も、向けられた敵意も初めてだった。


 気がついたら私達はその人間の血の海の上に立っていた。私達は戦い方も知らなかったが、それでも本能では知っていたようだ。私は空間、ノエルは時間、ロキは星の権能を与えられていたことにその時初めて気づいた。とはいえ、私達の祠にまで到達するような人間相手だったから何度も死んだ。いや死なないが、人でいう致命傷は何度も食らった。私達の攻撃も何度も無効化されて戦いは泥沼の様相を呈した。それでも私達は死なないということを武器に最後は勝利した。空間ごと圧縮されてぐしゃぐしゃになってたり、ありえないほど時間を経過させられてミイラのようになっていたり、波打つ大地の下敷きにされていたり、人間は悲惨な状態になっていた。


 まだまだ子供だった私達はそれから震えて互いを抱きあいながら眠りについた。戦いは私達には早すぎたのだ。


 次に目が覚めたのは創造主が遊びに来た時だった。その時、私達の祠の外のことを初めて知った。私達が殺した人間の世界が外に広がっていて、そこには数えきれない数に人間が暮らしているのだそうだ。


 寒気がした。私達を殺しに来る輩がそんなにいるのかと、体が震えた。死なないということが分かったとはいえ、本当に死なないだけだった。先の戦いで時間制限付きとはいえ、権能が封じられた時は本当に生きた心地がしなかった。もしそれを時間制限なしでできたら……、考えただけで今でも震えが止まらなくなる。


 だから創造主がその人間の街に行こうといってきた時は本当に意味が分からなかった。彼の言う通りにしないという答えはなかったが、それでも出発のその瞬間まで体が、心が恐怖を訴えかけてきていた。


 人に扮した彼の後ろを隠れるように3人でついていった。そこで私達が目にしたのは、穏やかに日常を謳歌する、戦いとは無縁の人たちだった。初めてごはんを食べた。初めて飲み物を飲んだ。初めて娯楽というものに触れた。


 夜になり、その町からこっそりと抜け出した時は心が躍るようだった。これまでの生活では感じなかった刺激というものに触れたのだ、当然と言えば当然だろう。だが、私は同時にその表裏の乖離性により明確な恐怖を感じた。あの穏やかな人間が、私達を殺しに来るように豹変するのだと。彼らの持つ文化というものにはもっと触れたいと思ったが、それ以上に人間は恐ろしいものになった。


 そこで私達は明確に分かれた。祠に帰り、これから人間とどのようにするのかを放した時に私達はまったく異なる答えを出したのだ。


 私は極力人間に関わらないように、ノエルは関わる人間をごく少数に限るように、ロキは人間社会にそれとなく溶け込むようにすると。それからはたまに会うことはあれど、基本的には別々に行動するようになった。




 だから、私は本当に自分の眷属を作るのは初めてだったんだ、ヨミ。ノエルのやつが初めて自分の眷属ができたって興奮してた時のことを思い出してしまった。感情なんてあるのかと思っていたあいつが笑顔でわざわざ報告に来たからな。その時はそんなにうれしいのかと話半分に聞いていたが、今になればわかる。


 これがきっと、人間にとっての家族なんだろう。まだ会って一週間もたっていないのに、ヨミが何か悪意にさらされていると思うだけで怒りがふつふつとこみあげてくる。


 だから今、私はとても怒っている。この家の扉をガンガンと無遠慮に叩いている人間に。せっかく休んでいるヨミが起きてしまったらどうする?どうせスタンピードが起こったとか何だろうが、ヨミには関係ないだろう?今朝そんな話してたではないか。本来いるはずがなかったとかなんとか。


 だがヨミ、貴様はどうせ行くんだろうな。この街のために戦ってしまうんだろう?それに口には出していないが、まだあの3人にも心残りがあるんだろう?


 ……しょうがない。私は見守るさ。だが、もしもの時は


 ―――きっと何を犠牲にしても、貴様を守る。

登場人物紹介


コウセツ、ジュン、エリザ


体力:D、C、F

魔力:E、E、C

物理:D、E、F

魔法:E、E、C

総合:D


元ヨミのパーティーメンバー。ヨミから冒険者のいろはを叩きこまれた彼らはDランクの中ではそれなり。だが残念なことに経験がまだ足りておらず、上位に食い込むことができないでいる。


そんな彼らは何を考えたのか、ヨミを裏切る形で彼女から離れた。果たして彼らは何を見て、これから何をなすのか。


それはきっとすぐにわかるだろう。

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