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不得意の自覚

「久しぶりね~、私の事覚えてる~?」


暫く何も言えず竜族の彼と見つめあった体制になっていると、ほんわかとした女性が間延びした声と共に白く長い髪をたなびかせて駆け寄ってきた。

そして、私はその女性をたしかに覚えている。


「お久しぶりです……聖女様。」


呆気に取られて目を見開く。見開けてるかどうかは分からないが。

その女性は確かに私の目の前で飛び降りた前任の聖女だったのだ。

私が時期聖女だと告げられ、早々に飛び降りることを強要された彼女は自分も怖かっただろうに幼かった私を抱きしめながら言った。


「これから怖いこと、辛いことがいっぱい待ってるの。でもね~、大丈夫。最後は私が守ってあげますからね。」


よしよし、と言いながら頭を撫でられ、私を信じてちゃ~んと聖女の約目を全うするのよ~?と言われ約束をした。


「うふふ、元、聖女よ。ちゃんと聖女の最後の約目を全うしてくれてよかった~。途中で逃げちゃうのもいいんだけど、あそこで抵抗して殴られちゃったらどうしようかとも思ったのよ~」


よしよ~し、とまた子供の頃のように頭を撫でられ頬が熱くなる。

ニコッと優しい笑顔の聖女は先程風を巻き起こした杖を握りながら私が落下した崖の下、岩の隙間の後光を浴びながら告げる。


「もう大丈夫よ~。ここはね、安全なのよ~」


本当の聖女だ。もしかしたらここが天国なのだろうか。それとも聖女様は生き返っていらっしゃったのか?

惚けてる私を見て「まずちゃ~んと説明しましょうね。」と、聖女様はまた笑った。


「私たち聖女はね~。最後の約目を実はひっそりと回避して生き伸びてるのよ~!

聖女は動物を連れる事が許されてるでしょ~?」


そう言えば私にも聖女となった時に部屋にフクロウがいた事を思い出した。

そのフクロウは静かな子だけれど確かに可愛くて、人馴れしていたのもあってよく撫でていたものだ。


「その動物を通じてね~基本的に前任の聖女から連絡があるのよ~。

最後の約目を全うしろって言われたら、飛び降りれば下で私達が竜族と一緒に助けるわよ~って。でもラヴェンナちゃんは魔力ないからフクロウに乗り移れないでしょ~?だから私言ったのよ。信じて最後の約目を全うするのよ~って。」


「俺たち竜族の間では聖女がここから飛び降りてくるのが恒例行事になっている。

それをその歳に家督を継ぐ竜族と前任の聖女で保護し、竜族の国に連れてくるのが習わしだ。」


続々と展開される話に置いてきぼりをくらう。

ぽけっとしていると「こっちよ~」と聖女様に手を引かれ崖の下から岩や木々をくぐり歩き出す。

枝から降り注ぐ日光が目に眩しい。

陽の光はこんな色なのかと、あの国にいた時より太陽がより近くに感じた。


そうして竜族の国にたどり着いた私は国を治めている王にまず挨拶をと言われ城に運び込まれた。国王へ謁見し、意訳だが「よくぞ生きて竜族の国まで辿り着いた。ここでゆっくりしていきなさい。国を出るのもよし、国に残るのも良い。」と言われその日はもう遅いから、とそのまま城の客室に泊まることになった。

命を助けられ、ぽけっとしてたらいつの間にか安全地帯を確保されていた。


そして「お迎えがいらっしゃいましたよ」の一言でメイドに連れられ、王城の外へ出るとそこには昨日自分を抱きとめてくれた竜族の彼が馬車の扉を開けて待っていた。

迎え?と疑問に思ったが自分は竜族の国を全く知らない。よく分からないが「分かりました」といって馬車に乗り込む。無言で向かいに座った彼と共にガタガタと揺られながら着いた場所は彼の御屋敷だった。


そしてその屋敷に着いた瞬間、彼は膝を着いて私の手を取って言った。


「聖女ラヴェンナ、私と結婚してくれないか」



そうしてこうして今に至る。

あの時求婚された私は特に何もわからず、はい私でよろしければ、と答えた。別に断る理由もなかったし、行くべきとこも無かった。


この方もまた何故私を、という疑問はあったがあまり深く突っ込むことは辞めた。

何故か彼から義務感のようなものを感じたから。

しかし蓋を開けてみれば違った。彼と過ごすうちに彼がただ不器用なだけだということを自然と理解した。

私と同じ、笑顔が下手なだけなのだ。

ふっと微笑むことも下手、ましてや意識的に笑おうとすると変になってしまう。

けれど確かにそこに感情はある。


毎晩毎晩、仕事から帰ってくると私に茶葉や花、本をプレゼントしてくれるリヒト様を不思議に思っていたらメイドが教えてくれた。

「あの方は昔から笑うのが得意ではないんですよ」と、笑いながら。


そこでまた仕事から帰ってきて真っ先に私に花束を差し出した彼へ、単刀直入に聞いてみたのだ。


「リヒト様。失礼でしたら申し訳ありませんが、もしや笑顔が不得意な自覚はお有りですか。」


そうして帰ってきた答えはこれだ。


「大いにある。」

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