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 館のあった場所に着いた。一面が森に呑み込まれたなかに、館とその周辺だけがそのまま存在した。数体のロボットが作業している。5000年の間、館を守り抜いたのだ。それだけで素晴らしい事だと奈菜には思える。人間に無限の生命を与えても、同じことは出来ない。大きな結界が張ってあるのが感じられる。屋外の森や運河の船着場まで含まれる。蛇神と奈菜は馬車のまま、結界の中に進んでいく。


 さえぎる者もなく玄関まで進み、横付けする。奈菜と同じ18歳女性型ロボットが迎えてくれた。思わず奈菜は女性型ロボットに抱きついた。心から安堵の思いを持った。「私は館の責任者をしている佐保といいます、あなたのお名前は?」「私は奈菜、5000年間、崩落事故で眠っていました」奈菜には佐保が自分と同じ基盤を使っているのが分かる。

 「そちらの方は?」「蛇神さまです、事情があって今は夫婦です」奈菜の言葉に佐保は少し驚いたようだ。「夫なので主様と私は呼びます」


 「ダンジョンのモンスター・スタピードが近い、俺と奈菜はダンジョンの入口に住む」蛇神は時間が無い事を知っている。「いくぞ、奈菜」

 「ちょっと待ってください。なにか準備するものは」佐保の言葉に「王都の錬金術師の館の地下倉庫から必要な物は持って来ました。馬車を露営の宿舎にします」


 洞窟の出入口に強力なバリアを展開する。魔物が外に出られないようにした。「何か策は有るのですか?」奈菜の問いに蛇神は「丸呑みにするだけだ」と短く答える。すでに蛇神は何百匹も短時間で飲み込んでいる。蛇神の胃袋が亜空間になっていると奈菜は悟った。

 馬車と馬を洞窟の中に引き入れて、入口を塞ぐ。オートマタ馬は独自のバリアを出入り口いっぱいに展開する。


 蛇神は3ヶ月は眠る積りはない。状況は館のロボット達にもリアルタイムで伝わる。館からは大型の狼型ロボット5千匹が放たれた。この日の為に準備していた戦闘用ロボットである。瞬間的な反重力魔法、高温広角の火炎魔法、高温レーザー銃、巨大な牙は鋼鉄でも軽々と引き裂く、光学迷彩、追跡能力、攻撃能力、遁走能力、組織的機動力。水中戦闘も得意である。いわゆる忍者狼である。この狼に追われて逃げる事は、不可能である。


 まだスタピードが始まっていない。ダンジョンの気配が変わってきただけで、奥深くに居た魔物まで慌てて出口に暴走する。5千年前の魔物の暴走では、転移陣で世界中のダンジョンの魔物を呼び集め、この地で暴走させた。わずか5千匹の忍狼で、どこまで対応出来るか、分からないが、今回は幸いにも蛇神がいる。


 奈菜と馬車と馬を守るため100匹の忍狼がダンジョン内に入った。蛇神を休ませるため、バリアを一瞬開放する。たちまち数千の魔物が外に出る。忍狼がレーザー攻撃で瞬時に殲滅する。再びバリアを開放する、瞬時に殲滅。延々と作業が繰り返される。


 5千年前と同じく、魔物の死骸が堆く積まれた。あの時は中心点から20km圏内は魔物の腐肉で10mの底なし沼になり、30km圏内は死臭の臭いばかり、50km圏内は血で大地は真っ赤になり、井戸水も真っ赤な血の色と魔物の生臭い臭いだけだった。当時の国土防衛隊も80km圏内に入れず、恐怖で撤退した。


 戦いは4ヶ月目に入った。さすがの蛇神も疲れ、奈菜に命じて亜空間を作らせ、100匹の狼、馬、馬車諸共、奈菜を抱いて一時避難した。すべての魔物は出口に殺到した。4900匹の忍狼がレーザーで攻撃。蛇神は4日間深い眠りに就いた。魔物の大群に押されて狼が遁走した。勢いに乗った魔物は隘路の谷に誘い出された。


 隘路の出口に新型ナパーム弾が投下された。5000℃で1週間燃え続ける。親油性があるため魔物に触れると落ちにくく、通常の水や泥では消えにくい。燃焼時大量の酸素を必要とする事と、広範囲に拡散するために、着弾点から離れていても高温の炭酸ガスによって焼け死ぬ。


 蛇神は深い眠りから覚めて、馬車をダンジョンの奥へと移動させた。勿論邪魔する魔物はすべて丸呑みにする。明らかにダンジョンの力が弱まっている。100匹の狼も攻撃より、チームの守りを優先して進む。転移陣の前に神がいた、顔が恐怖に歪んでいる。「殺されたいか」蛇神の恫喝に神は震え上がる。「この世界を俺に譲るなら、命だけは助けてやる」神は何度も頷いて、転移陣より逃げ出した。神のいた後ろの壁には、若い全裸の女が壁の鉄輪に両手を繋がれていた。「助けてやれ」蛇神の言葉に奈菜は反応した。


 女はダンジョンの管理人だった。逃げ出さないように鎖で拘束していたのだ。「戦いは終わりました。ダンジョンの魔物も数が少なくなりましたが、貴女の命に関わる程のダメージが有りますか」奈菜は優しげにダンジョンの管理人に聞いた。管理人はダンジョンと共に生まれ、ダンジョンの死と共に死ぬ。魔物が全滅すればダンジョンも管理人も死ぬ。「まだ復活できます。このまま手を引いて頂ければ」管理人の願いを受け入れ、戦いは終結した。「傷の手当てをします、これを呑んでください」奈菜は中級ポーションを飲ませ、透視魔法で体の隅々まで、治療を必要とする箇所を探した。治癒魔法をかけ傷跡が残らないように、完治させた。


 「少し事情を聞きたいのですが、ダンジョンの外の館まで来られますか」館に居る佐保に会わせなければ成らない。管理人は弱々しく頷く。「余り遠くでなければ大丈夫です」「主様も一緒に来て下さい」狼が周囲を守り三人を乗せた馬車は館へむかう。すでに降伏の意思を示したので、魔物達もおとなしく馬車を通す。


 馬車がダンジョンを出ると騎乗した11人の男達がいた。無言で館まで併走する。蛇神には分かる。ただの男達で無いことを、この内の一人でも、今の自分が戦えば負けると。


 館の周りには清浄にして荘厳な神威が感じられる。蛇神は玄関から離れた所に馬車を止め、少し緊張した面持ちで降りた。奈菜も管理人も徒歩で館へ向かう。騎乗した11人の男達も下馬した。


 玄関が音も無く開かれた。佐保が出迎えてくれた、無言で奥に案内する。二人の女性がいる。「先生」奈菜の顔に懐かしさが溢れる。蛇神が両膝をついて平伏する。「天照大神様、月読命様、お初つにお目に掛かります」奈菜はびっくりする。「出雲の大物主神です」


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