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あなたを解放してあげるね  作者: 青空一夏


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29 拗ねたデリア嬢も可愛い(ナサニエル視点)

 スローカム伯爵の処分と共に、国王陛下はスローカム伯爵家を取り潰す、とおっしゃった。家名を存続させないという決断だった。


 法廷内で魔法を使い原告側を攻撃することは重い罪に当たるため、判例として厳しい判決を下す必要があったのだ。


 スローカム伯爵家の屋敷や高級な家具、調度品等は全て競売に付され、グラフトン侯爵家への慰謝料とクラークに用立てた学費等の返済にまわされることになるだろう。スローカム伯爵家は跡形もなくこの世から抹消される。




(清々しいほどの開放感だな。私はまさに自由だ。今日こそは、グラフトン侯爵閣下のおっしゃっていた、もうひとつの誕生日だ)




 法廷の審理が終了して、グラフトン侯爵夫妻やデリア嬢の後ろを歩いてた私を、なぜか複数の女性たちが引き留めた。




「ナサニエル様。貴族でなくなったということは、平民と結婚するしかないのではありませんか? 私はエジンバラ商会長の妻ですの。ぜひ、一度私どもの娘に会っていただけませんこと? お茶会に招待しますので、後ほど招待状をお送りしますね」




「ナサニエル様。私はマクレガー商会長の妻ですわ。ぜひ、私どもの娘にも会っていただきたいです。こちらからも招待状をお送りしますわ」




 同じようなことを言ってくるご婦人が、何人も現れて戸惑うばかりだった。身分違いになってしまったが、私はデリア嬢のことしか考えられない。他の女性などにはなんの興味もわかなかった。




(そんな暇があったら、デリア嬢の顔を見ていたいんだ)




「ありがたいお話ですが、私はまったくそのような招待を受ける気はないです。私にはずっと想っている女性がいます。報われない恋でも、その人だけをずっと想っていたい」




「まぁ、素敵! 素晴らしいですわ。ますます、婿に来て欲しいです!」


「報われない恋に悩む麗しすぎる男性なんて、萌えますわぁーー」


「一途でますます気に入りました! とにかく招待状を後ほど送りますからね」




 口々にそう言って去っていくご婦人たちを見て、ため息が漏れた。デリア嬢はその様子をじっと見ていたようだ。ゆっくり近づいてきて、私の手を握りしめた。




「ナサニエル様はどの娘さんとも会ってはダメです。あなたは私のものです。そうでしょう?」




 消え入りそうな声で尋ねられた。




「もちろんですよ。平民となった私とデリア嬢とでは、身分が違いすぎて到底婚約者にはなれませんが、『繋ぎのエスコート役』が終わっても、私はあなたのものです」




「え? 『繋ぎのエスコート役』ってどういう意味ですか?」




 デリア嬢は赤い瞳を見開き、戸惑いと怒りの色がその表情に浮かんだ。繋いだ手をすっと離したデリア嬢は、すたすたとグラフトン侯爵家の馬車に向かう。




 グラフトン侯爵夫妻は既に乗り込んでおり、私はデリア嬢が乗り込む際に手を貸した。続いて乗り込んだ私に、デリア嬢は一度も顔を向けない。終始、窓の外を眺めながらブツブツと私への不満を口にした。




「ナサニエル様のおばかさんめっ。私の気持ちが通じていると思っていたのにっ。身分違いなんかじゃないわよ、繋ぎってなによ・・・・・・酷すぎる・・・・・・」




 可愛い声で何度も「おばかさんめっ」と呟かれたけれど、全く嫌な気はしなかった。拗ねている様子がたまらなく愛おしい。グラフトン侯爵閣下は訝しげに私を見ておっしゃった。




「デリアと喧嘩でもしたのかね? ちゃんと話し合わないとだめじゃないか。いいかい? 家族間でも言わなければわからないことはたくさんある。屋敷に着いたら二人の言い分を聞いてやるから、仲直りするんだぞ」




「本当にそうですよ。デリアも言いたいことがあるのなら、きっちり向かい合って話し合いなさい。それでは子供ですよ。二人とも困った子たちね。今日はナサニエル様の大好きなグラタンとシチュー両方を準備させていますからね。コックにビーフシチューをお願いしておいたのよ。デリアも大好きでしょう」




「・・・・・・はい、好きです」




 口を尖らせながら、私のほうにぴったりと身体を寄せてきて、肩にそっと頭を乗せて言う。




「ナサニエル様のビーフシチューのお肉は、私が全部食べちゃうんだからっ! ナサニエル様はじゃがいもだけしか食べさせてあげない」




 まるで子供のような言い方に、思わず笑ってしまった。




「お肉は小さく切って、私が食べさせてあげますよ。私はじゃがいもが好きなので問題ないです」




「では、私のお肉をナサニエル様にあげましょうね」




 グラフトン侯爵夫人がにっこり微笑んだ。




「いや、私の肉をナサニエル君にあげよう。若者はたくさん食べた方が良い」


 


 グラフトン侯爵閣下は陽気に笑った。いつも根底にある愛で、どんな会話も優しい結末になる。それがグラフトン侯爵家だ。




 そして、ディナー時の会話で私の誤解が解けることになるのだが・・・・・・





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