36 性根の変わらないバッカス(ナサニエル視点)
「大変だ。魔獣に遭遇したんだ! 早く助けに行こう。さぁ、みんな、なにをしているんだ?」
「きっと、もうバッカス班長は残念なことになっているよ。手おくれさ。早く逃げたほうがいい」
イアゴが私を止めた。
「なに、言ってるんだ? 仲間の生死がかかっているんだぞ」
「ナサニエル! バッカス班長はお前の悪口を散々言ってた奴だぞ」
パイヴォも行く気はなさそうだった。
「それとこれは別だろ。私は助けに行く。勇気のある奴は付いてこい!」
私の後ろをついて来た者は、新しく就任してきたゴロヨ小隊長とペーンだけだった。
バッカス班長の向かった方角に突き進んで行くと、巨大な魔獣が姿を現わす。鋭い牙と草木をなぎ払う力強い脚を持つその魔獣は、凶暴な咆哮とともに私たちに向かって突進してきた。
私は氷のバリアを一瞬で展開し魔獣の襲撃を弾き飛ばすと同時に、その反動で氷の刃を形成して魔獣に突進した。鋭い切れ味を誇る氷の刃は、魔獣の皮膚を容易に貫き、咆哮とともに傷ついた魔獣は激しく悶え苦しんだ。
私の背後ではペーンとゴロヨ小隊長が、それぞれ土魔法と風魔法を駆使してサポートする。ペーンは大地を揺さぶりながら魔獣の動きを封じ込め、ゴロヨ小隊長は私の周囲に風をおこし、魔獣からの反撃を退けてくれた。
私は氷の精霊を呼び寄せる呪文を唱え、魔獣を氷漬けにする巨大な氷結の防御円を創り上げた。防御円が形成されると、魔獣は氷の中で身動きが取れなくなり、その脅威が一気に収束され、やがて動かなくなった。
「凄いよ! ナサニエルってこんなに強いんだ・・・・・・さっきはバカにするようなことを言ってごめん」
「すまない。さっきは、俺も嫌なことを言ったよな」
ペーンとゴロヨ小隊長は謝ってくれたが、少し先で足から血を流しているバッカス班長は、しきりに悪態をついていた。
「なにをやっていたんだよ! もっと早く助けに来いよ。遅いよ、遅すぎたじゃねーかよっ」
顔面蒼白な顔で自分の片足を指し示す。かなりの損傷だが、命が助かっただけでも運が良いと思う。
「止血をして、とにかく早く治療をうけさせよう」
私はバッカス班長の足を止血の意味でもきつく包帯で巻いた。背負って移動している間も、ずっとうわごとのように文句を言い続ける。
「全部、ナサニエルのせいだ。慰謝料を請求してやる。復讐してやる。お前が恥をかかせたからいけないんだ」
「いい加減にしないか! ナサニエルがいなかったら、バッカス班長は間違いなく死んでいたのだぞ」
「ナサニエルは俺の部下だから、助けるのは当然だろ!」
「バッカス班長は可哀想な人ですね。文句しか言わない。もっと、人に感謝した方が幸せに生きられますよ」
私はデリア嬢の顔を思い浮かべた。彼女のお陰で私は人に優しくできるのだ。愛をたくさんもらっているから、人も助けたいし、バッカスでさえも許すことができた。
どんなに辛い目に遭っても、デリア嬢がいれば幸せだと言い切れる。彼女は私の太陽のような存在だから。
その後、バッカス班長を魔法騎士団本部に連れ帰り治療を受けさせたが、残念ながら杖をつかなければ歩けない身体になってしまったのだった。
☆彡 ★彡
「ナサニエル様のおばかさんめっ! こんなに酷い傷を負って・・・・・・すごく痛そうです。バッカスのことだって、助ける必要なんてありませんでしたわ。だって、少しも感謝してくれなかったのでしょう? それどころ逆恨みされただなんて」
「感謝されるためにしたわけじゃないですから。それに、ペーンとゴロヨ小隊長とは良い関係が築けそうだから、それがご褒美かもしれません」
不服そうに口を尖らせながらも、泣きながら私の傷の手当てをしてくれたデリア嬢に、愛おしい気持ちがこみ上げた。
何度も何度も「おばかさんめっ!」と可愛い声がつぶやく。
「私の傷が早く治る魔法が一つだけあります」
「まぁ、それはなぁに?」
「毎日、私にキスをしてください。そうしたら、私の傷は驚異的な速度で回復するはずです」
朗らかな声で笑ったデリア嬢の柔らかな唇が、そっと私の唇に触れた瞬間、永遠に時が止まれば良いと願った。
この愛があるからこそ、私は誰よりも強くなれる!
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