芸術学校
ツキヨミは自身の体に不思議な変化が起こっていると、最近思うようになった。この世界は空気中に魔法の元になるマナというエネルギー体が無い。ツキヨミは体内に巨大エネルギーのマナ結晶体を持っている、この世界で魔法を使えば、当然マナ結晶体が消耗していくはずだが、まったく消耗していない、ならツキヨミの魔法のエネルギーはマナでなく、神の持つ神威ではないかと思うようになった。
時空間の狭間という、特殊な環境のなかで3年も生きてきた、城の中で少女にかけた治癒魔法にも、なにか今までと違うものを感じる。
マナをすべて絶って、ツキヨミは絶対無音の世界をイメージした、世界から音が消えた、ツキヨミは人々の迷惑を考え、砂嵐舞う砂漠にいる。ここは世界の果て、魔物しか住めない場所、火炎魔法を発動した、全てが紅蓮で染まった。炎がやがて鎮火した。最大魔法をと考えたが、やめた。この星が太陽のように核融合する姿が、思い浮かんだ。たぶんそうなる、ツキヨミには、確信があった。
そういえば、あれ程焦燥した、大陸国家のオートマタが異形の者として人間に襲われるという恐怖、啓示では無かったのか、いまは、何の不安も感じない。トキハカシノカミのアドバイスを受け、それ程不安なら時空の魔法で未来を見てくれば良い、と言われた。主様と降りた惑星のときも、自分が抑えきれない衝動にかられて空間境界を越えてしまった。懐かしいアンやスージたち、弟妹たち、火のカグツチ神。
もしあの時、自分が精神魔法で操られていたのなら、誰が術をかけたのか。あのとき自分はただのホモンクロスだった、今は違う、いつから? 今の自分に精神魔法をかけるなら、神代七世の神か、まだ人の姿をしていない主、アマテラス様か、
トキハカシノカミの提案に乗り、未来へ跳躍したとき、時空間嵐に巻き込まれ、時空の狭間で3年の時を過ごした、今も時空の狭間とこの世界の間を行ったり来たりする不安定な状況が続いている。この世界と主様のいた世界の相対位置すら分らない、しかしニニギのいる大陸国家と主様のいる惑星とは空間転移陣で繋がっている、大陸国家は主様の拠点の一つになったのだ、ツキヨミは嬉しそうに微笑む。
城主が土地と屋敷をくれるという、師範の娘ゆかりと土地を見に行くと、大きな社の隣だった。「ここに屋敷を立てていいのね」ゆかりの明るい声が心地よく響く、「どんな家にするの?」ゆかりの問いに答えるツキヨミ「道場と舞台を建てたい」「剣道の?」「神の前で踊る巫女舞と、剣舞、それから世界各地の踊り、音楽、楽器と歌のことよ、演劇、みんなの前で披露するの、私たちは芸術家よ」ツキヨミは夢見るように語る。わたしも芸術家なの? ゆかりの声
城主はツキヨミの願いどうり、道場とも学校ともとれる建物と舞台を造ってくれた。「この平面図だとツキヨミの部屋はないけど?」ゆかりの戸惑いに「いままでどうり、ゆかりの部屋」ツキヨミは笑った。
学校は楽器奏者科が男女半々、あとの科は女性のみだった。演劇科は宝塚を想像すればいい。ツキヨミはクラシック音楽が好きだった。グランドピアノを作り、演奏曲目はピアノソナタが大半だった。ヴァイオリンとチェロのトリオが好きで、徹底的に奏者を鍛えた、たぶん東京音楽コンクールに出れば1位に選ばれること間違いなし。その後上野文化会館の大ホールで東京都交響楽団か、どっかのオーケストラとソナタの演奏になるが、ツキヨミの乗ってきた移民宇宙船は、遥か先の時代、そして今いる世界はツキヨミにも分らない。とにかくツキヨミの脳には有史以来の楽譜がすべて収まっている。
舞台の公開は毎日だった。雨の日は屋内で、晴れた日は屋外舞台でツキヨミとかおり監修による芸術が披露された。
隣の社の神前でツキヨミが竜笛を奏でる、凛とした響きに荘厳な神威を感じる、ツキヨミは親しみやすい篠笛も好きだがアメノウズメが作ってくれた竜笛の格調高さがすきだった。ツキヨミは神威で社の神と向き合う、「私はツキヨミ、イザナギの娘です、隣に引越して来ました、あなたの名を教えて呉れますか」隣の神は人見知りするらしく、奥に隠れてしまった。




