間章 絆
今となっては遥か昔話——
一週間後に、一年に一度開かれる『剣使い』の認定試験を控え、世界中から受験者たちが集まり中央大陸の大国・大和の街は多いに賑わっていた。
それもそのはず、この世界で剣使いとして認められることは憧れの象徴であり、名誉、権力、金を手に入れることができる近道だったのである。
「西大陸から来たヤツが、めちゃくちゃ強いヤツらしいぜ!」
「ホントかよー!?俺は昨日間近で見たんだ。東大陸から来たヤツが一番つえーと思うぜ。」
「いーや、やっぱ北大陸の怪物と言われたアイツが一番だと、俺は掛けるぜ!」
「待て待て待て、最強はここ中央大陸の都でナンバーワンの…」
「………ふーん、で、結局誰が一番なの?」
いきなり誰が一番強いのかで盛り上がっている三名の男たちの中に一人の女…というより少女のような容姿だが、声と仕草から少年とわかる十一、二の子供が話しかけた。
「んー?ガキは引っ込んでろ」
三人の内、一人の男が仲間と激論を楽しんでいたのに、話を遮られ鬱陶しく言葉が出た。
「まーいいじゃあねーか、ハハハ。ガキよく聞けよ、俺は絶対に東からきたヤツが一番だと思うぜ!」
「へぇー、その四人の名前は何でいうんだい?」
興味津々で、少年が眼を輝かせその男に聞く。
「んー?、教えてやるよ。東大陸からは『阿修羅』、西は『須佐能袁』、…そして北は『大黒天』だったかな。お前、もしかして目指しているのか『剣使い』を?バカな事は言わないからやめとけ。お前のようなチンチクリンなガキがする喧嘩とは訳が違うんだぞ、ハハハ」
「……ふーん、『阿修羅』に『須佐能袁』、それに『大黒天』かぁ」
少年は男が馬鹿にするような笑い声を気にする風でもなく、教えられた名前を頭の中で反芻するように呟いた。その瞳には、恐怖ではなく、どこか遠くを見据えるような静かな熱が宿っている。
「なんだよ、その顔は。怖くてチビりそうか?」
「いーや、全然」
少年はニカッと、屈託のない、それでいてどこか肝の据わった笑みを浮かべた。
「教えてくれてありがと。その三人……いつか俺が全員ぶっ飛ばして、一番になってやるからさ。覚えといてよ、おじさん!」
「ハ……ハハハ! 言ったな、このガキ! 威勢だけは一人前だ!」
男たちは腹を抱えて笑い飛ばしたが、少年はふわりと微笑み、男たちの目を真っ直ぐに見つめた。
その瞬間、男たちは背筋に冷たい刃を当てられたような錯覚に陥り、言葉を失った。
「一番強いのは、僕が一番よく知ってるからさ」
少年はそれだけ言い残すと、喧騒の中へと軽やかに身を躍らせた。
少年の名は、天明。
後に大和の頂点に立ち、絶対的な「帝」として君臨することになる少年である。
夕暮れ——彼は街の喧騒を離れ、都を一望できる小高い丘へと登ると、そこには、三人の先客がいた。
一人は、燃えるような紅い髪を逆立て、炎のように熱そうな男まさりの少女。
一人は、無造作に束ねた髪を風に流し、退屈そうに空を仰ぐ青い着物の少年。
そしてもう一人は、静かに目を閉じ、周囲の空間すら凍てつかせるような冷徹な気を纏う少年。
「……また、妙な気配が登ってきたな」
青い着物の少年——須佐能袁が、薄らと目を開けて天明を捉えた。
「おいおい、そんな細っこいガキがこんな所まで何の用だ? ここは腕に覚えのあるヤツの溜まり場だぜ」
紅い髪の少女——阿修羅が、野性味溢れる笑みを浮かべて立ち上がる。
天明は怯むことなく、三人の中心へと歩み寄った。
「やあ。君たちが、街で噂の『大陸の天才』たちだね。僕は天明。……ねぇ、君たちの中で誰が一番強いの?」
その問いに、今まで沈黙を貫いていた三人目の少年——大黒天が、静かに瞼を持ち上げた。その瞳は、深淵のように暗く、澄んでいた。
「誰が一番か、など。……一週間後には、嫌でも判明する事象だ」
「あはは、そうだね。でも、そんなに殺気立ってたらもったいないよ。せっかくこれだけの才能が揃ったんだ」
天明はそう言って、三人の横に当たり前のように腰を下ろした。
後に世界を統治することになる三人と、その裏で『絆』を深めることになったきっかけの一人の邂逅。
大和という国の形を、そして世界の運命を決定づける『絆』の第一歩は、この名もなき丘の上から始まった。




