準男爵
「他にもこのようなものがあります」
俺はまず砂糖をいれてないカカオスープを献上する。それを一口のんだ毒見役は、苦そうに顔をしかめた。
「これはカカオと申しまして、血圧をさげたり体の健康を増強する効果があります」
「……ですが、その、苦いので陛下がお召し上がりになるにはいささか……」
そう苦言を述べる毒見役を遮って、俺は今度は砂糖を入れたスープを献上する。それを飲んだ毒見役の表情は綻んだ。
「これなら、大丈夫かと」
「ふむ。なら飲んでみよう」
陛下が砂糖入りカカオスープを飲むと、気に入ったみたいで何度もお代わりをした。
さらにメイの提案によって生まれた、水分を飛ばしたカカオクリームも試食してもらう。
それを舐めた陛下は頬を緩ませた。
「ふむ。美味い」
「このカカオという種は、単品ではおいしくありません。しかし、わが国の砂糖を混ぜることで、絶品の飲み物やお菓子と生まれ変わることになるのです」
これを貴族階級や富裕階級に流行らせたら、もうかりそうだ。なんとしても陛下のお墨付きをもらわないと。
「見事じゃ。新たな交易相手を開拓した功績により、卿に準男爵の地位を授けよう。ガーナ国とやらの交易は、卿が取り仕切るがよい」
陛下はガーナ王国との貿易許可証を発行して、俺に下賜してくれる。これで交易ルートの独占という利権を手に入れることができたな。
俺は手に入れた利権を確固たるものにすべく、活動を始めるのだった。
カイロの商人ギルドを尋ねた俺は、新たな交易路を拓いたことを報告する。
「南の未開地……ですか?」
「ああ。そこで新たにできた「ガーナ」という国の取引だ。今のところ信用を得ているのは私だけだが、その国の女王陛下に紹介することはできる」
俺はカカオスープやカカオクリームを差し出しながら、その有用性をアピールした。
「交易に参加したいという商人を募りたいが、紹介してくれないか?」
そう頼み込むが、ギルドマスターは渋い顔をしていた。
「今まで未知の取引先を求めて南方に向かった船は数多くいました。しかし、その殆どは帰ってきていません。南方にいるのは会話もできない野蛮人ばかりだと聞きます」
ギルドマスターはカカオスープを飲みながら、複雑な顔をした。
「このスープが美味しいことは認めます。ですが、命の危険を犯してまで手に入れるべきものとは思えません。残念ですが、既存の大商会に話を持っていっても、船を出すのは断られると思います」
それを聞いて、俺は考え込む。冷静に考えたらギルドマスターの言っていることはもっともである。
まだカカオスープのことは広まってないし、ガーナにダイヤの原石がたくさんあるというのも確定した話ではない。今の段階では雲をつかむような話かもしれなかった。
「わかった。なら、南の交易路を拓くにはどうすればいいと思う」
俺の問いかけにギルドマスターは少し考えて答えた。
「まずカカオを流行らせることだと思います。こういった嗜好品は一度広まれば一気に需要が拡大します。そうするには……」
ギルドマスターはある提案をする。それは短期的に判断したら損することだったが、俺は必要なことと割り切って受け入れた。
「では、後のことはすべて私に回せてください」
そう告げるギルドマスターの顔は、これで儲けられるとホクホクしていた。




