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そして神託は下される side:ゼルエル



それから、色んな人に荷物の整理を手伝ってもらいながら片づけをしていたら、あっという間に夕食の時間になっていた。

再び執事さんの案内されてやって来たのは、これまた見事な部屋だった。

優雅で気品に満ちた室内に怯えながら入り、やはり恐々と勧められた椅子に腰かけた。

この豪華な空気にまったく引けを取らないどころか、むしろ馴染んでいるヘルエムさんとメレクさん凄い・・・。

不意に伯父さんの家のハリボテ感を思い出し、あんな仕打ちをしてきた人達なのに若干の同情すら覚えてしまった。


あまりに場違いなんじゃないかと怯えながらも、優しく気遣ってくれるヘルエムさんとメレクさんに精一杯の笑顔で答えていると、これまた優美な仕草でセラフィナさんが部屋に入ってきた。

フワリ、僕に視線を向けて微笑むと見惚れるほどの優雅さで椅子に腰かけた。

ああ、スゴイ。本物の貴族というものは椅子に座るだけで絵になるものなんだなぁ・・・。



見たことのない豪華な料理と曇りひとつない食器がテーブルに並び、僕は再びの緊張に襲われた。

けれども、しばらくすれば美味しい料理と穏やかな会話にすっかり緊張は解け僕は久しぶりに楽しく食事をすることができた。



そして出てきたデザートに、僕は固まってしまった。

目の前に置かれたのは、とても美味しそうなゼリー。

ツヤツヤとしたゼリーの中には色鮮やかなキウイが閉じ込められていた。


・・・どうしよう。


正直に白状しよう。

僕はキウイが苦手である。


あくまで苦手であって食べられないほどでは無い。なので、ここは我慢して食べよう。

ゼリーだし、あまり噛まずにツルンって飲み込めるはずだ。作ってくれた料理人には申し訳ないけれども・・・。


そう覚悟を決めたのはいいけれど、なかなか手がスプーンに向かって行かない。

ヘルエムさんとメレクさんは美味しそうにゼリーを食べ始めている。


早く、早くしないと・・・。

気ばかりが急いて肝心の手が動かなくて焦る僕をセラフィナさんが呼んだ。


「ゼルエル!」


「はい、なんですか?」


「ゼリー、交換して!!」


「・・・え」


今、なんて?彼女は何て言ったんだ??

自分に都合のいい聞き間違えをしたんじゃないかと呆然としている僕の前で、あくまで自分の我が儘であるかのようにセラフィナさんが振舞っていた。


いや、待って待って。

僕のゼリーを食べたいなんて言ってるけど、コレって中身が皆バラバラだよね。

たぶん、好きなフルーツを入れてるってことだよね。

僕は今日来たばかりで好みが分からなかったから旬のフルーツを入れてくれて、それが偶然にも苦手なものだったっていうことなんだけどさ。

とにかく、考えるまでも無くセラフィナさんのゼリーはセラフィナさんの好きなものなはずで、それを僕と交換したくなるわけなくて・・・。



それって・・・まさか・・・。


僕がキウイを苦手そうにしてたのに気づいたってことなのかな。

しかも、言い出しづらい僕を思いやって自分が悪者になってくれてるってことなのかな。



ああ、そうだ。そうに決まってる。

だって、そもそも別のゼリーが欲しければ僕と交換なんてしないで新しいのを貰えばいいだけの話じゃないか。

これだけ高レベルの使用人だもの、もしもの予備もぬかりなく用意してるはずだ。

それをわざわざ、あえて『僕の』と交換したいだなんて・・・完全に全てわかってやってるに違いない。


ほら。セラフィナさんの我が儘に皆ビックリしてるもん。

おそらく、いつもこんな我が儘なんて絶対に言わないんだろう。言い慣れてない感が物凄いもの。

それなのに僕のために無理して我が儘を言ってくれてるんだろうな。



ああ、ああ・・・もう、本当に・・・。

セラフィナさん・・・おねぇちゃまときたら・・・。



なんだかもう、いろんな感情がブワッと込み上げてきて泣きそうになりながらも僕は有難く『おねぇちゃまの我が儘』に便乗させてもらうことにした。


こうして僕の目の前に来たセラフィナさん、じゃなくて『おねぇちゃま』のゼリーはとてもとても美味しくて。

中に入っていた桃は、今まで食べたこと無いほど甘いものだった。


僕のために慣れない、いやむしろ生まれて初めてだったであろう理不尽な我が儘を言ったせいなのか、おねぇちゃまは挙動不審な言動をしていて、でもそれがまた僕の胸を暖めてくれた。




おねぇちゃまに胸の奥をキュゥキュゥ鳴かされながら食事を終えて、部屋に戻ってちょっとだけ休んでから、僕はヘルエムさんとメレクさん、もとい父上と母上の部屋へと向かった。

さっきのゼリーの件の真実を説明するために。だって、このままじゃ、おねぇちゃまが僕のせいで誤解されたままになってしまう。

それは絶対にいけない。ちゃんと訂正しておかないといけない。


コンコンコンコン。ノックを4回。

別に父上と母上は気にしないだろうけど、一応ね。初めて来たし・・・、礼儀を弁えなきゃいけない相手だし・・・ね。

なんて、本当はただ緊張しすぎて1回多く叩いちゃっただけなんだけど。

いけないいけない。次からはちゃんと3回にしないと。ずっと4回も叩いてたら家族として認めていないとか誤解を与えちゃうかもだし。

気をつけよう、うん。



中からの返事を待ってから名前告げて入室許可を得て、僕は静かにドアを開けた。


「どうしたのかな?ゼルエル」


にこやかに迎え入れられた室内は、父上と母上の私室に相応しく上品に豪華だった。

ちょっぴり圧倒されて口ごもってしまいそうになったけれど、それでもドモリながら口を開いた。


「あ、あの・・・さっきの食事の・・・あの・・・」


「ああ。フィーナが我が儘を言って困らせてごめんなさいね」


「・・・いえ、そうじゃなくて、あの」


「いつもはあんな意地悪を言う子じゃないのだけれど・・・今日はどうしたのかしらね」


おねぇちゃまを無条件に擁護するでもなく、かといって僕を一方的に援護するでもなく。

あくまで公平に物事を見定めようとする母上の言葉に勇気を貰って、一度深呼吸をして気持ちを落ち着けてから僕は言った。


「ぼ、僕、実はキウイが苦手で・・・だから、おおおねぇちゃまは気を使って交換してくれたんじゃないかって・・・その、思って・・・」


つっかえつっかえながらもキチンと事実を告げることができて、僕はホッと溜め息を吐く。

そして、僕のたどたどしい言葉を黙って聞いてくれていた父上と母上は、ちょっと驚いた顔をしてからとても嬉しそうに微笑んだ。


「あらあらあら。そうだったの。まあまあ、フィーナったらしっかりお姉さんらしくなって」


「そうか、そうだったのか!さすがフィーナ!!天使のように心優しく育ってくれてパパは嬉しい!!!!」


「だから、おねぇちゃまは何も悪くないんです」


「ああ、そうだな。もちろん、そうだとも。フィーナは何も悪くない。ありがとう、ゼルエル。ちゃんと本当のことを話に来てくれて」


「そうですわね。ゼルエルが来てくれなければ、旦那様も私もフィーナを叱ってしまっていたところですものね。ありがとう、ゼルエル」


「え・・・僕は、そんな。お礼を言われるようなことは・・・」


「うちの子たちは、なんて優しくて良い子たちなんだろう!!」


「ええ、本当に。こんなに心優しい子供たちがいて我が家の将来は安泰ですわね」


あの理不尽な我が儘の真相が判明して父上と母上の御機嫌は最高潮に達したらしく、おねぇちゃまと僕をベタ褒め合戦が始まってしまった。

際限なく手放しで褒めちぎられ、嬉しいより恥ずかしいが勝ってしまい居たたまれなくなった僕は早々に父上と母上の部屋から退散したのであった。



ちなみに、それから僕にはおねぇちゃまとお揃いの桃が出されることになった。嬉しい。





無事に誤解も解くことができて達成感にひたりながら父上と母上の部屋からもどってくると、僕の部屋の前でおねぇちゃまに会った。


「あれ?どうしたんですか?おねぇちゃま」


「げふっっ」


真っ赤な顔で仁王立ちしているおねぇちゃまに声をかければ、まるで吐血しそうな呻き声をあげて片膝をついた。

さらに俯いてプルプルと震えだしたのである。


「え!?だ、大丈夫。おねぇちゃま!!」


慌てて駆け寄り震える背中に手を添えれば、おねぇちゃまの顔は見たこと無いほどに真っ赤になっていて。


あれ?そういえば食事の前もこんな風になったよね。

ま、まさか。おねぇちゃまは本当は体が弱いんじゃ!?

僕に変な気遣いをさせないために隠して無理してたんじゃ!?

どうしよう。おねぇちゃまが死んじゃったりなんかしたら・・・僕・・・僕・・・。


「お、おねぇちゃま!もう無理しなくていいよ!!」


「ほへ?」


「僕が!僕がおねぇちゃまを守るから!!安心して、ね!」


「え?あ、うん」


キョトンと不思議そうな顔をしてるおねぇちゃまをギュッと抱きしめた。

そうだよ。人間なんてズルくて卑怯なヤツばかりなんだから。

こんな優しくて純粋なおねぇちゃまなんて、すぐに騙されて酷い目に合わされちゃう。

僕がずっとそばにいて守ってあげなくちゃ!ずっとずっと一緒にいなきゃ!!


強く心に誓いを立てて、おねぇちゃまを見つめれば、おねぇちゃまはパチクリ大きく瞬きをしてから小さな声で言った。


「とりあえず。明日から『おねぇちゃま』じゃなくて『お姉ちゃん』にしてください・・・」


意味はよくわからなかったけど、おねぇちゃま・・・お姉ちゃんが言うならよろこんで!

僕がシッカリと頷いたのを見て、お姉ちゃんは安心したように笑ってくれた。

それは、暗闇を明るく照らすお月様みたいな柔らかな微笑みで、また僕の胸の奥がキュゥキュゥ鳴きだした。


本当はこのままずっと一緒にいたいけど、体の弱いお姉ちゃんに無理をさせるわけにもいかない。

泣く泣く、お姉ちゃんについてきていた侍女さんに任せてオヤスミナサイと挨拶をして別れた。



自室に入り勢いよくベッドに飛び込んで、夢見たいに幸せだった今日一日を思い返す。

ほとんど全部、お姉ちゃんのことしか思い浮かばなかったけど・・・。


フワフワとした気分のまま目を閉じれば、すぐに眠気に襲われた。

お父さんとお母さんが死んでから、ずっと嫌な夢ばかりをみてきたけれど、ああ・・・今日はとてもいい夢が見れそうだ・・・。





僕の名前はゼルエル。

超絶シスコンの弟。


お姉ちゃんとの幸福な未来のために全力を尽くすとここに誓う!!!






【盛大なネタバレ】


人類史上最強のシスコンとして歴史にその名を遺すことになる。



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