拒絶
「もっとも、そちらがもっと譲歩してくれたら、考えてやってもいいけどな。とりあえず、女を一晩貸せよ」
「きゃぁ!」
そういって脂ぎった手で俺の部下に触れるので、その少女は悲鳴をあげた。
「あんたたち!」
メイが腰を上げる前に、俺は手元にあった魔石を指ではじいてその男に当てる。
「『プチスチームエクスプローション』」
「うわっ!」
ボンっという音とともに魔石が爆発し、その男を吹き飛ばした。
酒場の中が一気に騒然となる。
「てめえ!何しやがる!」
すごんでくるムンディーンたちに、俺は冷たい目を向けた。
「やれやれ。これも何かの縁だと思って、話だけは聞いてやったんだが、どうやらお前たちはまともに相手にする必要のない下衆だったみたいだな。俺の部下に手をだすとは」
「ドライ様……」
俺の啖呵を聞いていたウンディーネ族の船員たちが尊敬の目を向けてきて、ちょっといい気分になる。
俺はムンディーンをにらみつけて問いかけた。
「……ちょっと聞くが、お前の身分は?」
「身分だと?平民だが」
その答えを聞いて、俺はにやりと笑った。
「俺は陛下から騎士爵を賜った。つまり、陛下の臣下になったというわけだ。たかが平民のお前が俺を傘下におさめたいだなんて、陛下をさしおいて俺の主君になりたいわけか?国家に対する反逆だな」
「なっ……」
言い返されて、ムンディーンの顔が怒りに染まる。奴の取り巻きも武器を取り出して身構えた。
「やめとけ。ここで戦ったら騎士隊が飛んでくるぞ。俺は陛下の騎士として、二君に仕えることを良しとせず誇りを守るために戦ったと証言する。お前たちは何のために戦ったと弁解するつもりかな」
それを聞いて、ムンディーンたちは顔を見合わせる。
「こ、後悔するなよ。この町で我々に逆らってただで済むと思うな。商売ができなくしてやるからな!」
ムンディーンたちは捨て台詞をはいて去っていった。
「いいの?あんなこと言っちゃって。これからこの町で交易がしにくくなるんじゃない?」
酒場を出た後、メイが心配した顔で聞いてきた。
「まあ、多少はそうなるだろうな。だけどケジメだけはしっかりしておかないと。商取引で多少譲歩することはあっても、部下に手を出されて引き下がるようじゃ船長は務まらないよ」
「へえ……」
それを聞いたメイは、ちょっと俺を見直したような顔になるのだった。
次の日から、俺たちは町に出て活動を始めた。
「さて……領地で待っているみんなへお土産を買っていくか。何にするかな?」
「お酒!」
アリルが元気よく言ってきた。
「酒かぁ。お子様はあんまり飲んじゃいけません」
「ドライ兄だってまだ15歳じゃん」
そういいあっていたら、ウードさんがアリルに加勢した。
「お酒はいいわね。よくスライム島でも作っていたし。島の人はみんな飲むわよ」
「賛成!果実を元にしたお酒が絶品なの。外のお酒も買って、参考にしたい」
メイもうなずいている。
「わかったよ。だったら買っていこうか」
俺たちは酒類を取り扱っている取引所に行くが、取引を断られてしまった。
「あんたら、ウンディーネ家の者だろ。帰った帰った。うちではあんたらに卸す商品はないよ!」
怖そうな親父に、すげなく断られてしまう。
「なんでだよ!」
「うちらの大口取引先であるムンディーン商会から通達が入ったんだ。あんたらを相手にするなってな」
親父はそういうと、俺たちを追い出した。
「まずいな……もしかしてアイツは想像以上に力をもった商人だったのかな。このままじゃウンディーネ領に足りない物の買い付ができなくなるかも」
なにせ移住者は300人以上になるので、必要な物資も大量である。よって小売業ではなく卸の商人にかけあって必要な物そろえないと莫大な金がかかるのだった。




