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神位の書  作者: KATSUMI


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間章 絆 〜其の肆〜


一週間の過酷な修行を経て、天明、須佐能袁、阿修羅、大黒天の四人は、その圧倒的な天賦の才を見せつけていた。第一の試練『不動の刻』を精神の昂ぶりでねじ伏せ、第二の試練『鏡面の乱』では己の限界を打ち破り、四人は揃って最終試練への切符を手にしたのだ。


しかし、その快進撃を快く思わない勢力がいた。


「どこの馬の骨とも知れぬガキ共が、大和の誉れ高き『剣使い』の座を独占するなど、あってはならん……」

古くから試験を牛耳り、権力を維持しようとする特権階級の者たちは、四人の「不参加」を画策する。


最終試練の直前。四人が英気を養うために都の境界に近い森で休息をとっていた時のことだった。


「……おい、なんだこの妙な臭いは」

阿修羅が鼻をひくつかせ、鋭く立ち上がった。

四人の周囲には、いつの間にか割れた「卵」の殻と、粘り気のある青い液体が撒き散らされていた。


「これ……ただの卵じゃない。『古龍の卵』だ……」

大黒天が冷徹な声で呟く。


「はめられたな。……誰かが卵を盗み、俺たちの仕業に見せかけたんだ」

須佐能袁が剣を抜き放つ。その瞬間、空が、巨大な影に覆われた。


「グガァァァァァァァァァッ!!!」


鼓膜を突き破らんばかりの咆哮。

雲を割り、降りてきたのは、黄金の瞳に怒りの炎を宿した、伝説の巨獣。


この地の守護神とも称される『翼竜・グランディオス』。

我が子を奪われた(と思い込んだ)親竜の怒りは、大地を震わせ、大気を焦がした。


「……っ、冗談だろ!? こんな化け物、今の中央大陸にいたのかよ!」

須佐能袁の顔から余裕が消える。


現在の彼らは、確かに天才だ。だが、まだ「大天位」に至る前の、成長途上の少年少女に過ぎない。対する翼竜は、一国を滅ぼしうる伝説の災厄。


「逃げるか……? いや、間に合わねぇ!」

阿修羅が巨剣を構えるが、翼竜が羽ばたくだけで突風が吹き荒れ、木々がなぎ倒される。


「みんな、落ち着いて! 誤解を解く時間は……なさそうだね」

天明が冷や汗を流しながらも、瞳に静かな光を宿す。


翼竜が大きく口を開けた。その奥に、すべてを灰にする『竜息ブレス』が渦巻く。


「来るぞッ!!」


なんとか初手の攻撃を四人はギリギリで四方へ飛び避ける。


「……っ、嘘だろ!? なんだよ、この圧は……!」

須佐能袁が膝をつき、必死に剣を支えに立ち上がる。


十歳の少年少女。武士としての位階でいえば、既に『武位』に相当する早熟な天才たちであったが、目の前の災厄はあまりにも格が違いすぎた。


翼竜・グランディオス。

その一振りの翼が起こす突風は、今の四人が束になってかかっても、鱗一枚に傷をつけることすら叶わない絶望的な存在。


さらに、森の影から一人の男が悠然と姿を現す。

「くふふ……。竜の餌食になるか、私の刃に伏すか。どちらにせよ、ここで終わりだ」

それは、四人を疎む勢力が放った『超位』の称号を持つ暗殺剣士。


竜の怒りを利用し、彼らを確実に始末するために雇われた、大人たちの汚い「毒」である。


「翼竜に勝つのは到底無理だ。……だが、あの剣士なら倒せる」

絶望の静寂を切り裂くように、大黒天シヴァが静かに一歩前へ出た。


シヴァの体から、それまでの冷徹な気配とは一線を画す、どす黒いほどに濃密な闘気が溢れ出した。実はこの四人の中で、現時点で最も「最強」に近い位置にいたのは、北の大地で修羅の如き修行を積んできた彼だった。


「俺にとっておきの剣技がある。……だが、気を練る時間が必要だ…奴から三十秒だけ時間を稼いでくれ。あの剣士さえ仕留めれば、活路は開ける筈だ!」


「!?…へぇーそんなすげーもん隠し持ってやがったのか?」

須佐能袁が、『超位』の剣士から目線を離さずに答える。


「シヴァ、あんた……。わかった、あたいらが盾になる!」

阿修羅が巨剣を構え、翼竜を警戒する。


「…最高だね」

天明は、この絶体絶命の状況で、三人と共に戦えることに、これ以上ない高揚感を感じた。


阿修羅、天明、須佐能袁は、覚悟を決めて剣を握り直す。


シヴァが目を閉じ、自身の全神経を極小の一点へと凝縮し始めた。空気が震え、彼の周囲だけ気圧が圧縮していく。全身から、漆黒の闘気が噴き上がる。現時点での四人の中で最強、その誇りを一撃に込めようと、彼が自身の「命」そのものを練り上げた、その時だった。


「…………ッ!!?」

天明の瞳が、大きく見開く。脳裏に流れ込んできたのは、数瞬先の、あまりにも残酷な真実。


『未来視』——その力が、回避不能の結末を映し出す。

(……ダメだ。シヴァの技はあの剣士を貫く。けれど、相打ちだ。あの剣士の隠し刃が、シヴァの心臓を……!!)



「ダメだ! シヴァ、だめだッ!!」


天明の悲痛な叫びが森に響く。しかし、極限まで集中を高めたシヴァの耳には、もう届かない。


シヴァの影が、黒い閃光となって走った。


【北天奥義・絶影】


「が、はっ……!?」

一瞬の交差。超位の剣士の首が宙を舞う。


だが、その刹那、剣士の手から放たれた毒塗りの短刀が、吸い込まれるようにシヴァの胸深くへと突き刺さっていた。


「……ぁ……」

シヴァの口から、鮮血が溢れる。

漆黒の闘気が霧散し、彼の身体が糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


「シヴァ!! シヴァ、しっかりしろ!!」


天明が駆け寄り、血に染まるシヴァを必死に抱き止める。シヴァの胸に刺さった刃からは、どす黒い毒が回り始め、その瞳からは急速に光が失われていく。


「……天明、か……。……あいつは、倒した、ぞ……」


「喋るな! 今、今助けるから……!!」

天明の手が震える。未来視で見てしまった「死」が、今まさに自分の腕の中で現実になろうとしていた。頭上では、依然として誤解したままの翼竜が、トドメの炎を吐き出そうと、その巨大な顎を開いている。






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