ダンテの一族①
季節は進む──。
山々が赤や黄色に染まったかと思ったら、冷たい風が吹き荒れる今日。
ユイは授業にサークルに自分の勉強にと、忙しいながらも充実した日々を過ごしていた。
とある日の休日。
昨日まで降り続けていた雨が上がり、久しぶりの晴れ間が顔をのぞかせた。
そんな気持ちのいい日、ユイは薬草学を受け持つダニエル・グレティーソン先生の研究室へと来ていた。
「ほほぅ……。見た目は少し細っこいけれど、無事に花が咲いたんだね」
ダニエルはユイが持ってきた小さな植木鉢に植えられた植物を興味深そうに眺める。
「一応、それから採れた種がこれです。育てただけなので、元の種から採れる効能や相性がどうなるかまでは、調べられていません」
「構わないさ。それは私の楽しみなのだから。むしろ、ここまで成長させてくれたことに礼を言うよ。大変だったんじゃないか?」
「そうですね……かなり気は使いました」
ちょうど1年ほど前、ダニエルからとある薬草の品種改良をやってみないかと話を持ち掛けられた。興味をそそられ、数株を譲り受け、つい最近まで時間が空いた際に研究を続けていた。
そしてそのうちの1株が、無事花弁を着けることに成功したのだ。
「これのレポートです。成功例はこれだけで、あとは枯れてしまったり、代り映えしなかったので、ここには書いてないです。通常通りに育った奴も、持ってきましょうか?」
「いや、それは君にあげるよ。手伝ってくれた礼としてね。あぁ、でも場所がないとか、もらっても困るなら、私のほうでもらおうか」
「場所は大丈夫です。……じゃあ、遠慮なく、いただいてしまいますね」
ユイはありがとうございますと礼を言い、ダニエルの机の上に持ってきたレポートを提出する。
「ダニエル先生、今何かお手伝いできることはありますか? 実は直近で課外行動の予定があり、いくつか入用となるので、できれば何かお手伝いできればと思ったのですが……」
ユイはついでとばかりに尋ねる。
雪が降る前に、一度1年生たちを連れて課外行動に行こうという話になった。そのための準備をするのだが、いくつか買わないといけないものもあり、手持ちの金を増やしておきたいところだった。
ダニエルはそういうことならと、喜んで手伝いの話に乗ってくれた。
「最近、どうも研究のほうに実が入ってしまってねぇ……。授業の準備をしなければと思うのだけど、研究の手が止まらず、授業で使う薬草たちの下準備が滞ってしまっているんだ。在庫もだいぶ減ってしまったし……。どうだろう、もう少し色を付けるから、今日とは言わず、せめてあと2、3日ほど手伝ってはくれないだろうか?」
それは願ってもない申し出だった。異論があるはずもなく、時間が空いた際に手伝いに来るということで話はまとまった。
ユイはダニエルに手伝いの内容を聞いて、さっそくとりかかる。
もう何度も手伝いに来ているため、大方どこに何があるのかは把握していた。
まずは、部屋の隅に無造作に置かれていた薬草の束を種類ごとに分別するところから始めていく。
いつもの通り、ダニエルが世間話を振って、ユイが相槌を打ちながら手を動かしていく。
「そういえば、君が来る少し前、救援信号が上がっていなかったか? もう解決したのだろうか」
「救援信号……そういえば、ちょうどここに来る間に見たかもしれません」
そう言われ、ユイは少し前のことを思い出す。
確かにダニエルのいう通り、ここへ来る途中に救援信号を見た気がする。どこかのサークルが課外行動中なのだろうと、さして気にも留めなかった。
「学生会が動いていると思いますよ。大事がなければ、もう解決しているかも」
「それは……そうだろう、けれどね」
少し歯切れが悪いように感じたが、ユイは気にせず作業のほうを続けていく。
さして時間は経っていない頃だろうか。
薬草の分類が終わり、調合の準備にとりかかろうかと薬草棚のほうに足を向けていた時、ものすごいスピードで研究室に入ってくる伝言鳥があった。
どうやらダニエル宛のようで、彼の目の前でそれはいきなり失速し、ダニエルの手に渡る。
ダニエルはすぐにその手紙の中身を読み始めると、次第に顔が険しくなっていった。
「……ユイくん。悪いが今日の手伝いはここまでだ。報酬も次回でいいだろうか。私はこれから少し出てくる」
「え、あ、はい。構いませんけれど……」
多くを語ることなく、ダニエルは急いで薬草などを手近のカバンに詰めると、「悪いが戸締りを頼む」と言って、すぐに研究室を出て行ってしまった。
「……何かあったのかしら?」
あまりの突然のことに、ユイは首をかしげる。
主不在の研究室に長居するものでもないので、ユイは自分の手荷物をまとめると、研修室を出た。ダニエルの伝言通り、研究室のカギをきちんと締めておく。
夕方までダニエルの手伝いをするつもりだったので、予定外に時間が空いてしまった。
だからと言って、やりたいことはたくさんあるので、特に困るということもない。
ユイはひとまず隠し部屋へ戻ろうと、研究棟を後にすることにした。




