21 あなたの心を温めたい
初めてあの方を見てから、ずっと忘れられない。深い青緑色で、海面を覗き込むかのような清澄さがある、美しい瞳に魅せられた。その瞳はナサニエル様が微笑むと、陽光に照らされた波立つ海のようにキラキラと輝く。
ナサニエル様を招いた日は、ちょうどペトルーシュキン王国では、家族皆が揃って食事をする大事な日だった。ペトルーシュキン王国は、私の曾祖母の祖国よ。父方の曾祖母はペトルーシュキン王国の王女だった。だから、グラフトン侯爵家では、ペトルーシュキン王国の行事も生活のなかに組み込まれていた。
この大事な日に、ナサニエル様を招くことを決めた両親に感謝したい。この日に向けて、私は侍女に教わってナサニエル様のために手袋を編んだ。
「大切な人のために、一目一目を丁寧に編んでいくのですよ。思いが伝わるようにね」
「素敵ね。こうして編んでいくと、ナサニエル様の笑顔が思い浮かぶわ。前に会った時はね、沈んだ顔をして悲しそうな目をしていたのよ。これを差し上げたら笑ってもらえるかしら?」
「もちろんですわ。きっと、ナサニエル様なら大層お喜びになりますよ。初めて見た瞬間から直感しました。あの方はクラーク様とは大違いです。デリアお嬢様のお気持ちに全力で応えてくださいますわ」
「あの神々しいまでの美しさ。それに知性が溢れた深淵な瞳。全てが完璧ですわね」
「デリアお嬢様とお似合いですわ。奥様も大層気に入っていらっしゃいましたね」
侍女たちが口々にナサニエル様を褒め称えた。私は自分が褒められたように誇らしい。
なんて幸せな時間かしら。
こうして、好きな方のために手袋を編む作業は、私の心を確実に満たしていくわ。
☆彡 ★彡
当日は会えるのが待ち遠しくて庭園をそわそわと歩き回り、気持ちを落ち着けようとした。ドレス選びには、お母様が呆れるほど時間をかけた。
(何色を着たら良い?)
たくさんの色を纏ってこれしかないと思った装いは、エメラルドグリーンのドレスとターコイズブルーのピアスだ。ナサニエル様の瞳の色に包まれた私は、すっかり恋する乙女になっていた。
お父様は私の気持ちを受け止めてくださって、私の出席するパーティにはエスコートを任せると、ナサニエル様におっしゃった。
(ディナーも毎日一緒に食べられるのが嬉しい! お父様に認められたナサニエル様だから、もちろん隣に座っても良いわよね)
約束通りにナサニエル様が作ってくださった巣箱は、とても繊細で優美すぎた。巣箱というよりは上品な調度品のようで、花と鳥の彫刻が見事だ。花はピンク、巣箱は水色に塗られており、芸術品といって良いほど完成度が高い。
(このような物を庭園において野ざらしにするなんてできないわ)
だから、私はそれをお部屋に飾ることに決めたわ。私の喜ぶ顔を思い浮かべながら作った時間を『幸せな時間』とおっしゃったことが嬉しい。
だから、初めて男性にお菓子を食べさせてあげたのよ。
上手にできたかしら?
たまに、お母様とお父様も食べさせあっているもの。
お母様は柔らかく微笑んでいたけれど、お父様はちょっと苦笑いになっていた。それから、成績簿の話題がでて、お父様はナサニエル様に証言するようにおっしゃったけれど、ナサニエル様は辛そうに一瞬顔を歪めたわ。
(あの世界の至宝級の顔をよ? こんな顔はさせたくない)
お父様に注意したけれど、ナサニエル様は勘当されたから大丈夫だなんて、おっしゃったわ。そんな話には本当は胸が痛む。きっと、とても傷ついたに違いないのよ。
手袋を編んであげて良かった。
私の手袋にこめた愛が、ナサニエル様の凍える心も温めてあげられたら良いのに。




