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神位の書  作者: KATSUMI


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間章 絆 〜其の伍〜


弟たちの帰りが遅いため、迎えに来た月読ツクヨミ。彼女が目にしたのは、血の海に沈む少年たちと、荒れ狂う伝説の巨獣であった。


光景を目にした瞬間、月読の中にある《神力》が、天明の瞳に呼応するように呼び覚まされた。

(…!?)

瞬時に月読の頭の中に、四人の身に何が起こったのかが映像のように流れ込み把握する。


「……そこまでです!」

凛とした、そしてすべてを包み込むような清涼な声が、絶望の淵に響き渡った。


——天明が『未来』を見るならば、彼女が司るのは『過去』。


「……翼竜よ。真実を、その魂に刻みなさい」

月読が天明の隣に立ち、両手を広げる。彼女の瞳が銀色に輝くと、その波動は翼竜の脳へと直接流れ込んだ。


月読の『過去視』によって暴かれた真実。特権階級の連中が卵を盗みとると、天明たち四人より先回りをし、卵を割る映像が竜の意識を埋め尽くした。


「グオォォォォォォォッ!!!」


咆哮の質が変わった。

翼竜は天明たちから視線を外し、森の奥で、自分たちの計画が成功したと確信してほくそ笑んでいた黒幕たちへと、その巨大な質量を叩きつけた。


阿鼻叫喚の地獄。

竜は悪意に満ちた者たちをその顎ですべて飲み込み、汚れを清めるかのように一際高く吠えると、嵐のような羽ばたきと共に大空へと消えていった。




静寂が戻った森の中で、天明はシヴァを抱きしめたまま慟哭していた。

「……いやだ、シヴァ……! 僕と一緒に、世界を……面白くするんじゃなかったのかよ!!」


月読が静かに歩み寄り、シヴァの傷口に手を添えた。だが、彼女の『過去視』は起きた事象を見せる力であり、失われゆく命を繋ぎ止める治癒の奇跡ではない。

彼女にできるのは、ただその最期を、真実と共に看取ることだけだった。


「……は、はは……。天明、そんな……顔、すんなよ……」

シヴァが途切れ途切れに言葉を漏らす。その肌は、毒の影響で透き通るように白くなり、指先から温度が失われていく。


「喋るな、シヴァ! 今、今すぐ街に戻れば……!」


「無駄だ……自分が、一番……分かってる……」


シヴァは震える手で、隣に立ち尽くす須佐能袁と阿修羅を見上げた。二人の目からは、隠しようのない大粒の涙が溢れ、地面を濡らしている。


「……なぁ、みんな。……結局、俺が……一番、強かった……だろ?」

シヴァが無理に口角を上げ、弱々しく笑った。北大陸の怪物と呼ばれ、誰よりも孤高で、誰よりも「最強」に執着していた彼が、最期に求めたのは仲間たちからの承認だった。


「ああ……ああ、当たり前だろ! お前が一番だよ! お前が最強だ!」

「うん……、そうだよシヴァ……。あたい、あんたには勝てないって、今分かったよ……っ!」

須佐能袁と阿修羅が、溢れんばかりの涙をこぼしながら、何度も、何度も頷く。


「ダメだ……! ダメだぁぁぁー!! 行くな、シヴァ! 行かないでくれ!!」

天明が叫ぶ。黄金の瞳に『未来』が見えていても、その未来を変える力がない。その無力さが、天明の心をズタズタに切り裂いていた。


シヴァは最後に、愛おしそうに三人、そして月読を見渡した。

「……俺たちは、ライバルで……最高の、友だ。……出会えて、良かった……。ありがとう……」

その言葉を最後に、シヴァの瞳からスゥーっと光がゆっくりと消えていった…


握りしめていた天明の衣から力が抜け、静かにその手が地面に落ちる。


「シヴァ……? う、嘘だろ。なんとか言えよ、お、おい!!何でもいいから喋ってくれ!!シヴァァァァァァァァッ!!!」


天明の絶叫が、暗くなった森に虚しく響き渡った。


最強を競い合った四人の絆。それは、あまりにも早すぎる欠落という深い傷を刻み込み、少年たちの「子供時代」を永遠に終わらせた。


月読は、弟を抱きしめ、物言わぬ骸となったシヴァの傍らで静かに涙を流した。



この日、大和の地に、一人の天才が散り、三人の「怪物」が本当の意味で覚醒した。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


——あの日から、十年の歳月が過ぎた。


かつて泣きじゃくっていた少年二人と少女は、大陸全土を震わせる圧倒的な「個」へと成長を遂げていた。


都の中央、世界の中枢に相応しく空に浮し純白の城『ウラノス』の頂上。

そこには、三つの椅子と、主を失ったまま置かれた「四つ目」の椅子があった。


「……相変わらず、ここは風が清々しいな」

最初に沈黙を破ったのは、白い帝都の正装を着こなし、腰に愛刀『草薙剣』を佩いた青年——須佐能袁スサノオだった。十年前の生意気なガキの面影は消え、その佇まいは荒れ狂う海を鎮めるような、底知れぬ覇気を纏っている。


「ふん。あんたが軟弱になっただけじゃないのかい? スサ」

赤い髪を短く刈り込み、背の丈ほどもある巨剣を軽々と背負った女性——阿修羅アスラが、不敵な笑みを浮かべて隣に立つ。彼女の周囲の大気は、常に陽炎のように揺らめき、近づくものすべてを威圧していた。


二人は視線を、中央に座る人物へと向けた。


白銀の装束に身を包み、目を閉じて瞑想する青年。

かつて「一番強いのは誰か」と問いかけていた少年、天明アマテラス


彼が目を開けた瞬間、世界が静止したかのような錯覚を覚えるほどの静謐な圧が広がる。


「……二人とも、来たね。準備はいいかい?」


「ああ。西大陸の平定は終わった。これからは、力による支配じゃない。俺たちが誓った『法』の時代だ」

須佐能袁が頷く。彼は月読への恋心さえも、国を護る「誠」の力へと変えていた。


「北の大地も、私がねじ伏せてきたよ。……あいつの故郷は寒くて仕方ないや、フフ」

阿修羅が、シヴァの面影を追うように北の空を睨む。


天明は立ち上がり、誰も座っていない四つ目の椅子を見つめた。

そこには、かつてシヴァが愛用していた、刃の欠けた漆黒の剣が静かに供えられている。


「……シヴァ。君が言った通り、君が一番強かった。……だから、君が望んだ『秩序』は、僕たちが形にするよ。誰もが理不尽に命を散らさない、そんな世界を」

天明の背後から、静かに月読ツクヨミが歩み寄る。

彼女は、弟と、かつての少年たちの成長を慈しむように見守っていた。彼女の『過去視』は、今や大和の正しき歴史を刻むための「鑑」として、政治の中枢を支えている。


「『大天位』……。人々は僕たちをそう呼ぶ。けれど、僕たちはただの、一人の友に誓った言葉を守る『剣士』だ」


天明が右手を差し出す。須佐能袁と阿修羅がその上に手を重ねた。

三人の『大天位』による統治の始まり。

それは、友の死という絶望から生まれた、世界で最も強固な『絆』の証明であった。






          間章 絆 ——完。






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