第17話
明日、今話に加筆した上で再投稿します。
バシッ! と乾いた音が、廊下に響いた。
(危な……ほぼ当たってるんだけど)
瞳の数ミリ先のプラスチックを見つめながら、悟られぬようにため息を吐く。
ペットボトルを掴む右手を下ろし、まばたきをしてから乙女は口を開いた。
「何で投げたんすか白羽さ――」
「頼依でいいよ〜。あ、先輩呼びでもね!」
にっこりと笑顔を浮かべながら、白羽がウインクをする。
ふざけた言動を無視して、乙女は言葉を続けた。
「あの、何で投げたんすか。ほんとに」
「乙女っちなら、簡単に受け止めてくれるかな〜って! ね?」
首を傾げて上目遣いをする白羽に、苦い笑い声を漏らす。
顔は無表情を保ちながら、乙女は内心で文句を垂れた。
(ギリだよ、ギリ……!)
激しく回転しながら迫るペットボトル。
乙女の視界に、はっきりとは映っていなかった。
空気の微弱な振動、そして勘だけを頼りに、乙女は反射的に動いたのだった。
(ほんと、よく取れたな……私)
何となくペットボトルのラベルを眺めていると、キャップ越しに白羽の後ろ姿が見えた。
「え、あの……これ、どうするんですか?」
右手を迷子のように動かしながら、てくてくと去っていく白羽に声を掛ける。
彼女はその場で反転すると、後ろ歩きで進みながら口を開いた。
「プレゼントだよ〜! これからよろしくねっ、乙女っちー!」
両手を大きく振りながら、廊下を曲がろうと向きを変える。
そのとき――
「「あっ」」
足がもつれたのか、白羽の体が勢いよく宙を舞った。
潰れたような悲鳴が乙女の耳に聞こえ、彼女は一瞬にして視界から消えていった。
誰も居なくなった廊下を、黙ったまま数秒ほど見つめる。
そして、静寂を破るように堂々とため息を吐いた。
「何なのほんと……あの先輩」
視線を右側にずらし、左手をペットボトルの先端に添える。
乙女はぐっと力を入れると、そのままキャップを捻った。
「まあ、せっかく貰ったし。喉乾いてるし」
小さな隙間から空気の抜ける音が聞こえる。
しかし、乙女は失念していた。
このペットボトルに入っているのが、炭酸飲料だということを。
そして今さっき、これを投げ付けられたことを。
ゆっくりと左手首を回し、キャップを開けていく。
(……あれ、なんか悪寒が)
次の瞬間、乙女の視界いっぱいが真っ白に染まる。
一瞬で自分のやらかしを悟り、「あっ」と声を漏らした。




