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友人

行事が終わった後で、城主と奥方、師範に呼ばれた。

 「今日の活躍、見事でした。じつは娘のことでお願いがあります、私どもの娘の護衛をお願い出来ますか」奥方の言葉には、なぜか思いつめたような雰囲気があった。

 「なにか事情があるのですか」ツキヨミの言葉に「娘が魔物に取り付かれて、困っているのです」奥方の顔は泣きそうになっていた。城主はそんな奥方を慰めながら、事情を話してくれた。魔物は姫君が生まれると、すぐにやって来て、「この姫は、我の花嫁となるもの、15歳になったら迎えに来る、それまで我が眷属に守らせる、邪魔立てすれば姫の命は無いものと知れ」と言って去っていった。それから魔物の眷属が離れないと言う。姫の命をたてに取られているから、腕自慢の家来たちも手が出せない。


行事が終わり、少し達成感のようなものに、ツキヨミは酔いしれた。剣舞を人前で演じるのは初めてである。前に八尋の大社で巫女舞を舞ったが、あの時は弟妹たちと空間魔法、重力魔法、精神魔法まで使い、大規模な演出をした。アメノウズメの指導が懐かしい。


 城からの迎えがきた、どのような内容なのか、現場を見ないと、いまひとつ、分らない。先入観を持たないようにして師範と一緒に向かう。


 城中は堅固な石垣が幾重にも重なり、巨大な門が武力の象徴のように思える。多くの家来が迎えてくれた。これだけの武力がありながら、娘1人を守れないのだろうか。守れないのだ、奥方は一縷の望みをツキヨミに見た。


 姫の部屋の扉の前には屈強な武士が守っている、扉を開けると大きな部屋の中に、もうひとつ部屋がある。部屋の周りを武士たちが囲んでいる。扉を開ける、異形のものがベッドの周りを守るように立っている。明らかに城中の者でない。二人の付き添いの女性がツキヨミをみると、ほっとした表情をみせた。

 

 「私はツキヨミと申します、この娘の父母に頼まれて、ここにいます。あなた方の主と話せますか」異形の者たちはツキヨミの放つ神威を見て、敵意を解いた、城主は驚いた、武力に訴えても、情に訴えても、話し合いを拒んだ異形の者たちが、ツキヨミを認めた。

 

 「あなた様は神、虚空の中で主と会って下さい」異形の者の言葉にツキヨミは頷く。

 「申し訳ありませんが、私とこの者たち以外、そとに出て下さい、私を信じて下さい」


 時空の狭間にいた。「お聴きしたい、なぜあなた方は姫君に付き纏うのですか」ツキヨミの言葉に男は答える、


 「私は時空の狭間に生きる者です。無限と思える時間を独りで過ごしてきた、意識を飛ばし、あちらこちら見ているうちに、生まれたばかりの人間にあった。赤ん坊は生まれてすぐ、死ぬところだったが私の神通力で今日まで命を永らえた、しかし私の神通力でも15年が限界だ、娘は体が弱く、一日中寝ている、私は彼女と夢の中で生まれた時から共にいる、私は彼女なくして生きられない、無限のときのなか、独りでは、さみしい、彼女は私以外友達はいない。私は彼女と夢の中で数え切れない思い出を共有した、私は彼女に選択を求めた、15歳で死ぬか、時空の狭間にあって共に無限の時間を生きるか、狭間では時間が止まる」


 ツキヨミは時空の狭間の男に語りかける「人間は弱い、たとえ今、生きたいと願っても、無限の時間にやがて倦み疲れる、彼女の意識に問うてもよろしいか」「彼女が死を望むなら、私には何も言えない、いままで友達でいてくれた事を感謝するだけだ」寂しそうに男は答えた。かさねてツキヨミは男に尋ねた「姫が同意してくれたなら、彼女とあなたの記憶を覗いてもよいか?」男は同意した。


 扉を開けると城主と奥方が待っていた。ツキヨミは二人に男のことを報告した。「姫は生まれてすぐに死ぬ状態でした、男が神通力で今日まで生かし続けた、その神通力も15年が限界です、姫は男にとってたった一人の友人です。姫にとっても男はたった一人の友達です。男には二つの選択肢しかなかった。このまま姫を死なすか、男の住む時空の狭間に姫を連れて行くか、時空の狭間は人の理からはずれた世界です。時は止まり、姫は不老不死になります、ただ人間が無限の時間を生きるには無理があります」


 ツキヨミの言葉を両親は素直にきいた。言葉には言霊があり、ツキヨミの神威と精神魔法のため、疑問を持つことも無かった。しかし、それは両親にとって意外な答だった。


 どうすれば良いのでしょう、縋る両親にツキヨミが提案する「私に姫の体を診察させて下さい、私も治癒術を納めています、それでも駄目なら、姫の夢に入って姫の意思を聞きます」


 ツキヨミは娘の精神の波長に合わせて、夢の世界を進む、ツキヨミの能力は姫の人生の全てを一瞬で知ることが出来る、夢の中での男との友情がすべてだった、姫にとって男はかけがいのない人間だった。


 痩せた体を丹念に診察する、体を透視して内臓、血管、筋肉、全ての臓器が悲鳴をあげている。筋肉が退化している、骨がスカスカに成っている。

 白血病だった、合併症もある、よくこれで12歳まで生きてこられた。ツキヨミは少女の体全体に治癒魔法をかけた。注意深くゆっくりゆっくりと。

 少女の病気について、時空間の狭間の男と何度も打合せた。


 少女は回復した。時空間の狭間の男は友人を無くした。


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