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神位の書  作者: KATSUMI


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第九章 楽園2 〜其の陸〜


陽炎と雫は空を見上げる。

「……陽炎、空が……青いよ」

「ああ。……帰ってきたんだな、俺たち」


背後では、ノヴァが力尽きたようにその場に座り込み、蒼波と紫苑が互いの無事を確認し合うように静かに頷き合っている。


その五人の前に、ゆっくりと三人の『大天位』が歩み寄った。


「須佐能袁様、阿修羅様……そして帝様。ドヴォルグの件、ありがとうございました。」

ノヴァが代表して深く頭を下げる。


「礼をする必要はない、ノヴァ。お前たちは己の矜持(きょうじ)を、そして大和の民としての誇りを示した。……見事であったぞ」

阿修羅が掌をノヴァの肩に置く。その言葉には、厳格な上司としての顔だけでなく、教え子の生還を心から喜ぶ武人の情が籠もっていた。


「ま、俺としてはもう少し早く助けに行きたかったんだけどな。帝が『彼らの限界と可能性を見極めるまで待て』なんて言うもんだからさ」

須佐能袁がおどけたように肩をすくめるが、その瞳は陽炎が纏う「心眼」の気配を敏感に察知し、満足げに細められた。


帝・天明——シャナは、静かに歩み寄り、陽炎と雫の前で足を止めた。

「陽炎、雫。……ドヴォルグの呪い、そして九商の誘惑。それらすべてを跳ね除け、お前たちは自らの価値を自らで証明した」


シャナが扇を閉じ、雫の頬に優しく手を添える。


「雫。もうお前を『道具』と呼ぶ者は、この大和には一人もいない。お前は私の友人であり、この国の誇りだ」


「……っ、はい……! ありがとうございます、帝様……!」


雫の目から、大粒の涙が零れ落ちる。それは悲しみでも恐怖でもない、本当の意味で自由を手にした喜びの雫だった。


「さて! 感傷に浸るのもいいけれど、まずはゆっくり休みたまえ。……報復の準備や、国際社会への『商談』は、この私が直々に進めておいてあげるからね」


シャナが不敵に、そして慈愛に満ちた笑みを浮かべる。




帝都の一角にあるホテル。

激闘から数日が過ぎていた。帝都の中枢、ウラノスでは、『帝・天明』による、ドヴォルグ王国への苛烈なまでの外交攻勢が吹き荒れていた。


「……闇の兵器商人の楽園と手を組み国民を支配、大和の守護職を拉致、あまつさえ異次元に監禁。これは明白な宣戦布告と受け取るが、異存はないかな?」

帝・天明として、笑顔で突きつけた親書に、ドヴォルグの王侯貴族たちは震え上がったという。反乱軍による内乱中も含め、『楽園』という経済的・軍事的支柱を失った彼らに、大和の怒りを買う力は残されていなかった。

結果として、ドヴォルグは天文学的な賠償金の支払いと、雫に対するあらゆる権利の永久放棄を認める条約に調印した。


もはや、雫を縛る鎖は、紙の上の契約すら残っていない。


夕暮れ時。陽炎の家の縁側で、五人は久しぶりに顔を揃えていた。


「はぁー……やっぱり大和の酒とメシは最高ね!」

蒼波が満足そうに、豪快にジョッキを煽る。その隣では、紫苑が穏やかな表情で茶を啜っていた。


「師匠、飲みすぎです。お体に障りますよ」


「いいんだよ、本当の意味でドヴォルグの解放記念日だ! フィーネ、反乱軍に乾杯だ!な、ノヴァもそう思うだろ?」


「……節度を守るならね。今回ばかりは我慢しろとは言えないわ」


ノヴァは静かに、しかしどこか満足げに、庭を眺めながら酒杯を傾けていた。その視線の先には、庭の木々を珍しそうに眺める陽炎と雫の姿があった。


「……陽炎」

雫が、夕陽に照らされたアゾットの柄に触れながら呟く。


「なんだ?」

「私……あの日、陽炎が助けに来てくれたとき、本当に嬉しかった。でも、それ以上に、陽炎と一緒に戦えたことが……一番誇らしかったの」


雫は真っ直ぐに陽炎を見つめた。その瞳には、かつての怯えや絶望の色は微塵もない。


「これからは、守られるだけじゃなくて、陽炎の隣で、一緒にこの国を守っていきたいな。……いいかな?」


陽炎は照れくさそうに頭を掻き、空いている手で雫の頭を乱暴に、けれど優しく撫でた。


「……当たり前だろ。お前がいると、俺はいつも以上に力が漲るんだわ。これからも、よろしくな、雫」


「……うん!」


二人の会話を、いつの間にかノヴァの横に来ていた蒼波と紫苑も含め、三人は温かい目で見守っていた。


かつては「呪われた道具」として出会った二人が、今や互いの欠けた部分を補い合う、かけがえのない半身となっている。


ノヴァが陽炎に向かって大声を出す。

「おーい、阿修羅様からの伝言よ!明日からまた地獄の稽古再開だって。覚悟しときなさいよ、陽炎!」

ノヴァの茶化すような声が響く。


「……げっ、マジかよ」

陽炎の情けない声に、その場にいた全員が吹き出した。


楽園という名の悪夢を乗り越え、雫は本当の意味で、この世界での「居場所」を仲間たちに助けられ、この手で勝ち取ったのだ。


沈みゆく太陽が、五人の影を長く、強く、大地に刻んでいた。




         〜第九章 楽園2〜 終




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