中
山田京子さん、仲間内からはキョコと呼ばれているらしい、が悪夢を見始めたのは二週間前。
下駄箱を開けると、中に猫の死体が入っていて、それを気づかずに鷲掴みにしてしまったらしい。
想定とは違う感触に絶叫を上げた彼女。
悪質な贈り物と目立つ容姿の彼女の叫びが合わさり、玄関口は野次馬で賑わったそうな。
そう言えば、やけに朝から騒がしい日があったなと思い出す。
前日の深夜までオークションを眺めていて、夜更かししていたせいで、その日の朝は頭が回っていなかった。
事の経緯をクラスメートに尋ねることも無く、そのまま教室で熟睡して担任に怒られたのを覚えている。
まぁ、兎に角その猫の死体を握り締めた日の夜から、彼女の夢にその猫が現れるらしい。
夢の中で猫は彼女を散々に追い回し、気がつくと寝汗びっちょりで目が覚める。
それが、ここ二週間ずっと続き、彼女は寝不足でくたくたのようだ。
派手にに塗りたくったアイシャドウの下は濃いくまで縁取られているらしい。じゃあ、アイシャドウいらなくね?と、言ったら怒られた。
「はい、完成。それじゃ、御代は相談料2000円に護符のアクセ代合わせて一万2000円ね。」
「高ッ!効果なかったら返品だからね!」
今月もう何処も遊びにいけない。。何てこぼしながら、彼女は財布から紙幣を取り出す。
遊んでそうな見た目に反して、意外とまともな経済状況のようだ。
まだ月初めなのにご愁傷様です、何て思いながらも御代はきっちり受け取る。
正直、このレベルの護符をこの値段で買えるのは破格なんだがな。。
前世の記憶が戻ってから数年、俺は必然的にオカルトにのめり込んだ。
かつてとは違い、ネットから幾らでも知識が得られるのだ。
西洋、東洋問わず、俺は様々な知識を集めた。
前世の経験と、
現代までに伝えられている伝承、民俗学者の論文、
そういったものから、様々に抽象された形式を組み合わせ、
さらには現代の優れた彫金道具で正確に刻まれた術印。
使われた素材も、999.0のスターリンシルバー。
かつての様に、結構な割合で他の金属が混じってはいない、純粋な銀無垢である。
実際、護符の格はかつての世で、殿上の方々にお納めしたものより上かもしれないぐらいだ。
彼女の相談から類推できる、霊症は大したものではない。
恐らく殺された猫の無念が陰の気となり大量に彼女に流れ込み、それを悪夢という形で消化しているのだろう。
誰かが死んだ猫を式にして本格的に呪ってもない限り、
この護符で陽の気を補充すれば数日中にはその無念も消化しきれるはず。
そう説明をして、チェーンを通したペンダントを彼女の首につけてあげる。
鳥の姿を象ったシルバーのトップに、精緻な術刻が刻まれている。
遠目から見ると、一寸変わったデザインのアクセにしか見えず、自己評価的には中々カッコいいと思う。
「うーん、確かに結構イケてるんだけど、それでも一万は高いよ~。」
キョコはまだ、ぶちぶち言ってる。
ちなみに京子という響きが嫌いらしく、俺もキョコと呼ぶように言われている。
「しょうがないな。。んじゃ割引は出来ないけど、ちょっとサービスしてあげよう。この後時間ある?」
不満をもたれたまま返して悪評が広がっても詰らない。
顧客満足度の低い商売は続かないのである。
まぁ、趣味でやってるような相談所だからダメになってもいいのだが。




