28 痛々しかった背中
「・・・・・・恐れながら、上半身だけ服を脱いでもよろしいでしょうか?」
ナサニエル様が国王陛下にお伺いをたてた。
私はそんなことして欲しくないわ。だって、観衆席にはナサニエル様の美貌に、うっとりしている令嬢がたくさんいるのよ。でも、彼は自分がどれだけ魅力があるのかわかっていないから、私を不思議そうな顔をして見つめるだけだった。
(その綺麗な顔と身体は私だけのものだし、純粋な心も、すぐに涙ぐむ可愛いところも、全部私のものなのに・・・・・・)
「服を脱ぐ? まさか傷でもあるのかね?」
「はい。幼い頃から学園に通うまで、躾と称して鞭で打たれたことがあります。背中を見ていただければわかります」
「ならば、服の裾をめくり背中だけ余に見せよ。ナサニエルがこの場で裸になったら、被害者が出るであろう。法廷で失神するご令嬢が出たら困る」
ナサニエル様は首を傾げながらも、国王陛下に背中を向けた。裾をめくるお手伝いは、もちろん私がしてあげた。ちょうど観衆席からは、ナサニエル様の引き締まったお腹のあたりが見えてしまうことが悔しい。
(ナサニエル様の婚約者になっていたら、こんな大衆の面前で身体を晒すことを止められたのに!)
そんなもどかしい思いを感じながら彼の背中を見た瞬間、私は涙が溢れて我慢ができなかった。鞭の跡が刻まれた背中は、あまりに痛々しかったからよ。治癒魔法は光魔法の一種で古代魔法に属している。この国にそれを使える魔法使いはいない。だから、この傷跡は一生消えないはずよ。
けれど、そのような傷さえも、ナサニエル様の身体に刻まれていることで芸術的に見えた。グラフトン侯爵家で毎食ディナーを召し上がっていたお陰で、ちょうど良く均整のとれた身体になっていたし、彼の美しさを損なうことは全くない。
観衆席の令嬢たちは頬を染めため息をついた。傷跡をみた国王陛下と法学者や首席判事は、顔をしかめながらスローカム伯爵を睨む。
「なんたる親だ! 弁解の余地は認めんぞ。ナサニエルの申し立てを認容する」
国王陛下の判決が即座に下された。
「ありがたき幸せに存じます」
ナサニエル様は臣下の礼をとった。今日もお祝いをしなければいけないわね。だって、正式にスローカム伯爵家から解放された日ですもの。
「ナサニエル様は平民になったの? だったら、うちの娘と結婚してもらえるかもしれないですわ」
「あら、エジンバラ商会よりも、私どもの商会の方が大きいですわ」
「いえいえ、マクレガー商会のほうがさらに大きいですからっ!」
観衆席にいた大商人の夫人たちがざわめいた。
(もう大商人の奥方たちがナサニエル様に目をつけたわ。超エリートだし、伯爵家の血を引く世界の至宝ですもの。みんな、狙うわよね)
「スローカム伯爵は当主から退け! 貴族籍からも抹消する。そこのマクソンスが家督を継ぐことも認めん。そなたたちは平民となり国外追放とする!」
さらに、国王陛下から最終的な判決を下されたスローカム伯爵とマクソンス様の膝がぐらつき、そのまま床にへたり込んだのだった。




