54 素晴らしい計画が・・・・・・(ブレイン視点)
「こんなチャンスはもう絶対にないですよ。さぁ、どうします? 模擬戦の後はお祭り騒ぎになりますから、今が好機です」
「わかりました! 私、頑張ってみますわ」
愚かなメイドは操りやすくて助かる。これでナサニエルを一気に地獄に落としてやれる。魔法騎士団員たちは誰もがナサニエルに好意的で協力者を見つけるのが難しい。だが、メイドの恋心を利用すれば、いくらでもナサニエルを陥れることができると気づいたのさ。
(さて、あいつの飲み物に僕が発明した『酩酊エリクサー』を仕込もう)
酩酊エリクサーは少しのお酒で、すっかり酔った状態になる素晴らしいエリクサーだ。かつての僕の上司であった副団長には「くっだらないものばかり作りやがって!」と貶されていたが、あの副団長には僕の素晴らしさが永久にわからないのさ。そもそも、副団長が女ってことが間違っている。しかも名前がエリーゼなんて可愛い名前なのに筋肉隆々の大女だった。
まぁ、今はそんなことはどうでもいいさ。僕はこれから起こる事件を想像するだけで、笑いがこみあげてくるのだった。
☆彡 ★彡
模擬戦が終わると、魔法騎士団長が高らかに宣言した。
「偉大なる騎士たちよ、この日の模擬戦は見事なる舞台となった。戦いの芸術を称え、各位の力と勇気に敬意を表し、この日を祝福しよう!」
団長の言葉に合わせて、場内は歓声に包まれる。そして、模擬戦の訓練場は一瞬でお祭りの雰囲気に変わり、屋台や露店が立ち並ぶ賑やかな場所と化した。色とりどりの旗が風に舞い、屋台では甘い香りが漂い、美味しい料理や飲み物が用意された。
騎士たちも褒められた功績に胸を張りながら友情の乾杯を交わし、模擬戦の成功を喜び合う。観客たちは屋台で美味しい食べ物を楽しみワインで乾杯した。子供たちは武器や魔法のおもちゃを手に興奮冷めやらぬ笑顔で駆け回り、訓練場全体が一大お祭りの雰囲気に包まれる。
当然、特別席にいるデリア嬢もナサニエルと並び、ワインで乾杯している。両脇にはグラフトン侯爵夫妻がおりナサニエルが家族扱いされているのがよくわかる光景だった。高位貴族のなかでも最も影響力があるグラフトン侯爵閣下のお気に入りで、そのひとり娘にこよなく愛されるナサニエル。グラフトン侯爵夫人は息子のように可愛がっているらしい。
単純にこの状況が面白くなかった。自分よりも目立ち人望のある人物がどんどん周りを味方につけて、騎士団のトップに登り詰めることが容易に想像できた。
(邪魔してやるよ、そんなもの! メイドとキスでもしてる現場を、デリア嬢に見せることができれば成功さ)
「ナサニエル。さっきの氷魔法の戦いは素晴らしかったよ。ワインのお代わりを持ってきたから、一緒に乾杯しよう」
僕はナサニエルに声をかけ、エリクサーと媚薬を仕込んだワインを直接手渡した。横から両手にワインを持ったご機嫌のイアゴが割り込んで来て一緒に乾杯をしたが、ナサニエルはなんの疑問も持たず、僕にお礼を言いながら一気に飲み干した。性格が良い奴って、人を疑わないからありがたい。
計画通り、気分が悪いと言い出したナサニエルを医務室に連れて行くふりをして、平民寮の空き部屋に向かいその扉を開けると・・・・・・ブルーのドレスを着た女性の後ろ姿が見えたのだった。




