商売敵
俺はしばらくの間、スライム島・ウンディーネ騎士領・王都カイロを往復して金稼ぎすることにした。
スライム島でつくられるヨードチンキや耐火ジェルは、イスタニア帝国と戦争しているイシリス国では大量に需要があり、すぐに軍からは大口の注文が舞い込んでいた。
「あなた達がもたらしてくれたポーションはよく効きますよ。最近、イスタニア帝国は炎の一族を使って火を噴きかけてくるようになりましたからね。耐火ジェルは必須品です。どんどん運んできてください」
「はい」
俺は軍の要請に応え、スライム島で作られるポーションをどんどん運んでいく。こうして取引を繰り返した結果、俺たちの資産は金貨20万枚にまで増えていった。
こうして商人として順調な交易をつづけていたある日、俺とメイたち三姉妹、ウンディーネ一族はある酒場で慰労会をしていた。
「今月だけで金貨一万枚ももうかった。みんなが一生懸命働いてくれたおかげだ。今日は楽しんでくれ!乾杯!」
「乾杯!」
俺の音頭により、杯が酌み交わされる。
「ドライ兄、ここのお酒っておいしいんだね」
一杯飲んだだけで顔を真っ赤にしたアリルが引っ付いてきた。
「あんまり飲みすぎるなよ」
「へーきへーき」
アリルは調子にのって、どんどん酒を飲む。
「ふふ。最初はどうなるかと思っていたけど、うまくいっているわね。あら。このから揚げおいしい」
俺の隣でお酌してくれていたメイは、出てきた料理に舌鼓を打っていた。
「それはサソリのからあげだぞ」
「うえっ!」
口に入れていたメイは、それを聞いて思いっきり吐き出す。
「早く言ってよ!」
「あら、メイちゃんは苦手なのかしら。サクサクしていておいしいわよ」
ウードさんは平然と食べていた。
そんな風に美女美少女たちと戯れていると、他の客から鋭い視線が飛んでくる。
「おい。あの小僧何者だ?」
「最近、陛下から騎士爵を与えられていい気になっているドライとかいう小僧だ。あんな可愛い子たちをはべらかしやがって」
そんな陰口を叩かれる。
俺は無視していたが、そのうちに奴らが絡んできた。
「失礼。はじめまして。ウンディーネ卿ですかな」
尊大な態度で声を掛けてきたのは、どじょう髭の太った男だった。
「ああ、そうだが」
「お初にお目にかかる。私は王都カイロで薬を取り扱っておる交易商人、ムンディーンと申す」
ムンディーンと名乗った男は勝手に俺の前に座ると、俺が飲んでいた酒を取り上げて自分の杯に注いだ。
「よい酒だ。私がこれを飲めるようになったのは40代も半ばをすぎてからだ。失礼だがあなたのお年は?」
「15歳だけど、何かな?」
俺が不快そうに返すと、ムンディーンはフッと鼻で笑った。
「まだ毛も生えたての小僧の分際で、女をはべらかして酒を飲むとは思い上がりがすぎる。年長者として忠告しておこう」
「そうかそうか。話が済んだならあっちに行ってくれ」
俺は手を振って追い払おうとするが、ムンディーンはこっちをにらみつけたまま動こうとしなかった。
「何だ?まだ何か用があるのか?」
「卿は軍に薬を卸しておるようだな。そのせいで私の商会の薬が売れなくなって迷惑しておる。それを改めてほしい」
「はあ?」
俺は思わず目の前のおっさんをにらみつけてしまった。
「なんで軍と俺の取引にお前がからんで来るんだよ」
「本来、軍の薬酒などの備品はすべて私が一括して取り扱っておったのだ。一部とはいえ新参者の勝手を許すと示しがつかぬ」
ムンディーンはそういって合図する。酒場にいた客たちが俺たちを取り囲み始めた。
「な、なんだよあんたたち!」
アリルがシャーッと歯をむき出して威嚇するが、俺は落ち着いていた。
「それで、アンタは何を望むんだ?」
「簡単なことだ。今後はそなたたちは我が商会の傘下に入ってもらおう。軍に直接納めるのではなく、我が商会に薬を納めよ」
ムンディーンは肩を怒らせて脅迫してきた。
「……ふむ。検討の余地はあるな」
「ちょっと!」
俺が譲歩する姿勢を見せたので、隣のメイにつねられてしまった。
「いたっ!何するんだよ」
「見損なったわよ。こんな奴らに従う気?」
メイが突っかかってくので、仕方なく俺は説明してやった。
「商売している以上、取引条件を聞く度量も必要なんだ。たとえば薬を直接彼らに卸すことで、あいつらが取り扱っていて俺たちが必要している物を安く買えるようになるかもしれないだろ?」
俺はそういって、ムンディーンを見るが、彼らはニヤニヤと笑うだけだった。
「残念だが信用のないそなたに配慮する必要はない。我々が取り扱う商品は、定価で買ってもらおう」
取り巻きの一人がそういって、俺のテーブルにいたウンディーネ族の船員に近づいてきた。




