後
仕事道具をロッカーにしまって、キョコと二人近所のスーパーに行く。
学校の近場にあるスーパーは寮の学生もターゲットにしているので、
制服で買い物に来ても特に浮かない。
お榊とお神酒用に一番安い200mlパックの日本酒を買う。
こんな安物でも、かつての時代に供えていた最上級の酒よりよほど美味い。
いい時代になったものだ、神様も大喜びであろう。
学生服で酒を買うのは本来不味いのだが、
顔見知りの店長さんはお榊と一緒に買う分には黙認してくれる。
この店にも結構立派な神棚があるので、用途を理解してくれているのだろう。
宗教は時に法律を陵駕するのである。
荷物をもって、一番近場の神社に向かう。
キョコはメイク以外はほんとにまともな様で、
歩いている途中テレビや学校のネタで結構楽しい世間話が出来た。
女子視点での学校の人物相関は重要な情報である、主に恋愛事情に対して。
「で、取りあえず神社についたけど、何してくれんの?お祓いとか?」
女子の常でオカルトが結構好きらしく、興味津々にたずねてくる。
が、太陽光の下で見るとその顔色は悪く、薄っすら汗をかいている。
季節は、初夏のちょい前。
ゆっくり歩いてきたので、運動の汗ではない。
やはり、睡眠不足と陰の気に日々当てられたせいで体調を崩しかけている。
鳥居の前で、二礼ニ拍手をし、左から鳥居をくぐる。
神様にお邪魔しますとのご挨拶である。
誰しも、ノックもなしに家の敷地には入られたくないものである。
キョコに真似する様に言い、彼女の動作を見届けてから本殿に向かう。
この神社の祭神は水神さまである。
近くの川が昔はよく氾濫していたのであろう。
途中にあった水場で、買ってきたお榊を湿らす。
深呼吸し、呼気を整え、湿らせた榊に、気を練りこんだ息吹を吹き掛ける。
境内の水、榊の生気、それに自分の気が合わさり、榊から神気が発せられる。
隣で眺めていたキョコから、はっとした声が漏れる。
何ら鍛錬していない彼女にも感じられるほど、榊からは強い神気がこぼれ出て、うっすら輝いている。
一番鮮度の良いのを選んだ甲斐があった。
本殿の前に行き、もう一度ニ礼ニ拍手。
お神酒にストローをさして飲めるようにして、石段にささげる。
「今から、ちょっとした奇跡を起こすから、少し頭を下げてて。」
「え?あ、うん。」
お榊の輝きを見てから、どうやらマジモノとようやく理解してくれたようで、ちょっと怯えたキョコに向けて水滴のついた榊を振る。
彼女の上に軽く水滴が落ちるのを確認して、大祓いの祝詞を上げる。
「アメノミコトチノミコト・・・」
大祓いはその名のごとく邪気を祓う祝詞で、神道系の中で一番使い勝手が良い。
驚くべきことに細部は変わっていても、かつて唱えていた祝詞と本筋は一緒である。
この国が長き間、歴史の系譜を保ち続けた事に誇りを覚える。
「ヤオヨロズノカミガミニカシコミモウス・・・」
大祓いを唱え、拍手を打つ。
その瞬間、一陣の風が吹き、本殿に急に霧が満ちる。
「ヒッ・・な、何これ!?」
怯えて身をすくませる、キョコ。やばいちょっとイジメたくなってきた。
「奉げ物をして、祝詞で邪気を祓って、本殿に祭られた神様にお越し願ったんだよ。ここの祭神は水神、つまり竜神様だからね。龍は雨、風と共にくるんだ。まぁ、奉げ物に見合った力の行使だから、間を取って霧になったんだろう。」
もし、大吟醸なんぞ供えたら、ここら一体に俄か雨が降ったであろう。
安酒でよかった。
「さて、本題だ。大水の神、アマガチムネノミコトよ、この者にあなた様の神気をお分けください。邪気により傷つきし、憐れなる者に癒しを与えたまえ!鋭ッ!」
掛け声と共に、榊を持っていないほうの手で、手刀をキョコに向けて切る。
いたずら心で、少し余分に気を込める。
多分、デコピンくらいの余波はいくはず。
一瞬だけ、境内が輝き、霧が晴れる。
後には、何も無く、何時も通りの境内に戻っている。
キョコは、手刀の気に当てられて尻餅をついている。
スカートが短いおかげで、何と黄金地帯が丸見えである。
ちなみにパンツは意外にシンプルな縞パンである、すばらしい。
(ラッキー・・・神様をお呼びするのに消耗した気力回復したんじゃね?)
「わっ、キャッ、見るなよ!!」
視線を感じたのか、慌てて股間を抑えるキョコに空いてる手を差し伸べる。
顔がちょっと赤くなっている。意外と純情?
キョコはこっちを睨みながら、差し出した手を握って起き上がる。
その顔色は、さっきに比べて随分良くなっていた。
「体調はどう?多分大分良くなったはずだけど?」
「え?あ、うん、確かにさっきに比べてしんどくない。。どころか、何かぐっすり寝た後みたいに頭がすっきりしてる。」
龍神様はちゃんとお願いを聞いてくれたようだ。
「よしよし。体にたまってた陰の気も大分抜けたし、後はそのアクセを付けてれば今週中には悪夢は片付くはずだよ。まぁ、これで、本物だって信じてくれたかな?」
「うん、ヤバイ。完全信じた。それにしてもあんた凄いんだね!学校じゃ全然目立たないのに、ホンモノなんだ。それにしても神様っているんだね。。」
ちょっと怯えた表情で、二の腕を抱いている。
多分、なんか後ろ暗い経験があるのだろう。
「まぁ、自然に満ちる力を神道という概念にあてはめたときに現れる結果を神という記号で表現しているに過ぎないんだけどね。」
「ふぇ?」
「一神教みたいに、人の罪を罰する神様じゃないって事。神学の講義はまた別途有料だよ。もし、気になるんなら、授業料払ってくれたら教えるよ。」
「さて、そろそろ戻ろうか。」
はてなマークを浮かべたキョコを置いて、本殿に一礼して来た道を戻る。
今日の収入は、もろもろ経費を差っ引くと7000円弱。
バイトしたほうが、本気で割がいいかも。
そんなことを思いながら、学校までのんびり歩いて戻った。
取りあえず、完結です。
気が向いたら続き書きます。




