第9話 鉄砲無双
鉄砲、それは漢のエターナルドリーム……
オレの左手には龍の紋章(のようなただの痣)がある。
左手を握り締めて拳を作り更に手首を限界まで曲げて真っすぐ前に伸ばす。そしてやや内側に捻った状態で後方約30度の角度から斜めに睨むと、俺の左手首から甲にかけて龍を模った何か(タダの痣なんだけどね)を見出す事が出来るだろう。
これはオレが厨……中二の時に交通事故に遭った時に出来た傷痕だ。あの時に異世界への転生を垣間見た(ような気がしている)オレは何時向うの世界へ召喚されても困らないようにと、こちらの世界の知識を学び続けている。
前回の調査では火薬を使用した爆弾が魔王との戦闘において機動力に欠けるといった判断をせざるをえなかった。だが技術は進歩するものなのだ。爆弾がダメと言うならそれを小型化して遠距離からの攻撃手段へと昇華してみようではないか。
そう、鉄砲伝来である。
鉄砲、それはかの六天魔王が天下に武を布くための手段として用いられた最新兵器の名称であると同時に、アニメやマンガそして映画の物語進行においても欠かす事の出来ないアイテム。
爆弾を漢のロマンとするなら鉄砲とは決して飽く事の無い見果てぬ夢のようなものだろうか? 剣だ刀だと騒いではみてもそれは少し長いだけの包丁を振り回して喜んでいる児戯にも等しい行為にしか見えない。敵の攻撃範囲の遥か外側から齎される即死の一撃。それこそ人類の誰もが夢見た力の象徴。
上記の説明で理解が出来なかった婦女子諸君の為にここで少しイージーに鉄砲について記しておこう。
鉄砲とは火薬の爆発力によって弾丸を発射する機能を有した携行可能な武器の事で主に対人武器として使用される。ちなみに鉄砲を大きくしたものを大砲と呼ぶがこれには鉄砲とは違ったロマ……運用方法が用いられるのでここでは鉄砲のみを取り上げる事にする。
オレたちが学校の教科書で習う鉄砲とはマスケット銃の一種で瞬発式の火縄銃(マルチロック式)を指す。この方式のものは主に日本で使用されていてヨーロッパのものとは若干の違いがある。この鉄砲が進化して火打石(燧石)を用いたフリントロック式銃へと進化するのだが、引き金を引いてから発射までにタイムラグがあり日本では余り好まれなかったようだ。
このマルチロック式マスケット銃はこちらの世界で15世紀頃の技術があれば製作する事が出来るので異世界でも同じレベルのものが作れると思う。どちらかと言えば鉄砲よりも火薬(――それも硝石)を作る方が手間も時間も掛かるだろう。
そしてオレが作りたいのは瞬発式の火縄銃で、それは製作が簡単で射撃精度が良いという点が魔王攻略の役立つと考えたからだ。
こうしてオレとハーレムパーティの女子たち全員にも配備して、三人一組で三班に別れて弾幕を張る作戦だ。名付けて三段式……自分で言ってて恥ずかしくなったのでここらへんで止めておく事にする。……とにかくオレが言いたかったのは「戦いは数だよ兄貴!」という事だ。
『よくぞここまで辿り着いたな勇者どもよ! 今回は湿気の管理も十分なのだろうな?』
「魔王よ、オレとて勇者の端くれ。同じ失敗を二度もするような……あれ? 無い! ここにちゃーんと入れておいたハズの火薬が……どこにも無い!?」
『それで火薬が湿気ないように油紙に包んでそのまま忘れて来たとか言うのではないだろうな? 図星か……』
……オレの苦悩は続く。
(;´・ω・)「確かに同じ失敗では無いですね?」
( ゜Д゜)「失敗以前の問題だがや……」
これまでの戦績
1勝8敗(不戦敗8)