三代山
フリゲが流行っていた頃に、私もフリゲ作ろう!と思って挫折したシナリオを小説に起こしました。
コンテスト応募用作品です。
更新はタツノオトシゴ級です。
どこからともなく、獣の遠吠えが響く。
一瞬、野犬でもいるんじゃないかと不安になった天野倖は、立ち止まって周囲を見回した。鬱蒼とした茂みの間に意識を集中させるが、物音も気配も感じられない。
「……あーびっくりしたー……。まあ、野犬いるって聞いてないからいないとは思うけど……。これで、もっと頭上が開けていれば良かったのになぁ」
そう独り言を呟いて、持っている懐中電灯を向けれる。照らし出されたのは空を覆わんばかりに茂っている木々の新緑、合間から見えるのは丸々とした満月だ。
お陰で明かり一つない山中でも夜の世界は思ったよりも明るいが、いかんせん木々の陰に覆われた大地には頼りない。倖愛用の超強力なキャンプ用懐中電灯が無ければ引き返していただろう。
聞こえるのは蛙の鳴き声と虫の鳴き声、そして倖自身の息遣い。
ふと背後を振り返り見れば、町の明かりがポツポツと遠くに見える。自分がいる場所を思い返し、改めて山頂に向かう坂道を歩き始めた。
その山の名は三代山と言った。
倖が住む花郷町の北東に位置し、町の者からは「三代さん」と呼ばれる標高九十四メートルの小さな里山だ。
麓には花郷町唯一の寺、三代寺があり、寺が山を所有、管理している。人里に隣接した低山であり、子供達の遊び場にはちょうど良さそうな里山……だと思われがちだが、実はそうではない。
人が入り込めそうな山の入り口には金網や立入禁止を示すロープ、有刺鉄線や立て札、おまけに見えないところには監視カメラが設置されているなど、これでもかというほど厳重な警戒が施され、寺の関係者以外は山への立ち入りが禁止されている。
何故そんな厳戒態勢が取られているのかと言えば、昔から僧侶らの修行場として聖地扱いされ、一種の禁足地扱いをされているからのようだ。
町役場の職員すら入らせてもらえないと噂されている侵入禁止の山に、高校のジャージと懐中電灯とスマホだけという出で立ちで登山中の倖。
何故そんな罰当たり行為を行っているかといえば、発端は友人の持ちかけた話だった。
『昨日、家の蔵から面白そうな文献見つけたぞ』
『お、どんな?』
『昔、とある村に人々を困らせた鬼がいて、たまたまここを訪れた旅の坊さんが鬼を倒したって話し』
『なに、その日本の昔話に使われそうなありがちな話』
『俺も最初は御伽噺かと思ったけど、よくよく読んでみるとな、その文献は家の先祖の日記だったんだよ』
『お、信憑性上がった』
『で、そのとある村っていうのがこの町で、たまたま訪れた坊さんっていうのがうちの先祖の師匠に当たる人らしい。家の裏の山あるだろ? あそこで鬼を退治して、その記念的なものでお師匠様とやらの仏像が設置されているらしいんだ。本当かどうか知らないけどな』
『へえ~……それは確かに面白そう。本当にあるかどうか確認しに行くのなんていいね。でも、三代山って万年立ち入り禁止じゃん。どうすんの?』
『どうしような。親父、年がら年中寺にいるからな』
『駄目じゃん』
――そんな話を、友人こと三代寺現住職の息子としたのが今朝。
住職と住み込みのお弟子さんたちが急に出掛けたので今がチャンスだと電話が来たのは二十時を過ぎた頃の話。
関係者の協力のもと、監視カメラの穴を突いて山に入り、そんなこんなで今に至る。スマホで時間を確認すると、二十二時。小さな山だと侮っていたが、人が殆ど足を踏みいれず、整地されていない山道はほぼ獣道と言っていい。運動部の倖ですらキツイものがある。
とはいえ、そろそろ山頂に到達してよいものだけど……と思った頃に道が開けた。膝位の長草が地面を覆うが木々はなく、月明かりが倖を照らす。伝え聞いた山頂である。が、そこがゴールではないことは雄翔からの連絡で知っていた。
一先ず休憩しようか座れそうな場所を探すと倒木を見つけ、腰掛ける。ポケットからスマホを取り出して、メッセージアプリを確認する。
「えーっと、山道という名の獣道を登っていくと開けた山頂に出るから、そこにひっそりと隠れてる道祖神を探せ……えー、マジかぁ」
周囲を見回すが、月明かりに照らされた一帯にそれらしきものは見当たらない。『隠れている道祖神』なのだから見当たらないのは当たり前だが。
周囲に懐中電灯を向けると、さほど広くはないが、熊笹が茂っているのが見え、小さな道祖神を探し出すのに苦労するのが分かった。
「えーと。『ようやく広場に到着。休憩してから道祖神探すよ』……っと。送信」
メッセージを送り、スマホをポケットに仕舞う。何か飲み物でも持ってこればよかったと僅かに悔やみつつ、空を仰ぐ。
「……そういや、明日終業式だったわ。起きれっかなぁ~。式の途中、絶対寝るよな~」
明日の自分の明確な予想を付けつつ、もう一度周囲を懐中電灯で照らした。
お読みいただき、ありがとうございました(*^^*)




