スエズ砂漠
「……何もないわね」
スエズ港についた時、メルは失望する声を上げる。俺もまったく同感だった。
「というか……ここは本当に港なのか?」
一応桟橋があって船が泊められるようになっているが、近くには申し訳程度の泉と宿が一軒あるだけで、ほかには岩山と砂しかない。俺たちが港に入っていくと、宿の親父が声をかけてきた。
「あんたら、お客さんかい?残念だけどうちは10人分の部屋しかないから、残りは外てテント張ってくれ。あと食い物は船の食料を使ってくれ」
いきなりそんなことを言われて、俺は鼻白む。
「ちがう。この地に領主としてやってきたんだ」
俺がイシリス王の任命書を見せると、宿の親父はあわてた。
「ご、ご領主様でしたか。これは失礼いたしました。私はこのスエズの地の代官をしておりますロレンスと申します」
ロレンスと名乗った親父は頭を下げてきた。
「代官?なんで宿の親父をやっているんだ?」
「へえ。ここには岩と砂以外何もない地でして。領民はあまりの貧しさにみんな逃げ出してしまいました。私は代官の立場上逃げだすにもいかず、しかたなくたまに水を補給しにくる船相手に宿をして日銭を稼いでいるありさまで……」
それを聞いた俺たちは、あまりに悲惨な状況に絶句する。
「……こんな所に住めるのか?よそに行こうか?」
弱気になる俺を、メイがたしなめた。
「ドライ。困難から逃げ出してもいいことないわよ。私たちウンディーネ一族は、水さえあればどんな場所でも生きられるの。この土地にもしっかりと根付いてみせるわ」
こうして、俺たちはスエズ砂漠に定住することになるのだった。
「さて……みんなをどこに住まわせるかな」
宿は接収したが、せいぜい10人くらいしか泊まれない。残りは船に泊まるかテントを張るしかないが、船はいずれ交易に使う予定だし、いつまでも外でテント生活ってわけにもしかない。
「大丈夫だよ。幸いここには岩山がたくさんあるし、いい住居になりそうだね」
そういうと、アリルは杖をふるって泉から大量の水の玉を浮き上がらせる。
「えい。ハイドロカッター!」
水の玉の一つ一つが鋭い刃になって、岩山の壁面を切り取る。しばらくそれを続けていると、綺麗に内部が正方形にくりぬかれた部屋ができた。
「さすがアリルね。お見事」
「褒めたって何もでないよ。さあ、みんなもがんばって!」
アリルに発奮され、みんなも水の魔法を使って街づくりに取り掛かる。あっというまに乱立する岩山のあちこちが削られて、多くの住居ができた。
「こ、これはすごい……」
俺と代官のロレンスは、簡単にできてしまった住居を見てポカンと口を開けてしまった。
「次は農業だけど、私に任せて。「水路」
ウードさんが杖をふるうと、砂漠のあちこちから水が噴出してくる。
「これで水は大丈夫。穀物は無理だけど、スイカやメロン、ブドウとかはなんとかなりそうね。スライム島から持ってきた作物の種があるから、植えて見ましょう」
ウードさんしうれしそうに砂の上にタネをまいた。
「でも、砂の上に作物が成るのかな?」
俺がそんな疑問を告げると、メイは心配ないと告げた。
「砂は植物にとってプラスになるものもマイナスになるものも含んでない「きれいな土地」なの。だから人工的に肥料を与えられる環境だと、おいしい作物が作れるのよ」
メイによると、植物に必要なものは「水」「養分」空気」らしい。砂は粒子の間に空気を多く含んでいるから、水と養分さえあればすくすくと育つそうだ。
しかも土を耕す必要もないから、初心者でも楽に簡単に農作業ができるらしい。
「でも養分ってどこから?」
俺がつっこむと、聞いていたメイが真っ赤な顔になってビンタしてきた。
「いたっ。何すんだよ」
「うるさい。それくらいわかりなさいよ!」
「……あっ」
メイが恥ずかしそうにモジモジし始めたので、俺は察してしまった。
そうだよな。人間がいれば肥料はひとりでに生まれてくるよな。それを水の魔法で薄めて植物に与えると……こほん。
「よし。これでなんとか住めるようになるわ。ドライ君はどんどん外に出て、交易でお金を稼いできて。それが男の役目よ」
ウードさんに優しく言われて、俺は発奮した。
何にしろ、これで方針は固まった。俺の領地を発展させるためにいっちょがんばりますか。
こうして、「ウンディーネ騎士領」が誕生するのだった。




