11.変態の最後
「お願いです! こんな復讐はもうやめて、また小説を書きましょうよ。きっと誰かが見てくれます。誰かが喜んでくれます。保証します、ねぇマサクニさん!」
『うっ……うううっ……』
顔を上げたマサクニさんの目には、キラキラと光るものがあった。
『分かってたんじゃ……本当は分かってたんじゃ……。こんな事を繰り返しても、何もならん事くらい……。本当は……本当は……こんな馬鹿な事、早く止めたかったんじゃ』
マサクニさんは、自らのフンドシで涙を拭った。
『じゃが……ワシみたいな変態が……今さら仲間にして貰えるのかのう? こんな馬鹿な復讐ばかりしてきたワシを、許してくれるかのう?』
私は微笑み、マサクニさんの側に近づいた。
「……大丈夫ですよ。その気持ちがあれば、もう仲間ですよ。マサクニさんも、ネットに小説を投稿してみてはどうですか? 18禁の小説を、投稿出来るサイトもありますから」
『分かった……パソコンとかスマートフォンとか、よく分からんが勉強するぞい。もう賞なんか、どうでも良いわい。みんなに悦んで貰える、とんでもない程、えげつない官能小説を書くぞい。いつか、エロスの巨匠と呼ばれるほどに! ワシは頑張るぞい!』
マサクニさんが、元気よく拳を握った。
「……はい。あまりにも、えげつない小説だと削除されますけど……頑張って下さいね!」
『うむ、ありがとう。お嬢さん』
マサクニさんは優しく微笑むと、天に両手をかざした。
とたんに薄暗かった景色が、明るさを取り戻した。
分厚い雲は静かに消え、眩い太陽の光が差し込んでくる。
『結界は解いてやったぞい』
や、やった……助かった。
『君達には、本当に迷惑をかけた。悪かったのう』
マサクニさんは膝をつき、気絶している茜を、優しく抱きかかえた。
彼の掌から、蛍のような優しい光が、無数に発せらた。
それらは、茜の身体を労わる様に包み込む。
・。・*・゜。。・*・゜。*。+゜*.。
『これは治癒能力じゃぞい。この子にも、悪い事をしたのう』
ふと、茜が唸りながら、重そうな瞼を開いた。
「う……うう……」
「茜、大丈夫?」と、私は茜の顔を覗き込んだ。
茜は虚ろな目で、私と、抱きかかえるマサクニさんとを交互に見た。
やがて、意識がハッキリしたのだろう。
カッと両目を開いた。
「うわぁぁぁ‼︎ 離せよ‼︎ キモい、キモい‼︎」
茜はマサクニさんの手を払いのけると、身構えた。
「ちょっと茜、大丈夫だよ。もうマサクニさんは……」
『そうそう、ワシは改心したぞい。もうこれからは……』
茜が人差し指を、マサクニさんに向ける。
「喰らえっ‼︎」
___人人人人人人人人人人___
死神消滅ビーーーム‼︎
 ̄ ̄YYYYYYYYYY ̄ ̄ ̄ ̄
バリバリバリッ‼︎
『おごぉぉぉぉぉぉぉーーーー‼︎‼︎‼︎」
青い閃光が、マサクニさんの全身を駆け巡る。
「ちょ、ちょっと茜!」
「オラァァァァ!」と叫ぶ茜。
怒りが込められているためか、阿部さんの時よりも強烈だ。
やがて巨大な火柱が発生し、無数の火の玉が飛び散った。
息苦しい熱風に煽られる中、マサクニさんの、断末魔の叫び声がした。
『おごーーー‼︎ おゴー‼︎ オゴー‼︎』
オ
ゴ
ォ
ォ
ォ
ォ
ォ
ォ
ォ
ォ
ォ
ォ
ォ
ォ
ォ
・
……しーんと静寂。
とうとう、マサクニさんは消滅してしまった。
赤いフンドシだけを残して。
ポカーン。
私は呆然と、地面に横たわるフンドシを見つめた。
すると茜が駆け寄ってくる。
「春香っ! 大丈夫? 変態ジジイに変な事されなかった?」
「えっ……あ……だ、大丈夫だけど……」
その時、校舎の方から女性の声が飛んできた。
「あなた達ー! グラウンドで何やってるのー? 早く戻ってきなさいよー!」
一階の窓から、千葉先生が呼んでいる。
茜が「はーい」と手を振る。
「良かったぁ。あのジジイが死んだから、怪物になった、なぎさ先生も元に戻ってるよ」
「そ……そうなんだ……」
私はまだ、心ここに在らずといったふうに、返事をした。
「どうしたの春香? 校舎に戻ろうよ!」
「う……うん」
私は再び、マサクニさんが残したフンドシに目を向けた。
ヒュウと風が吹くと、それは天高く舞い上がった。
これで、よかったのだろうか……。
せっかく改心したのに。
私は、青空に舞う臭そうなフンドシを見上げて思った。
……いや、これで良かったんだ。
うん、きっとこれで良かったんだよ。
そういう事にしておこう。
いいですよね? 読者の皆さん。
……え? ダメ?
おわり




