致命傷なき出血死 1
2つ目の事件が始まりました!
こちらも事件が解決するまで毎日投稿します!
「なぁカレウス。 父から顔を見せろって手紙が来たんだがカレウスも来るか?」
「アタシは遠慮しておくわ。 お貴族様、しかも今ノリに乗ってるアネモネー前伯爵閣下と会うのは恐れ多いわ」
「別に気にしなくていいだろ。 そもそも君も貴族だろ」
「あら? なんの事かしら?」
「隠す必要もないだろう。 カレウス・ベルフラワー騎士爵」
「まあ乙女の過去を調べるなんて悪い人ね♡」
「いや思い出したんだ。 君は姉の護衛の1人だったろ? 察するに姉が亡くなって職を辞して、父に拾われたのか?」
「んふふっ♡ そこは違うわよ、名探偵さん♡ お義父さまから息子を支えてやってくれって頼まれたのよ」
何か今、妙な気配と怖気がしたが気に留めない。
世の中、知らない方がいいことが多いのだ。
「そうか。 君にはいつも助けられているよ。 では言い方を変えよう。 すまんが一緒に来てくれ。 面倒事に巻き込まれそうだから信頼できる人間が隣にいると助かるんだ」
「ふふっ素敵ね♡ 貴方が望むなら地獄の底まで共に参りましょう」
「君が隣にいてくれると地獄も何とかなりそうだな。 それでは父には君も連れていくと先触れに書いておくよ」
手紙にカレウスと俺の近くで「グェェェッ!」と鳴いて、カレウスに威嚇していたレリヴァも連れていくことを書いて、俺は久しぶりに実家に戻ることにした。
「お久しぶりですサウダーデ・アネモネー前伯爵閣下。 お変わりはありませんか?」
「うむ。 レフ・アネモヌン卿、カレウス・ベルフラワー卿も元気そうでなによりだ」
義母に家を追い出されてから、父と会ったのは姉の葬式の時や俺が名誉爵を頂いた時しかなく少々気まずさを感じていると父が先に口を開いてくれた。
「貴族としての挨拶はした。 ここからは家族の時間だ。 レフはもちろんベルフラワー卿も力を抜くが良い」
「ご厚意に感謝致しますわ閣下」
「それではお言葉に甘えて。 父上、なかなか挨拶もせず申し訳ありません。 いかんせん名誉爵位とはいえ、独立した爵位を貰い、家を出た身では会いに来るのは気まずくて」
義母と次男の義兄とは、折り合いが悪かったが父と嫡男で現在の当主である長男、亡くなった姉には可愛がってもらった記憶がある。
だからこそ、どうしたら良いのか分からずにいたら、父からお呼び出しが掛かったのだと思う。
「まったく。 子供がそのようなことを気にするな。 独立しようが儂の子供に変わりはない。 だから分家筋と分かるアネモヌンという家名を認めておるのだ。 お主は間違いなく儂の愛する子供なのだ」
「ありがとうございます。 父上のお言葉と愛を疑ったことはありません。 良いメイドも紹介していただきましたし」
父は庶子である俺を可愛がってくれて、最初は村長でもさせようかと教育をしてくれたのだが、俺が必死で言葉を覚えて、生きていくのに必要な歴史やマナーを覚えると高く評価して、長男の補佐をできるように高等教育を受けさせてくれたのだ。
そんな俺を危険視した義母と次男であるその息子が、父と長男が不在の際に俺を追い出してしまったために、父としても負い目があるらしく、追い出されて姉の元へ転がり込んでからもこまめに手紙をくれたのだ。
「さて挨拶はこんなものにして本題に入ろう。 さっさと終わらせて家族と客人で飯を喰いたいからな」
そう言うと父はワハハと豪快に笑う。
屈強な軍人として幾多の武功を上げた父だが、軍人というより山賊のような笑い方をするのは貴族としてどうなのだろうか?
これでも王子殿下の祖父として宮廷内で強い権力を持つらしいが、揚げ足を取られないか心配になる。
「いくつか話があるんだが、まずは軽いヤツからにしよう。 レフよ、お前は錬金術で金を作れるか?」
「唐突ですね。 答えは部分的には作れます。 何も無い状態から金を生み出したり、石を金に変えるなどは無理ですが、金が含まれている石から純度の高い金を取り出すことは可能です。 金を無から作り出すのは出来ません」
「そうか。 それなら良かった。 実は今度、錬金術で金を作るのを禁止するという法律を作るらしくてな。 まだ誰も公式には作った者はいないが今後出ないとも限らないから、早めに作ろうとクリュザンテーメ殿下が申されたのだ。 仮に過去に錬金していた者がいたら監視するべきとも仰っているのだ」
「経済をしっかり理解しているようで何よりですね。 そこら辺は私も警戒して、買い物は基本的に銀貨しか使わないし、高い物は小切手で支払うようにして金貨は使わないようにしておりますので大丈夫でしょう」
クリュザンテーメ殿下。
姉の娘で俺の姪、そして俺が世話役として色々教えた子の一人だ。
かなり地頭が良くて飲み込みも早いので色々教えてしまった。
ちなみに金を作ったことがないのは本当だ。
出来そうな気がして、試しにやってみたら本当に作れそうになってしまったので慌てて無かったことにした。
この世界の錬金術は理解、分解、再構築の基本的なものと、魔力を消費することにより足りないものを無理矢理補う方法がある。
魔力が万能すぎて多少知識や物質が足りなくても作れるので、魔力量が多いか、金の原子を知っていれば作れてしまうから規制はされると思っていた。
錬金術という名前から無限に金を作れると誤解している一般人もいるし、俺はトラブルが嫌で金貨など数える程しか使った記憶がない。
「疑う訳ではないが、カレウス卿。 その話に嘘はないかね?」
「えぇ間違いはありませんわ前伯爵閣下。 レフ様は金貨を手元に置くことがほとんどございません。 報酬で受け取ってもすぐに商業ギルドか両替商に持ち込んで鑑定してもらい、換金しております」
「しっかりしており何よりだ。 では次に今回レフを呼んだ理由なのだが、教会で少々奇妙な事件が起きている。 儂が介入するのは王家も教会も強くて面白くないが、お主なら話は別だ。 王家とも距離を取りつつ、教会に多額の献金をして信仰心が厚いお主なら良いだろう」
「私としてはあまり両方に近づきたくないのですし、錬金術と法律業で定期収入があるから、のんびりと茶を飲みつつ隠居生活を楽しみたいので、出来ることなら聞きたくないお話です」
宗教関連は深く関わってしまえばろくな事がないので、金を握らせて、定期的に祈りを捧げに顔を出して転生させてくれた神にも感謝を伝えて、熱心な信仰心を持っているように見せかけているが、それだけの付き合いに留めている。
向こうもそれを分かっているから、こちらに干渉してこないし、たまに何か話が来た場合も断ることが大半だ。
「……まあよい。 事件を解決しろとは言わんが、少し調べてみてくれ。 教会ですら分からない呪いがあるなどと民が噂すれば面倒な事になる」
「気乗りはしませんが父上の頼みなら条件次第でお受けしましょう」
「サラクタ・ヴィーゼ側妃暗殺事件の捜査資料の写しでどうだ?」
「……っ! そ、それは持ち出し禁止なのでは?」
「物を持ち出すのはもちろん禁止だが、記憶するなとは言われてないので、閲覧した後に魔法使いに頼んで記憶から複製させてやったわ! 頭がかち割れると思うほど痛かったがな」
「アネモネー閣下、このレフ・アネモヌン。 教会の件を片付けた後に、必ずや裏で手を引いた者を見つけ出しましょう」
「決して焦るなよ。 相手は陛下ですら証拠を掴めず、野放しになっておるのだ。 儂は娘に次いで息子にまで先に逝かれたくはない。 危ない時は必ず連絡を寄越せ。 お主が確信したならば証拠がなくても断罪できる。 そのために孫を政治利用してまで派閥を作り権力を握っておるのだ」
「閣下こそ、決して先走らぬようにお願い致します」
サラクタ・ヴィーゼ側妃。
大恩ある俺の姉だ。
陛下の寵愛を一身に受けた才女。
陛下も当時はかなりの力を入れて捜査したが、裏で手を引いた者だけではなく、関与した者すら見つからなかった。
結局、処罰されたのは当時の警備責任者であるグラド騎士団長、姉の部屋を警備していた近衛兵のフラベル卿だった。
俺はゆっくり息を吸って、細く長く息を吐き出して力を抜く。
酸素を取り込み、血流を良くして脳を働かせる。
「父上、教会のお話を聞かせてください」
「うむ。 毎日参拝に訪れる商家のご隠居が不審死を遂げたのだ。 いや死因は分かっている。 血が止まらなくて死んだのだ」
「血が止まらなかった?」
「そうだ。 問題はその傷なのだ。 何とその傷は髭を剃る時に少し切っただけだったのだが、自然に血が止まることもなく、ポーションを飲んでも止まらず、呪いを疑い教会に助けを求めたが呪いと判断できず、回復魔法をかけてもらうも傷が治らず、どんどん顔色から血の気が失せて2日後に亡くなったのだ」
「奇妙な話ですね。 しかしそれは病の可能性はないのですか?」
「あぁ教会もその可能性を感じて、グナー伯爵令嬢の母上であるセレン・デルン伯爵夫人に解剖を依頼したのだが、病気は見つからず死因は血を流しすぎたことによる出血死と判断したそうだ」
「疑うわけではありませんが、未知の病気を見落とした可能性も無くはないですね。 これが呪いなら教会の面子が潰れるし、病気ならばデルン伯爵夫人の面子を潰すことになりますね。 どう落とし所を持っていくのが理想でしょうか?」
おとなしく病死にしてくれよ!
ややこしくなってるじゃないか!
教会はどうせ呪いの噂や、見落としや解呪出来なかったとか悪い噂が広がるのが嫌で解剖を依頼したな!
その結果、非常にめんどくさいことになってしまったと。
デルン家は貴族社会でも信頼が厚く、民を格安で診察をしたり、薬を処方しているので彼らからも人気が高い。
これは政治だろ!
探偵じゃなくて落とし所を探すなら大岡越前守様や一休宗純を呼んでくれ!
「自然死が理想だが、教会とデルン家から調べてみてくれと頼まれておる。 解決できなくてもお主も何も分からぬとなれば、前世の行いが悪かったなど適当な理由をつけて、噂が消えるのを待つことになるだろう。 大事なのはお主が調査に乗り出したという事実なのだ」
「そういうことならお受け致しましょう。 真実を見つけてしまった場合は閣下に一番にご報告に参ります」
「分かった。 レフ、頼むぞ」
最悪の事態を想定して、俺は父に丸投げする許可を得る。
話を聞いてみないと分からないが、ご高齢なら普通に傷の治りが遅くなっている時に、別の要因で死亡してしまったとかもあるだろう。
ファンタジー的な考えなら髭剃りが魔剣の類いで、傷つけたら治らないタイプの物で、老人は呪われてないが道具が呪われていたなどの仮説も思いつく。
「レフよ。 考えるのは明日でもよかろう! 今日はお主とベルフラワー卿の話を聞かせてくれ。 久しぶりの息子との食事なのだ。 つまらん顔をするでない!」
父はそう言って豪快に笑う。
俺は安楽椅子探偵じゃないんだ。
現場に行って調べて、足を使わないとダメなんだから今は考えるのをよそう。
その日、俺は10年と少し振りに父との食事を楽しんだ。
この事件が終われば人物紹介を挟むつもりです。
ミステリーは人が多くて分からなくなるや、カタカナで人が覚えられない等があると思いますので、簡単な人物紹介を読んでから、見直していただけると、より読みやすくなると思います。
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