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あなたを解放してあげるね  作者: 青空一夏


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22 あなたを(毒親から)解放してあげるね

 サロンに大きなもみの木を設置し、カラフルな飾りやボール、光る魔道具を使い華やかに飾りつけた。ガーランドやリボンを巻いて、全体を統一感のあるデザインに仕上げる。部屋中にキャンドルを配置して暖かな雰囲気を演出するのも忘れない。


 今日は大切な家族でゆっくり食事を楽しむ日だけれど、今までで最高のディナーになるわ。いいえ、これから毎日が最高のディナーよね。だって、お父様はナサニエル様に毎日来るようにとおっしゃったもの。


 ナサニエル様は私の隣に座り、少しだけ緊張しているみたい。今日の前菜はサーモンとアボガドで、上にかけたドレッシングのレモンの風味が爽やかだ。


 新鮮なサーモンは生臭さをまったく感じない。海の豊かな香りが漂い、脂の乗ったサーモンの身が口の中でほどけた。アボカドはクリーミーで口当たりが滑らかよ。これは私の好きな食材でもあったからパクパクと食べていたら、ナサニエル様がわずかに微笑んだ。


「アボカドがお好きなようですね。私のアボカドもどうぞ?」


 なんと、私に自分のお皿のアボカドをフォークで刺して、私の口元に近づけた。


「さきほど私に食べさせてくれたでしょう? だから、お返しに今度は私が」


 世界の至宝級の男性が私を見つめる。流し目で口元を少しだけ緩めたその表情が、どれだけ色っぽいかわかっているのかしら? 給仕をしていたメイドたちの数人が気絶した。


「これからグラフトン侯爵家の給仕は、女性ではなく男性にしたほうが良さそうですわね」


「ふむ。フットマンを増やそう」


 お母様の提案にお父様も頷いた。


「女性は男性に比べて貧血になりやすいですからね」


 ナサニエル様は自分の美しさを知らないの? 


的外れなことをおっしゃって、メイドの心配をしていた。


「メイドが気絶したのは、ナサニエル様が美しすぎたからですわよ」


「面白い冗談ですね」


 やはり自分の価値をよく把握していないわね。


 気絶したメイドをフットマンが食堂から別室に運んだ。



私たちは気を取り直して食事を続けた。スープは香り高いローズマリーのエキスが溶け込み、濃厚でありながらも優しい味わいだった。具のポテトはほくほくしていて美味しい。


ナサニエル様はとても上品に食事をするのよ。思わずじっと見ていると、お母様に笑われた。


「デリア。嬉しいのはわかるけれど、じっと見つめていたらナサニエル様だって緊張して食べられませんよ」


「だって、ディナーが終わったら宿舎に帰ってしまうもの」


「やれやれ。クラーク君の時とは大違いだな。そんなにナサニエル君が帰るのが悲しいのか」


「もちろんですわ。だって、帰ったら明日の夜まで会えないのよ」


「まぁ。デリアもそんなことを言うようになったのねぇ」


ナサニエル様は困ったような顔をなさった。


(困らせるつもりなんてなかったのに)


「お願いですから、もっと笑って。グラフトン侯爵家は居心地が悪い? 私のことは嫌いですか?」


「・・・・・・居心地はとても良いですし、デリア嬢のことは好きです」


「良かった」


 私はお魚のバジルソースがかかったオーブン焼きを一口食べた。ナサニエル様も同じタイミングで召し上がって、目が合うと微笑みあう。


 香り高いハーブとガーリックで仕上げたジューシーなラムチョップも美味しかった。外側はパリッと焼きあげられ、中は肉汁たっぷり。肉の旨みが口いっぱいに広がった。ナサニエル様はちゃんと食べている。少食なわけではないらしい。


 お母様がナサニエル様に、日頃の食生活のことを聞いていく。すると、朝食は食べないことが当たり前で、お仕事で忙しい場合には、夜までなにも食べないこともあるとおっしゃった。


(あり得ないわ。1日一食だなんて・・・・・・)


「朝はミルクだけでも良いからお飲みなさい。宿舎の食堂で朝食も食べられるでしょう? まったく、病気にでもなったらどうするのですか」


「昼を抜くのもダメだぞ。たまには、私が魔法省に行って食事に誘うことにしよう」


 早速、お母様から叱られて、お父様からは一緒に食べるように言われていた。ナサニエル様は嬉しそうに微笑んでいる。


「あれこれ言われて迷惑だとは思わないのですか?」


「いいえ。私の両親は私が1日なにも食べなくても気にしない人たちだったので嬉しい驚きでした。病気になっても使用人に任せきりで、心配されたことはありませんでしたから」


 胸がズキンと痛む。


(なんて、かわいそうなの!)


 お父様は励ますように肩を叩き、お母様はバナナやオレンジを朝食用に持たせていた。宿舎の食堂で食べないのなら、せめて出勤前に果物だけでも食べるようにと諭されていた。


 宿舎に帰る時には、早速私が編んだ手袋をしてくれた。お母様が持たせた果物が入ったバスケットを、大事に抱えて馬車に乗ったナサニエル様が見えなくなるまで見送る。


「デリアの夫というより、息子ができた気分だな。朝も昼も食べないとは困った子だ」


 お父様はそう言いながら笑った。婚約はまだこれからだけれど、既にナサニエル様は私たちの家族になったようなものだわ。スローカム伯爵家にはもう絶対に返さない。


( ナサニエル様。あなたを解放してあげるね!)







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 ※強力なグラフトン侯爵家を味方につけたナサニエル。スローカム伯爵はどんな態度にでるのでしょうか? 裁判の行方は? 

 ナサニエルのちょっとした勘違い(新たな婚約者を見つけるまでのエスコート役だと思っている)は、いつ気づくのでしょうか。

 まだまだ続きます!

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