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 S級ポーションの製作により、師匠(先生)は領主様から最上級錬金術師の称号を頂きました。これにより、先生は研究にますます打ち込むことが、出来る環境になりました。


 最近はツキヨミと、治癒魔法の研究です。ツキヨミの体験した治癒魔法の起動から、治療までの実際を、幻影魔法で再現して貰って、先生が追体験します。3DVRではありません。幻影魔法で切られれば、本当に切られるのです。そもそも幻影魔法は、魔族が使っていた殺人術です。追体験は本当の追体験なのです。


 最初は簡単な、軽度の火傷の治療から始めました。回を重ねて行く内に、治癒魔法になれていきました。同時に先生は治癒魔法の限界も、知るようになって来ました。重度の火傷では、治癒しても傷跡が残る場合もあります。先生はポーションや塗り薬の有用性を、改めて知る機会となりました。先生は治療院を開設しました。先生の夢がひとつひとつ適うと、ツキヨミは嬉しいです。


 ポーションの素材の採取の為、ツキヨミと先生は定期的に、馬車で出かけます。もちろん妖精も一緒です。ハイキングに行くようで、みんな楽しみに、しています。


 先生の治癒魔法はまだ未熟です。時間を掛ければ、この国最大の治癒魔法師になることは、ツキヨミには、わかっています。あと精神魔法を少し、教えたいと思います。睡眠障害の患者の頭脳の緊張を解く必要があります。医療目的に特化した精神魔法は必要です。


先生の診察には、助手としてツキヨミが、必ず立ち会います。先生は患者を安心させる名人です。ツキヨミは思いつきました。「先生に透視魔法を教えよう。医療師が人体の構造を知らなくって、どうする」


 時間が空いたとき、ツキヨミは自分が透視魔法を発動させて、医療行為に応用する様子を、幻影魔法で先生に、リアルタイムで体験させます。見せているのではありません。体験させているのです。一緒に体験しているのでは無く、先生が体験しているのです。全責任は先生にあります。先生のほかに、ここには誰もいません。その切羽詰った気持ちが幻影魔法です。


 ツキヨミの指導のお陰で、先生は必ず透視魔法で、患者の様子を、観察します。患者の話をよく聞きます。患者の体がこういった状態のとき、患者は胸の痛みを感じるのですね。正常な人の体と、患者の体の差異を詳しくしらべます。治癒魔法で正常な状態を強くイメージしながら、注意深く経過をみます。強い治癒魔法は掛けません。常に自分が何をしたいのか、意識しながら、治癒魔法をかけます。無理だと思ったら、中断します。何回かに分けて治療します。


 ツキヨミは精神魔法の必要性を考えます。先生はすでに精神魔法師ではないか。患者に安心感を与え、よく患者の話を聞き、的確な助言を与える。否、必要性はある。患者が記憶を無くしている状態、精神病の場合、意識が無い場合。いろいろ考えられる。


 ツキヨミは先生に、精神魔法の内容について、教えます。先生が必要ないと言えば、ツキヨミは教えない積りです。先生は精神魔法が、諸刃の剣であることに、すぐ気がつきました。しかし精神魔法を使わなければ、救えない命があることも、気がついています。


 「私は精神魔法を弟子に教えないかもしれない。私の代で魔法は終わりにするかも知れない。たぶんそうなる。それでいいなら、教えて」


 ツキヨミは先生に、精神魔法を教えました。きっとこの人なら正しく使ってくれる。そして多くの患者を救ってくれる。祈る気持ちで教えました。先生もツキヨミの心が、祈りが、わかるようです。これって精神魔法ではないのかと疑問に思いながらツキヨミは教えます。


 先生の経営方針は、無理をしない事です。僅かの利益で経営が成り立つなら、それでいい。多くを求めません。だからと言って、聖人ではありません。ツキヨミや妖精たちと、一緒に買い物をして、一緒に美味しい物を食べて、一緒に運動して、一緒にポーションや薬の素材の採取にいって、一緒に作って、一緒に食堂と工房と病院を運営します。そして一緒に寝ます。おおきなベッドのうえに、全員で寝ます。これが先生の幸せです。そしてツキヨミの幸せでもあります。


 


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