①「殺す理由」
「てめぇら、そんな命いらねぇよな?」
そう言って山賊どもを惨殺する侍風の男。
手には赤黒く変色した一本の刀。
命を救われた商人が、
泣きながら報酬を差し出してきた。
「ありがとうございました」
そう言い差し出された巾着袋を無造作に掴み取ると、
「礼なんかいらねぇよ」
そう言って俺は商人の顔も見ず歩き出す。
未だこちらへ頭を下げ続ける商人の気配を背中に感じるが、
『そうだな。お前はお前の都合で奴らを殺しただけだからな』
と俺の頭に声が響く。
妖刀オロチ、こいつの声だ。
「うるせぇぞ。オロチ」俺は血糊も拭かずに納刀した。
ガチン! 力いっぱい鞘へぶち込んだ。
だが、こいつはさらに言いつのった。
『ハハハ、八つ当たりか?
月が真円を描くたび、
人を斬らねばお前を殺す。
我が呪いに嫌気がさしたか?』
俺はそれ以上答えず街道を歩く。
髷を揺らし草鞋で走り抜ける飛脚とすれ違う。
『どうした? 急がねば今宵も野宿となるぞ?』
「うるせぇっつっただろ! オロチ!」
『山賊どもを斬ったのだ。当分呪いは発動しない』
「ああ、この次の満月までは、だがな。」
妖刀オロチ、こいつは俺の心に入り込んでくる。
『殺せ!』『どうした、人助けか?』『ほら、そこに悪人だ』
事あるごとに俺に囁くのだ。
俺は人を避けるようになっていた。
「こんな呪い、絶対解いてみせるからな」
強がりだと分かるのだろう、オロチは何も言わなかった。
ぐううぅぅ。
不意に俺の腹の虫が鳴いた。
『ほれほれ、早く宿で祝杯といこうではないか』
「お前は何も喰わないだろうが……」
そう返しつつも、俺の足取りは早いものとなっていた。
◇
「一名様ご案内!」
とある宿場町に俺は宿を取った。
埃にまみれた袖を払い、
草鞋を脱いで足を湯ですすいだ。
山賊どもを斬り殺した後だったが、
俺の着物には返り血一つついていない。
オロチを握っていると、身体が自分のものではないように感じる。
妖刀オロチの囁くままに刀を振るう。
それだけで人が簡単に死んでいく。
こいつの呪いも、その力も本物だ。
『逃げ惑う奴らの顔は見ものだったな』
「黙れ、飯がまずくなる」
『あの顔、あれこそが肴だろうが!』
「黙れと言っている!」
思わず大声を上げてしまい、
宿の者たちに不信の目を向けられる。
「ああ、すまない。独り言だ……」
俺は謝りつつも、用意させた膳を受け取り部屋へと籠った。
焼き魚に汁と白米。
がっつくように掻っ込むと、横になる。
目を閉じた俺にオロチが囁く。
『次の満月まで、あと十日ほどか』
「ああ」
『ならば、今宵は死なずに済むな』
「……その代わり、十日後からまた始まる」
『そういうことだ』
「満月から次の満月までに、また一人斬る。
それが出来なければ、次の満月で俺は死ぬ」
『よく覚えているではないか』
俺には十日の猶予がある。
だが、それは「十日間、人を斬らなくていい」という意味ではない。
十日後の満月を越えた瞬間から、また次の満月までの猶予が始まる。
それまでに、誰か一人を斬らなければならない。
三十人斬ったから三十回分、呪いが遠ざかるわけでは無い。
何人斬っても猶予は変わらない。
俺はため息をつき、寝返りを打つ。
満月が近づき強まる呪い。
その体中を締め付けられるような息苦しさを思い、
俺は遅くまで寝つくことが出来ないのだった。
◇
翌朝、俺は宿を出た。
当てなどない。
それでも一所に留まる気にはなれない。
『どうした? 猶予を楽しむ気は無いのか?』
「次の獲物が欲しくないのか?」
嫌味のつもりで言ってやったが、
『お前の好きにすればいい。
俺はお前の持ち物に過ぎないのだからな』
呪い殺そうとするくせに余裕の返し。
俺には妖刀オロチの心なぞ分からない。
『なら、そこの、ほれ。
その町人でも斬り殺してみるか?』
俺はそれ以上オロチに構わず、歩き出すのだった。
先日、商人から受け取った金子は十分すぎるほどある。
オロチの言葉ではないが、多少の贅沢も構わないかもな。
そう思うことにしてホクホク顔で歩いていた。
せわしなく行き来する街の人々。
そんな彼らを、街を、観光客気分であちこち見回していたが、
「おっと。ごめんよ」と正面から来た男とぶつかった。
ドン!結構な音を立ててぶつかり、男が転ぶ。
地べたに尻もちをついたのは、遊び人風の男。
髷をいなせに曲げて結い、着物の裾を腰辺りにたくし上げている。
「大丈夫か?」と、差し出した俺の手を躱し、
「へぇ、こちらこそすんませんでした」
そう言って走り出そうとする。
しかし、向こうから――
「その男、スリよ! 気を付けて」
着物をはだけさせながら必死で走る女中が叫んだ。
「!?」
俺は懐に手を突っ込み、中の金子を確認する。
無い!
たんまり入った巾着袋が懐に無い!
次の瞬間だった――
俺は逃げるスリの背中を袈裟切りにぶった斬っていた。
「ぎゃあああああ!」
スリは倒れ、手元から袋が二つ転げ出た。
町人たちが息を呑む中、
俺は巾着袋を二つ取り上げ振り返った。
「ほら、あんたのだろ?」
と走り寄る女中に巾着袋を返そうとした俺に、
スリから金を取り返した俺の顔を見て、
「きゃあああああ!」
女中が顔面蒼白となって叫びを上げた。
俺は逃げた。
女中に袋を投げつけ、俺は必死で逃げ出していた。
『いいぞ! いい太刀筋だった!』
笑い続けるオロチの声を無視し続け、俺は走り続けた。
「こんな、こんなつもりじゃ……」
簡単に人を斬り殺す。
いつの間に俺はこんなことになっていた?
いつからだ?
俺は、俺なのか?
峠を二つ三つ越え、一心不乱に歩き続けた。
足取りが重くなり始めた頃、ふと気づいた。
もう十日ほど、歩き続けていたことに。
「満月が、……過ぎちまった」
俺はその場に立ち止まった。
これで、次の満月まであと一月もない。
その時までに、また誰か一人を斬らなければ――俺は死ぬ。
◇
次の満月までに人を斬らなければ、俺は死ぬ。
妖刀オロチの呪いに殺されてしまう。
それでも俺は迷っていた。
「きゃあああああ!」
あの時の女中の叫び。
あれが俺の耳にこびりついている。
時折フクロウの鳴き声が聞こえる夜の山中。
樵が使うのだろう山小屋。
その前で俺は焚き火を眺めていた。
『どうした? こんな山奥では人なぞ斬れんぞ?』
オロチは今夜も囁く。
「うるせぇぞ、オロチ」
そう返しつつ、俺は夜空を見上げた。
輝くような星々、中でも存在感を示すのは三日月。
「もうすぐ上弦、かよ……」
俺は深くため息をついた。
満月までは、まだある。
だが、近づいている。
そんな俺の頬を冷たい風が撫でていく。
『何を迷っているのか知らんが、
……そろそろ始まる頃だぞ?』
そのオロチの言葉通り――、
俺の頭に痛みが走り始める。
“呪い”が催促を始めたのだ。
俺に「人を斬れ」と。
言葉だけでなく、痛みを伴って、だ。
ズキズキと痛む頭を抱え、俺は眠ることが出来なかった。
朝、俺は山を下りた。
痛む頭に顔を顰め街道へと出た。
『そうだ、探せ。次の獲物を』
オロチの囁きに俺は何も返せない。
俺は、結局、死にたくはないのだから。
『ほら、悪人顔が来たぞ』
『ああいう善人面こそ、内面では…』
『あいつ、背中ががら空きだぞ』
人が通り過ぎる度、オロチが声を上げる。
それでも俺は、オロチの収まる鞘をぐっと掴み無言で歩き続けた。
日も上り、頬に汗が流れる頃、
次の宿場町へと辿り着いた俺は、まっすぐ番所を目指した。
「せめて、悪人を……」
そう呟き、番所の戸を引くのだった。
◇
「邪魔するぞ」
俺が番所の戸を潜ると、男が二人。
羽織を羽織った侍、同心と、
着物をまくり上げ股引を履いた岡っ引き。
二人して茶をすすっている所だった。
「なんだい? あんた」
「お侍の風体だが?」
不信の目を向けてくる二人に俺は言う。
「この街で物騒な話は無いか?」
「はあ?」
「何を言っている?」
「盗賊でも何でもいい。困っていることは無いか?」
「だから、何を言って……」
岡っ引きが立ち上がり、まっすぐに俺の目を睨む。
しかし、同心が制止するように手を上げ声を上げた。
「お侍。あんた、あれか?
悪人でも捕まえて名を上げようって話か?」
「ちょっと! 旦那」
困惑する岡っ引きを押し退けるように、
俺は同心へと向き直る。
「ああ、そんなところだ」
『実際は殺す相手が欲しいだけ。だがな』
オロチの声に、黙れ!と叫びそうになるが、ぐっとこらえる。
「最近、押し込み強盗の集団が出始めてな。
俺たちも手を焼いているんだ」
「だから、旦那ぁ!」
「いいじゃねぇか。せっかく手伝ってくれるってんだからよ」
同心と岡っ引き、二人の間で話はついたようだ。
俺は事情を聞くことが出来た。
最近この街に出没するようになった押し込み強盗の集団。
商家などに押し入り、皆殺しにするのだという。
その凄惨な現場から、複数犯、集団の仕業だ、ということらしい。
「それはまた、非道い話だな」
「ああ、逃げ足も速くてな。尻尾を掴ませない」
「俺たちも見回りを強化したりはしてるんですがねぇ」
奉行所も手を焼く押し込み強盗の集団。
「今困ってるって話ならこんなところだな」
「無茶はしないでおくんなさいよ」
俺はそう言う二人の顔を見回すと、
「わかった。当たってみよう」
そう言って番所を出た。
俺は、少しだけほっとしていた。
◇
俺はさっそく宿を取ることにした。
大通りに面した大きな宿屋だ。
暖簾を潜るとすぐに、
宿屋の主人にたっぷりと銭を握らせた。
「お客さん! こんなに?」
「ああ、しばらく厄介になる」
上機嫌の主人に案内された部屋に、俺は腰を下ろした。
宿屋の二階。
窓から大通りがよく見える。
俺は道行く人たちや町の様子を眺めながら、
下がろうとする主人を引き留めた。
「食事はこの部屋で取りたい。頼めるか」
「へい」
「賑やかな街じゃないか」
「へい。ですが……」
と、言い淀む主人に俺は尋ねた。
「ですが、どうした?」
「最近、押し込み強盗の集団が出ましてね」
一つため息をついた主人が俺の隣に立った。
「あちらと、あちら。先日はあちらもやられました」
と窓の外を指さしながら教えてくれた。
そして、くわばらくわばら、と主人が下がっていった。
俺は腰を下ろし息を吐く。
「新しい情報は無かったな」
街の噂、程度の情報でもあればと、尋ねてみたが、
番所の連中と変わらない内容だった。
『なかなかやり手の連中のようだな』
「ああ、尻尾を掴ませないとは本当のようだ」
『面白くなってきたな』
「何だと?」
『忘れるな、次の満月まで、日はそう無いぞ』
「うるせぇぞ、オロチ」
オロチに言われるまでもなく、俺は意識していた。
呪いの猶予が迫っていることを。
こめかみ辺りで脈打つように響く痛みを抱えながら、
その日の夜から俺は街を歩いた。
もはや三日月どころか、
円を描き始めた月明かりの下、
俺は歩き続けた。
しかし、
「いない」
その日も、次の日も、
奴らは姿を現さない。
それでも月は少しずつ膨らんでいく。
俺は日に日に激しくなる頭痛を、
首を絞められるような息苦しさを、
歯を食いしばり耐え、
吹き出す汗を拭い続ける。
「大丈夫ですかぃ? お客さん」
明け方、宿に帰る度、
主人に心配されるほど俺はひどい状態になっている。
『どうする?』
「うるせぇ」
『斬らんのか?』
「うるせぇ」
『宿の者なぞ簡単だぞ』
オロチの声が俺の心を蝕んでいく。
「うるせぇつってんだろうがぁ!」
ドボン!
俺は足を濯ぐために用意された水桶、
そこへ顔を突っ込んでいた。
そんな俺の奇行に、「ひいぃ……」と後ずさる主人。
俺は水桶から顔を上げると、
「心配ない。疲れているだけだ」
と言い残し、その日も部屋へと帰るのだった。
◇
刻が無い――。
満月の呪い。
俺の死が決まる、その刻が近づいている。
『随分いい目になってきたぞ』
「ああ、そうかもな」
姿見に映る俺の姿。
頬はやせこけ、目の下にはひどいクマ。
だが、その目はギラギラと輝いている。
俺はもう自覚していた。
己に沸き上がるものに。
“人を斬りたい”
そんな殺人欲求に――。
それでも夕刻、
顔をひきつらせた主人を無視して宿を出た。
「まだ、猶予はある……」
そう呟き、街を歩く。
夜となり、街に人の姿が見えなくなるころだった。
『随分頑張るではないか』
そう言ったオロチに、俺は苦笑いを返した。
「ああ」
そして腰に収まる妖刀オロチに手を添えた。
「だがな」
『だが?』
「限界かもな」
そう言って俺は月を見上げ笑っていた。
声も出さず、ただ笑っていた。
『いいぞ!』
『そうだ! 斬れ!』
『衝動のままに人を斬れ!』
オロチの声も、
激しい頭痛も、
息苦しさも、
全て遠い所のこと、
そんな気分になっていた。
しかし次の瞬間だった――。
ピイイイイイィィィ!
「あれは! 呼子か!」
夜の静けさを切り裂く響き。
出たのだ!
奴らが!
押し込み強盗の集団が!
俺は一気に意識を引き戻され、
「あっちで鳴ったか!?」
と、音のした方へ走り出した。
そして着物の裾をはだけさせ走る俺をオロチが笑う。
『ハハハ』
「何がおかしい!」
『お前の顔』
『獲物を見つけた獣の顔だ』
ああそうさ。
否定はしない。
俺は今、狂喜している――。
◇
呼子の音のした方へ――。
俺はひたすらに夜の街を走っていた。
しかし急にオロチが叫んだ。
『止まれ!』
俺は立ち止まり、息を整えつつ、オロチに尋ねた。
「どうした?」
『血の匂い! 向こうだ!』
向かっていた方向とはずいぶんずれる。
それでも俺は、オロチの言うがままに走り出した。
『そこを右だ!』
『そこを左!』
『そうだ! この先だ!』
そうこうするうち、辿り着いたのはどこぞの屋敷。
長い壁の先に、大きな門。
大名辺りの下屋敷だろうか。
『ククク、息を殺しておるようだが、血の匂いはそうそう消せん』
月明かりのみが照らす、静まり返った屋敷。
その門の前に立ち、俺はオロチに念を押す。
「ここで間違いないんだな?」
『ああ、生きの良い血の匂い。間違えるはずがない』
「そうか」
俺は門の前に立ち、腰を落とした。
妖刀オロチに手を添え、居合抜きの姿勢を取った。
長く息を吸い、細く息を吐く。
そして、再び息を吸い込み――
「ふっ!」
俺は息吹と共にオロチを抜き放った。
スン!
そんな音を立て、
大きな門扉に斜めに線が引かれ、
ゴバン!
そんな破裂音がして門扉が吹っ飛んだ。
「うわあああああ!」
「何が起こった?」
屋敷内が一気に騒然となり、俺は中へと駆け込んだ。
寂れた感のある屋敷。
障子は方々で破れ、
屋根には瓦が落ちた部分も見える。
そんな屋敷の前に、十人ほどの男女が見えた。
胴丸を着込んだ侍崩れの男たち。
町人風の男や、手引き役だろう女の姿もあった。
奴らの間には、千両箱や大きな袋。
血の付いたそれらを囲み、
今晩の戦果を分けていた所のようだった。
しかし俺の姿を見つけると、
「何のつもりだ、てめぇ!」
「何でもいい! やっちまえ」
奴らは口々に叫びを上げた。
刀や匕首、手に手に刃物を持ち立ち上がる。
『来るぞ! 来るぞ!』
「ああ、そうだな」
オロチの嬉しそうな声と、
口元が綻びっぱなしの俺。
昂ぶり、殺気を巻き散らす奴らに真正面から突っ込んだ。
一閃。
二閃。
すれ違いざま、鈍い光が煌めき、
一拍遅れて血しぶきが噴き上がる。
どさり、どさり。
男も女も死んでいく。
「うわああぁ!」
奴らの叫びに恐怖の響きが混じっていく。
『いいな!』
『これだ! これが聞きたかったのだ!』
戸惑う奴らにどんどんと距離を詰め、
縦に、横に、妖刀オロチを振るう。
「ひいぃ」
刀を握りしめる男の手は明らかに震えている。
そんな男の刀ごと、俺は一刀で切り落とす。
ぶしゃああぁぁ
男の返り血を俺は浴びた。
左手の袖で頬にかかった血を拭うと、
右手に下げた妖刀オロチからも一滴、垂れた。
「さて、と」
俺は一つ息をついて振り返る。
「お前が、頭目か?」
「ひいぃ」
腰を抜かした男が、ずりずりと地べたを後ずさる。
頭目は顔面蒼白。
汗と涙をだらだらと垂らしている。
それでも震える声を振り絞る。
「ど、どうするつもりだ」
「どうする、と言われてもな」
頭目の取り落とした刀を蹴り飛ばし、俺は一歩踏み出す。
「た、助けて……」
「俺も、死にたくねぇんだ」
『ハハハ、こいつ股を濡らしておるぞ!』
オロチの嬌声を無視して、俺は赤黒く光る妖刀オロチを振り上げると、まっすぐに振り下ろした。
男は何も言わなくなった。
静けさの戻った屋敷内。
冷たく頬を撫でた風が、
俺を苛む頭痛や動悸、
オロチの呪いを払ってくれているように感じた。
俺は夜空に浮かぶ月を見上げた。
『……これで、満月までの猶予が延びたな』
「ああ」
オロチの囁きに、俺はそれだけ答えると、
妖刀を一振りしてこびりついた血を払い、鞘へと納めた。
◇
静まり返った屋敷内、
「さて、どうするか」
と俺は盗賊どもの死体を見下ろしていた。
『捨ておけ』
「そうもいかないだろ……」
番所に知らせに行くでも、このままでいいのか。
そんなことに頭を悩ませる俺の後ろで、
どたどた、と屋敷に駆け込む足音が響いた。
「これは!」
「あんた! ここにいたのか!」
番所の者たちが大勢駆け付けたのだ。
「おい!」
「へい!」
同心が指示を飛ばし、
岡っ引きたちが次々と死体を並べていく。
あらかた指示も済んだのだろう、同心が話しかけてきた。
「ここは取り潰しになった元大名屋敷でね。
こいつらもそこの侍崩れってのが大半だったらしい」
「へえぇ……」
「勝手知ったる何とやら。上手く潜っていやがったってわけだ」
「なるほどな」
そこへ岡っ引きもやってきた。
「いやぁお侍。本当に強いんだねぇ」
「ああ、こいつら侍崩れもいたってのに傷一つ受けてねぇ」
「いや、それほどでも……」
『俺のおかげだしなぁ!』
謙遜する俺に、オロチの言葉。
俺はムっとする一方で、嬉しさも感じていた。
奉行所も手を焼く押し込み強盗の集団。
それを俺が退治したのだ。
「今回の一件、本当に助かった。これは礼だ」
同心の差し出す報酬を受け取り、俺は頭を下げた。
「では、また」
俺は屋敷を出て宿へと歩く。
ジャラジャラ、と報酬の入った袋を鳴らしていると、
『上手くいったな』
「ああ、そうだな……」
頭上から俺を照らす月明かり、
それを感じながら歩く俺。
「これで良かったんだよな……」
なぜだかそう、呟いているのだった。
妖刀オロチ~最後の継承者~
①「殺す理由」
-完-




