90 またね
今日は、学園の卒業パーティーだ。
なんと、ラストダンスにアンディとリーナが踊ることになった。
ダンス大会では、圧倒的な力を見せつけた二人だった。
リーナは宣言通り、半年間婚約者を作らなかった。だがその期限を過ぎるとすぐに、アンディから申し出を受けて婚約した、お似合いカップルだ。
特にアンディは成長が著しく、中性的な美少年から、黒髪の美丈夫と呼ばれるほど、リーナの頭が肩の位置になるくらい、身長が急激に高くなった。リコの身長も超えるほどだ。
身体つきも、細身ながらも筋肉がついており、頼り甲斐があるものに成長した。
なのでしょっちゅう、「節々が痛い」と言っていたのは、良い思い出。
ラストダンスの最後には、アンディがリーナをお姫様抱っこしてから終わるという、学園の伝説「ラストダンスのお姫様抱っこ」が披露された。
これにはリーナも目を丸くしており、打ち合わせなしでやった事が伺えた。
学園の卒業式が終わると、すぐにドリスとエル、そしてトールとミリィ、ついでにアンディとリーナの合同結婚式があった。
ドリスのドレスは、姉の夫のヴェンデルのデザイナーに誂えてもらい、ブーケにはアピッツ領に咲く、ハーブの花でまとめてもらった。
ミリィのドレスは家族の意向で、老舗ブランドのデザイナーに誂えてもらったらしい。ブーケは、ファルトマン領とシューラー領に咲く花でまとめていた。
リーナのドレスは、ドリスと一緒のデザイナーに誂えてもらった。ブーケはブローン領を代表する花と、ワシュー王国の国花とアンディ個人を示す花でまとめた。
三人のドレスはそれぞれ趣が違って、新鮮だった。
ドリスは、シンプルでふんわりとした、プリンセスラインのドレス。
ミリィは、正統派なかっちりとした厚みのある生地のAラインのドレス。
リーナは、スカートが段々のフリルがついている、ボリュームのある、プリンセスラインのドレスだった。
三人で同時に誓いのキスをするのは、ロザリファでは初めてらしく、皆、珍しい目で見ていた。
結婚式が終わり、いよいよアンディとリーナとの別れが、近づいていた。
アンディとリーナは、ワシュー王国に着いた後、国を挙げての結婚式を大々的に行うそうだ。
リーナは、それを嬉しそうに言っているが、どこか寂しさを感じさせていた。
アンディとリーナがワシュー王国へ行く日になった。
ドリスは泣いた。
ミリィも目に涙を溜めている。
リーナはすでに赤い目をしていた。
男性陣はあっさりと、「手紙寄越せよ」で終わっている。
ドリスもその予定だったのに、どうしても涙をこらえきれなかった。
けれど、再会も誓い合った。
また、いつの日か会えるように。
ドリスとエルは結婚式の後、王たっての要請で、色々な国の農業指南に出向くことになった。
ワシュー王国へ出向くこともあり、リーナとアンディとは思った以上に早い再会となったのは、言うまでもない。ワシューに滞在中は出来る限り、リーナとアンディと一緒に過ごした。
様々な国へ渡って帰国したが、結婚式からなんと、三年は経過していた。
ドリスとエルは子どもを二人授かった。
上の子は銀髪に碧眼の男の子で、ラインハルトと名付けた。
エルそっくりの顔立ちである。
下の子は銀髪に碧眼の女の子で、カトリーナと名付けた。
顔立ちはドリスそっくりであった。
上が男の子なせいか、下のカトリーナもラインハルトと一緒に剣を握って遊んでいた。
しかも、カトリーナには生まれてすぐに精霊が憑いた。
上位の土の精霊である。正直これには、ドリスも驚いた。
カトリーナはどこか勇ましい性格で、将来は、少し前に出来たばかりの女性騎士団に入ると、今から躍起になっている。憑いている土の上位精霊は、初めて人間に憑いた精霊なのだそうで、アイリスが懸命に教えているが、勉強が苦手らしく、苦戦している。
どんな子になるんだろうと、どこまでもマイペースなラインハルトよりも、気が気でならない。
トールは、自分の商会を立ち上げ、見る見る内に国一番の出版社となった。
ここで発行する情報誌は、どの情報も正確だと評判になった。
文字も一種類の書体しかなかったが、様々な書体を提案し、自社の雑誌や新聞、本に載せたところ、それが「読みやすい! 可愛い! 面白い!」 と好評になった。
その功績が認められ、王から爵位を賜り、トールは、エッフェンベルク伯爵と名乗ることになった。
それに伴い、出版社の名前も、ファルトマン出版社から、エッフェンベルク出版社に変更した。
トールとミリィには三人の子どもが生まれた。
上の子は双子の女の子で、エレン。
双子の片割れの女の子は、ララ。
どちらも茶髪に碧眼のミリィそっくりの女の子だった。
一番下の子は男の子で、アクセル。
淡い金髪にグレーの瞳のトールそっくりの男の子だ。
エレンとララの五歳下になるアクセルは、双子の姉の良いおもちゃだった。すでにアクセルは女性に夢を持たなくなっていて、僕のお嫁さんはうるさくない人が良いと言うようになってしまったそうだ。
アンディは臣籍降下はせず、希望通り王弟として、王の補佐をする事になった。
外交官として、しょっちゅう他国に行っているらしく、たまにロザリファに行く時はリーナに羨ましがられると苦い顔して言っていた。
アンディとリーナも、二人の子どもに恵まれた。
上の子は男の子で、クレイグ。
リーナそっくりの黒髪に、緑の瞳だった。
下の子は女の子で、フリーデル。
アンディそっくりの黒髪に、緑の瞳だった。
リーナの子ども達はオレンジの瞳を受け継がず、ちょっとリーナが剥れたらしい。
なんと、フィーネも結婚した。
フィーネはアピッツ家の使用人の男から求婚され事情を話したところ、フィーネの罪が受け入れられた上での結婚となった。
いずれ、自分の子どもをドリスの子どもの使用人にしようと躍起だ。
そして、フィーネにも子どもが出来た。
上は、茶金のウェーブの髪に茶色の瞳の男の子、フォルカー。
下は、フォルカーとは双子で、容姿もそっくりのフリッツ。
どちらも旦那似で、ドリスの上の子、ラインハルトと同い年だった。
なので、ドリスの子ども達とも仲良く遊んでいる。
今、ドリスは、学園での日々が綴られた、日記帳を開いていた。
最初の言葉は、「負けるものか」と書いてある。
そして最後は、「またね」と綴ってあった。
学園での日々は短く、そしてとても濃密な日々だった。
最初は、結婚なんてしないだろうなんて考えていたのに、いつの間にか隣にエルがいて、子ども達も加わった。
今度、アンディとリーナが、子ども達を連れて、ロザリファに来ると連絡があった。
それで懐かしい日々を思い出し、日記帳を開いていたのだ。
子ども達もいずれ、学園に入学するだろう。
そして、沢山楽しんで、悩んで、考えて、濃密で輝かしい日々を過ごしてくれると良い。
その思いを胸に、ドリスはゆっくりと、日記帳を閉じた。
これで、「ドリスの学園生活が気まま過ぎて困る」は完結になります。
あとで活動報告に、「つり目」と「ドリス」制作の裏話を載せる予定です。良ければのぞいてください。
この話の裏側や、過去話などは、番外編「アルベルツ家周辺の人々」に随時載せる予定です。
ここまで読んでくださった皆様、ブクマ、評価をくださった皆様、誤字報告をくださった皆様に感謝申し上げます。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!!




