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魔法少女の殺し方〜All we need is〜  作者: 黒鮫しゃけ
第2章

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第14話・冷酷、空き缶。

「もう間も無く着きますよ」


そう口にしながら蘭は廊下を右に曲がる。

乙女(おとめ)とラヴがそれに続くと、視界の端に自販機が映った。


(あれ、エナドリだけ売り切れてるし……)


一瞬目を向ければ、エナジードリンクの真下には『只今売り切れ』と赤文字で表示されている。

乙女の前を歩いていたラヴが、自販機を見て元気に声を上げた。


「あっ! そーだ、後でサイダーでも買おっと」


白羽(しろばね)さんにも処理をお願いするので、そんな時間はありませんよ」


(あららぎ)の無慈悲な発言を聞いて、ラヴは肩を大きく落として項垂れる。

その滑稽な仕草に、乙女はふっと視線を逸らした。


「飲みたかったなぁ……キンキンに冷えたやつ」


速度を緩めず歩いていく蘭の後を、ラヴは文句を垂れながら、乙女は無言で着いていく。

そこから数秒ほど進んだ先、廊下の突き当たりまで辿り着いた。


歩いていた蘭が立ち止まり、ゆっくりと口を開いた。


「着きましたよ千桜(ちざくら)さん。ここが課長室です」


足を止めた乙女の目の前に、『魔法少女課・課長室』と書かれた紙が貼られた、1枚の扉が佇んでいる。

傷ひとつ無いその見た目から重厚感が体に伝わり、思わず唾を飲み込んだ。


「それでは、私と白羽さんはもう行きますので。頑張ってください、千桜さん」


「あぁ、はい……えっ」


「うぅ……乙女っちを1人にするのは。でもごめん、うちも無理! が、頑張ってね!」


「え……?」


こちらを向いた2人が、そう口にしながら後ずさっていく。

乙女は小さく声を漏らしながら、離れていく2人を交互に見る。


「ここから、私1人?」


「「はい(うん)」」


ゆっくりと問いかければ、ラヴと蘭は間髪入れずに頷く。

1度唾を飲み込み、数秒ほど黙ってから口を開いた。


「……ほんとに?」


「「本当です(ほんとに)」」


返ってきた言葉に、乙女はゆっくりと右に視線を逸らす。

首元に手をやりながら、か細い声を出した。


「じゃあ、頑張り……ます」


こちらに一礼すると、蘭は背中を向けて去っていく。

ラヴは「頑張ってね〜」と声を掛け、手を振りながら蘭を追っていった。


2人の姿が見えなくなり、数秒ほどして足音が完全に聞こえなくなる。

乙女は扉の方に視線を向けて、大きく溜め息を吐いた。


「冷酷、冷酷ねぇ……」


冷酷だが残酷ではない。

どこかで耳にしたことがある言葉が、ふと頭に浮かぶ。


(命の危険、は無いだろう)


ある種の精神安定剤かもしれない。

早くなるまばたきを、目元を手で押さえて止める。


「言い換えるなら、機械人間みたいなもの。心配は要らないかな」


乙女は独り言を呟きながら、右手を前に出す。

そのとき、誰かに見られている感覚がした。


「気のせい、か……」


振り向いてみれば、そこには廊下と自販機のみ。


(これは、変に神経質になってるな。良くない良くない)


頭を振って、引っ込めた右手をもう1度前に出す。

おもむろに取手を掴み、そして、勢いよく押し開いた。


木材の軋む静かな音が耳に入ってくる。

まず視界に飛び込んだのは、部屋の惨状だった。


床一面に、資料らしき紙と空き缶が散らばっている。

壁際のハンガーラックには、何着ものスーツが掛けられている。


真ん中に置かれたデスクの上、そこに置かれたパソコンに向かう1人の女。

激しくキーボードを叩く音が部屋の中で反響していた。


乙女は息を呑み、女の容姿を観察する。


肩の辺りで雑に切られた、真っ白く傷んだ髪。

人形のように整った顔に見える、目元の酷いクマ。


充血した瞳は、モニターを見つめ激しく左右に動いている。


凄まじい剣幕に圧倒されながら、乙女が1歩部屋に入る。

そのとき、踏み出した足が何かを下敷きにし、乾いた金属音が響いた。


足元に視線を落とせば、少し凹んだ空き缶が転がっている。

銀色の缶に赤色で絵が描かれている、有名なエナジードリンクの缶だ。


「気にするな。片付けが済んでいないだけだ」


突然声が聞こえ、乙女は反射的に顔を上げた。

目の前には、変わらずキーボードを叩く女の姿。


視線はモニターに釘付けであり、こちらに気付いていないように見える。

乙女が声を出そうとした直後、女の口が開かれた。


「千桜 乙女、年齢は16。花酔東高等学校第1学年生。クラスは4で、出席番号は28番。間違いは?」


今度は、乙女が大きく口を開く番だった。

何度もまばたきをして、右足を1歩だけ後ずさる。


(知られてる、か。なんというか……気味が悪いな)


視線を女に固定して、スッと目を細める。

ごくりと溜まった唾を飲み込み、慎重に声を出した。


「あー、はい。間違いない、です……よくご存知――」


「早速だが、能力名とその詳細の説明をしてくれ」


乙女の言葉を遮って言い放つと、女は手を止めてデスク上の缶を掴み、勢いよく煽った。

爪痕のようなイラストが印刷された缶、今度もエナジードリンクだ。


女の様子に絶句しながら、乙女は尋ねられた内容を反芻していた。


(能力……能力、私の……?)


自分が魔法少女になった、その自覚は既に持っていた。

ただ、肝心の能力については認知はおろか、考えることすらしていなかった。


(この質問に、なんて答えるべきだ……)


数秒ほどの沈黙の後、乙女はゆっくりと口を開いた。


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