談合拒否
しばらく後、俺は商業ギルドに呼び出させる。
俺がギルドに到着すると、満面の笑みを浮かべたギルドマスターに迎えられた。
「ウンディーネ卿。あのカカオという食品は大評判になりました。あれを仕入れたいという商人の方々が集まっているので、ご紹介いたします」
俺が会議室に招かれると、そこには10数人のおっさんおばさんたちがいた。
「はじめまして。私たちは商業ギルドの中でも食品を担当している
商人です」
一人一人満面の笑みを浮かべて、何かの書類を差し出してくる。それはカカオの発注書だった。
「とりあえず、一樽金貨10枚で千樽ほど注文したいと思います」
俺はそれを見て、少し考え込む。
なるほど、仕入れ値を安くするために商人たちが連合して一括大量発注することにしたんだな。
商人たちの間には、お互い抜け駆けしないように協定が結ばれているわけか。
どうしようかな。ここでどういう態度を取るかで俺の商人としての将来が決まるように感じる。
とりあえず一樽金貨10枚だと安いと思うので、俺は交渉することにした。
「申し訳ないが、南の地と行き来するには危険が伴う。またガーナ国と正式に取引が許されておるのは私だけだ。とてもこの金額では釣り合わぬ」
俺は手元の発注書をつき返すと、小僧だと思ってなめていた商人たちの顔色が変わった。
「ウンディーネ卿。確かにココアやショコラは美味しい食べ物だ。だが所詮は飲みものやお菓子だ。いつまでも流行が続くとはかぎらないぞ」
「そうだ。今のうちに我々全員と友好な関係を結んでおけば、今後の取引も有利に運ぶのではないかね」
商人の中でも年かさの者たちが諭すように説教してくるので、俺は首を振った。
「残念だが、商売とは競争だ。それに誰と友誼を結んで取引をするかは私が決めることだ。集団で圧力を掛けてくるような商人は信用できない。私と取引したいなら、個別に交渉することだ」
俺はそういって席を立つ。背後で商人たちの間にいろいろな打算が渦巻くのが感じられた。
会議室を出ると、商業ギルドのマスターから執務室に招かれた。
「食品を取り扱う商人連合からの談合を蹴ったそうですね」
「そうだが、何か不満でもあるのか?」
俺がそう聞き返すと、マスターは薄く笑った。
「とんでもない。ギルドはあくまで商人との間を紹介などで取り持つ組織です。個々の取引を受けるかどうかは商人たちの裁量に任されております」
そういった後で、ふっと笑う。
「私は有利な交易ルートを開拓しながら、安易な妥協をしたせいで成長できなかった商会をいくつも見てきました。もしあの商人たちの談合を受け入れていれば、今後のカカオ取引の一切を握られ、安く買い叩かれていたでしょうね」
やっぱりそうだったか。談合を蹴って正解だったな。
「おめでとうございます。あなたは大商人への最初の試練を乗り越えたようです。そんなあなただから、紹介したい人がいます」
ギルドマスターは俺を連れて、階段を上る。その階は明らかに下の階と比べて豪華な装飾がされていた。
そのうちの一つの部屋に招き入れられる。そこには、立派な髯を蓄えた美丈夫が待っていた。




