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神位の書  作者: KATSUMI


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間章 絆 〜其の参〜


須佐能袁の強引な号令から始まった奇妙な共同生活は、天明の実家である屋敷の一角を借りる形で幕を開けた。


かつては大陸各地で「怪物」と恐れられた少年少女たちが、一つ屋根の下で飯を食い、雑魚寝をする。それは、本人たちにとっても予想だにしない展開だった。


翌朝、夜明けと共に屋敷の裏庭には四人の姿があった。


「いくぞ、野郎共! ……いや、阿修羅は女だったな。とにかく気合入れろ!」

須佐能袁が愛剣を抜き放ち、一番に吠える。昨日までの気だるげな態度は微塵もなく、その剣気は鋭く研ぎ澄まされていた。


「はん、言われなくても分かってるよ。あんたのその浮ついた鼻っ柱、あたいが叩き折ってやる!」

阿修羅が不敵に笑い、巨大な剣を軽々と振り回す。彼女の周囲には、歩くだけで土が乾くような熱気が渦巻いていた。


二人が激突しようとしたその時、廊下から静かに月読が姿を現した。


「皆さん、おはようございます。朝食の準備ができましたよ」

その瞬間、火花を散らしていた二人の動きがピタリと止まる。


須佐能袁は音速で剣を鞘に収め、乱れた前髪を整えて恭しく一礼した。

「お、おはようございます、月読様! 今朝もお美しい……いや、清々しい朝ですね!」


「あはは、須佐能袁。顔が赤いよ?」

天明が隣で茶化すが、須佐能袁はそれどころではない。


そんな様子を冷ややかに眺めながら、大黒天は一人、庭の隅で静かに瞑想を続けていた。


「……大黒天様も、あまり根を詰めすぎては体に毒ですよ」

月読が大黒天の傍らに寄り、そっと声をかける。


大黒天はゆっくりと目を開けた。彼の瞳には、阿修羅のような熱も、須佐能袁のような情愛も映っていない。ただ、深い夜の海のような静寂があるだけだった。

「……情など、剣を鈍らせる不純物だと思っていた。だが、貴女の気配には、不思議とそれを感じない」


「ふふ、お褒めいただいたと思っておきますね」

月読は微笑み、四人を食堂へと促した。


食卓を囲む四人の空気は、どこか不思議な均衡を保っていた。

西大陸の覇道、東大陸の武勇、北大陸の静寂。そして、中央大陸の「くう」を体現する天明。


「ねぇ、みんな。試験に受かったら、何がしたい?」

天明がふと、茶碗を置いて問いかけた。


「決まってんだろ。俺は一番になって、世界中に俺の名を知らしめる。そして……ツクヨミ様を守れるくらいの男になる!」


「あたいは最強の証明だよ。女だからって舐めてくる連中を、一人残らずぶっ飛ばすんだ」

須佐能袁と阿修羅が即座に答える。


大黒天は、手元の白米を見つめたまま静かに言った。

「……私は、この濁った世界の理を断ち切りたいだけだ。力こそが秩序となる未来をな」


三人の答えを聞き、天明は満足げに頷いた。

「みんなバラバラだね。でも、いいと思う。僕はさ……君たちみたいな強い人たちが笑って飯を食えるような、そんな世界にしたいんだ」


まだ夢物語のような言葉だったが、その場にいた誰もが笑わなかった。

彼らの間には、昨日まではなかった「信頼」という名の、細くも強い糸が結ばれ始めていたのだ。


「……そういえば天明、肝心の『課題』は何なんだ? ただの野良試合じゃねぇんだろ?」

須佐能袁が握り飯を頬張りながら尋ねた。西、東、北から集まった彼らにとって、大和の認定試験の詳細はまだ謎に包まれていた。


天明は茶をすすり、少し真剣な目つきになって答える。

「今年の課題は三段階。……最後の一つが、かなりエグいんだ」

天明が語った認定試験の内容は、以下の通りだった。


第一の試練——『不動のとき

都の結界内に設置された「重圧の石陣」を突破すること。

ただの石ではなく、受験者の殺気や魔力に反応して重力を増す特殊な呪具だ。精神を研ぎ澄まし、己の力を完全に制御できなければ、一歩も動けずに押し潰される。


第二の試練——『鏡面のらん

鏡の迷宮に入り、自分自身の「影(幻影)」と戦うこと。

自分の得意技、弱点、そして心の奥底にある「恐怖」を完璧にコピーした影を打ち破らなければならない。自分を超えられない者に、剣使いの称号は与えられない。


第三の試練——『万軍の軍旗ぐんき

「数万の機兵人形ゴーレムが守る広大な演武場を駆け抜け、中央に立つ旗を奪い取ること」

ただし、これには残酷なルールがある。

「旗は一本ではない。だが、合格者の定員は、その年に用意された旗の数(わずか数名)に限られる」ということだ。


「……つまり、最後は受験者同士の『奪い合い』になるってことか」

大黒天が冷たく言い放つ。


「へっ、面白ぇじゃねぇか。数万のデカブツをなぎ倒して、最後に残った数人で旗を取り合う……。まさに最強を決めるにふさわしい舞台だな!」

阿修羅が拳を鳴らし、瞳に闘志の火を灯す。


「……でも、困ったな」

天明が困ったように笑う。

「旗の数は、毎年決まってないんだ。もし三本しかなかったら、僕たち四人のうち一人は……」

その言葉に、食卓が一瞬静まり返った。


昨日まで他人だった彼らだが、この数時間で奇妙な仲間意識が芽生え始めている。だが、試験は非情だ。


「……フン、心配すんな」

須佐能袁が立ち上がり、月読の方をチラリと見てから、不敵に笑った。


「俺たちが全員、圧倒的な力を見せつければ、試験官も旗を増やさざるを得なくなる。……だろ? 四人で合格して、四人でこの国を、いや、世界を驚かせてやろうぜ」


「……おめでたい奴だな。だが、悪くない」

大黒天も、わずかに口角を上げた。


「あはは、そうだね。じゃあ、決まりだ! 課題は『全員で旗を掴むこと』。……さあ、飯を食ったら修行の続きだよ!」


天明の号令に、四人は力強く頷いた。

一週間後。大和の歴史が動くその日に向けて、四人の少年少女は、より一層激しく、互いの魂をぶつけ合い始めた。



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