53 あの人が恋人ならきっと無理(エレナ視点)
「サボってなんかいませんわ。私は可哀想なナサニエル様を助けてあげようとしただけなのです。だって、身分の高い貴族のお屋敷に毎日呼びつけられるなんて酷いです」
「酷い? 意味がわからないなぁ。ナサニエルは大事にされているし、愛されているから幸せだと思うよ。メイドの君が心配することじゃない」
「つっ・・・・・・、私はただのメイドではありません。私に愛される人は貴族になれるし、大きな力を手に入れることができるのです」
「え? もしかして昼間からお酒とか飲んでないよな? 妄想癖でもあるのかい? まぁ、言っておくが、ナサニエルは貴族の身分を一方的に与えられて喜ぶような男じゃないぞ。あいつは男のなかの男だからな」
ゴロヨ小隊長は私の言葉を信じてくれず、妄想癖扱いをしてナサニエル様の自慢をしながら去って行った。
(なんなの、あいつ。ナサニエル様の身内にでもなったつもり? とても失礼な男だわ。いつか、仕返ししてあげる!)
☆彡 ★彡
今日は魔法騎士団の模擬戦が大きな訓練場で開かれる。この時ばかりは隅のほうではあるが、メイドたちも見学を許された。着飾った貴族の紳士や優雅なドレス姿の貴族令嬢たちが見物に訪れ、模擬戦の興奮に身を委ねていた。
特に身分の高い貴族は、一番よく観戦できる特別な席に座り、優雅なティーセットと共に戦いを見守ることができた。その中に赤い髪と瞳のひときわ美しい女性がいた。これから始める模擬戦に目を輝かせて、ほんのりと頬もピンクに染まっている。
やがて、ナサニエル様の堂々とした姿が訓練場に現れた。模擬戦の舞台では、対戦相手として風魔法の使い手であるゴロヨ小隊長が選ばれた。彼は私を妄想癖呼ばわりした失礼な男だけど、機敏な動きと魔法の腕前で知られ、ナサニエル様の上官にあたる。
最初の一手、ナサニエル様は氷の精霊を呼び出し、冷気を込めながら氷魔法を発動した。瞬く間に、訓練場の広い範囲が氷に覆われ、氷の結晶が舞い散る中で彼の防御の土台が完成した。
ゴロヨ小隊長はその状況を見て微笑むと同時に手を振り、空気を操る風魔法を発動させた。風の流れが氷の結晶を舞い上げ、激しい吹雪が発生した。ナサニエル様は氷結の壁を使って風を逆に利用し、自らの立ち位置を守りながらも、柔軟に動いていった。
彼らの戦いは、氷と風が織り成す美しいダンスのようであり、見る者たちはその華麗さに圧倒された。ナサニエル様は巧妙に攻守を織り交ぜ、氷結の領域を拡大したり、風を利用して素早く動いたりして、ゴロヨ小隊長の攻撃を見事にかわした。彼らの魔法の対決は激しいけれど、同時に美しく、技巧的なものとなった。今回の模擬戦はトーナメント方式ではなく、魅せるためのものだったからだ。
貴族令嬢たちはナサニエル様の活躍に驚嘆の声を上げ、拍手喝采で彼を称賛した。特にあの赤い髪の美女は優雅な微笑みを浮かべながら、ナサニエル様の戦いぶりを見つめていた。高貴な家柄から漂う気品と知性が感じられたし、彼女の瞳には深い愛情と誇りが宿っていた。ナサニエル様の活躍に心を奪われ、とても満足しているのが伝わってきた。模擬戦の合間、ナサニエル様はチラチラとその女性を見ていたし、終わるやいなやその女性に駆け寄り声をかけていた。
「あの赤い髪の女性はどういった方なのかしら?」
同僚のメイドに聞くと、グラフトン侯爵家のひとり娘であるデリア様だと教えてくれた。ナサニエル様が彼女の恋人であることも知らされ、自分がとんでもない勘違いをしていたことがわかった。
(そういうことなら、私がナサニエル様をガーネット王国に連れて帰るのは無理だわね)
もう、模擬戦を見る気も失せて、トボトボとメイド部屋に戻ろうとした時だった。
「ナサニエルが欲しいのでしょう? だったら、協力してあげますよ。デリア嬢と同じようなブルーのドレスがあれば着て、平民寮の空き部屋で待機していなさい。ナサニエルを酔わせてデリア嬢と君を勘違いさせましょう。媚薬を使ってもいいかもしれないねぇ。君にナサニエルを受け入れる覚悟はあるかい?」
ブレイン小隊長が現れて私に魅力的な提案をしてきた。手には赤い髪のヘアピースを持っている。
(もしかして、私のファーストキスを奪われるということ? どうしよう・・・・・・)




